怪人の生態と正体
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「……怪人イタチソードについてよ」
 
怪人イタチソード。
 
先日の中野駅前に現れた、ダークスフィア四騎将の一人。
こよみさんですら苦戦し、策を弄して何とか撃退した、あの……。
 
「そ、それで、その怪人がどうし……」
「ちょっと待って!」
 
先輩に話し掛けようとしたところで、突然会話を遮られた。
そして、先輩は部屋に置いてあったメモ帳を手に取ると、スラスラと書き出し、僕達に見せた。
 
『ヴレイウォッチとタブレットを置いてついて来て』
 
「先輩、これ……」
「いいから」
 
先輩は有無を言わせないと、視線で合図し、手招きして外へと促す。
 
僕とこよみさんはお互い顔を見合わせると、仕方なく先輩の後について行くことにした。
 
部屋を出て向かった先は、隣の先輩の部屋。
 
「おじゃまします……」
 
中に入ると、意外と整理整頓されていた。
先輩だったらもう少し乱雑になっているのかと思ったんだけど。
 
「ふう……とりあえず座って。今、お茶を出すから」
「は、はあ……」
「あ、そうそう、もう会話しても大丈夫よ」
 
ん? 本当に一体どういうことなんだろう?
 
「な、なあ耕太くん……」
「ええ……とりあえず、先輩から話を聞いて、それからですね」
 
すると、先輩がティーポットとカップ三つをお盆に乗せて戻って来た。
 
「お茶請けはないけどゴメンね」
「あ、いえ、お構いなく……それで、どういうことですか?」
「うん、まずこの部屋に移動してもらったのは、二人にヴレイウォッチとタブレットから離れて欲しかったから」
「はあ!?」
先輩の言っている意味が分からず、こよみさんは呆けた声を上げた。
「……先輩、司令本部に聞かれたくないことがある、ということですか?」
「正解」
「こ、耕太くんどういう意味なん……?」
「ほら、ヴレイウォッチとタブレットから、僕達の会話が司令本部に筒抜けですから」
「あ……」
こよみさんも気がついたようだ。
そう、ヴレイウォッチとタブレットには通信機能が備わっており、司令本部と繋がっている。
そして、僕達の意思にかかわらず、司令本部はいつでも僕達の会話を聞くことができる。
「そういうこと。ま、話を聞かれないように後で私が改造してあげるから」
「そ、そんなことができるんですか!?」
先輩、今さらっとすごいこと言ったぞ!?
ヴレイウォッチを改造するなんて……。
「あ、ほら、私は今でこそヴレイバイオレットだけど、それまでは怪人スオクインだったのよ? ダークスフィアの技術力、舐めないでよね」
「なんの自慢してんねん……」
 
こよみさんが呆れた様子でツッコミを入れた。
 
「そ、それで、怪人イタチソードのことで、ってことですけど……」
話が逸れてしまいそうだったので、僕は軌道修正した。
今はイタチソードの話が先だ。
「あ、そうそう。それで、彼女なんだけど……その前に、二人には怪人について知っておいてもらいたいの」
「怪人について……それって、怪人が元ニンゲンだってこと、ですか……?」
そう尋ねると、先輩は無言でコクリ、と頷いた。
 
そう、僕達は正義の元に怪人と闘い、そして倒している。
だけどそれは、周り回ればニンゲン対ニンゲンなわけで……。
 
「……私も元ダークスフィアの怪人として、多くの人を怪人にしてきた……その中には、上代くんの元恋人も……」
「…………………………」
「もちろん、私は自分のしてきたことが許されることだとは思っていない……当然、いつかは報いを受けるだろうとも思っている。だけどね? 私達怪人も、ニンゲン、なのよ……」
 
先輩のその言葉は、罪の意識に苛まれているようで、縋るようで、訴えるようで……。
 
「……ちょっとだけ、ウチも分かる」
 
先輩の言葉を聞いたこよみさんが、ポツリ、と呟いた。
 
「ウチも、子どもの頃からみんなと違ったさかい、ウチっちゅう存在を認めてもらえんかって、弾かれて、除け者にされて……そんで、ヴレイファイブの一員になってもそれは変わらへんかって、せやのに組織からは怪人の相手……要は人殺しを強要されて……」
 
こよみさんはそう言うと、膝に置く拳をギュ、と握る。
 
「こよみさん……」
 
僕はこよみさんに何て言えばいい?
どうすれば、こんなつらい思いをしているこよみさんを支えられる?
 
僕は……。
 
「せ、せやけどな、ウチには耕太くんがいてくれる。こんなウチを、大好きやと言うてくれる耕太くんがいるさかい……」
 
そう言って、こよみさんは優しい瞳で僕を見た。
 
だから、僕はこよみさんのその手を握った。
こよみさんの傍には僕がいることを伝えるために、こよみさんの傍にいたい気持ちを伝えるために。
 
「……うん」
 
こよみさんがもう片方の手で、握る僕の手に重ねた。
まるで僕の想いを受け止めてくれるかのように。
 
「……まあそうね。それで、私達怪人は組織の外にいる時はね、普通のニンゲンと変わらない生活を送っているの。私が大学生として過ごしているように、そして……イタチソードが大学の講師として過ごしているように」
「「ええ!?」」
 
今、先輩は何て言った!?
イタチソードが大学の講師をしている!?
 
怪人イタチソードの特徴……。
両腕に刃を仕込んでいて、長身で、そして……………………女性。
 
「まさか……」
「上代くん、知ってるの……?」
 
まさかそんな!?
だってあの女性は、すごく優しくて、凛としていて、理性的で、どう考えても怪人とは……
 
僕はそれを否定するように思い切りかぶりを振る。
 
「な、なあ耕太くん、その、誰なん……?」
「こよみさん……!」
 
こよみさんがすごく心配そうな表情で僕を見つめる。
 
ああ、そうだ……僕がしっかりしなきゃ……。
 
その時。
 
「耕太くん、無理せんかてええんよ? ウチに耕太くんがいてくれるように、耕太くんにもウチがおる。せやから、ね?」
 
こよみさんが僕の頭をギュ、と抱き締めた。
 
ああ……こよみさん……こよみさんは、ボクがつらいと、必ず救ってくれる。
 
「こよみさん……ありがとうございます。おかげで僕は大丈夫です」
「ホンマに……?」
「はい。僕にはこよみさんがいてくれて、本当に幸せです」
「ん……」
 
こよみさんがそっと離れると、元に戻った僕の顔を見て、安心したのかニコリ、と微笑んでくれた。
その微笑みの後押しを受け、僕は先輩へと向き直る。
 
「先輩、怪人イタチソードの正体、それは……飯綱先生、ですね……?」
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は本日夜投稿予定です!
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