本町先生①
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イタチソードの中野駅襲撃から一夜空け、今日も僕は大学の集中講義を受けに来てるんだけど……。
「……先輩、なんでここにいるんですか?」
「んー? だって上代くんが集中講義受けてるって、昨日ピンクに聞いたから?」
「いや、先輩もう単位いらないでしょ?」
夏休み中も先輩は平常運転で何よりです。
「それより上代くん、私との約束は覚えてるよね?」
「約束?」
ハテ? 僕は先輩と何か約束なんてしただろうか……。
「あー! ヒドイ! 忘れてる!」
先輩が立ち上がって僕を指差しながら大声で叫んだ。
「授業の邪魔だ! 二人とも出て行きなさい!」
ホラ怒られた。
仕方ないので、僕と先輩はスゴスゴと教室を出て行く。
「……先輩?」
「え、えへ……で、でも! 忘れてる上代くんが悪い!」
この先輩、責任転嫁した!?
「そもそも僕はどんな約束をしたっていうんですか!?」
「聞きたい?」
「はい!」
すると先輩はスマホを取り出して画面をタップした。
『了解。あーでも、せっかく上代くんのために重い荷物を運んであげるんだから、それなりの見返りが欲しいなー?』
『ああハイハイ、いいですよ』
『本当! やったー!』
……これ、僕の声だ。
「ね?」
停止ボタンをタップした先輩が、ドヤ顔で僕の顔を覗き込む。
「……どうやらそのようですね」
その表情が正直腹立つけれど、僕は何とか抑え込み、冷静を装った。
「ということで、今からチョット付き合ってよ!」
「言っておきますが、こよみさんを悲しませるようなことだったら、すぐに帰りますからね?」
「もちろんよ。そんなことじゃないから……(チッ!)」
なんですか先輩、最後の舌打ちは。
「じゃあ、今から行きましょうか」
「はあ…………はい」
僕は仕方なく、先輩の後をついて行った。
……とにかく、今度からは生返事しないように気をつけよう。
◇
「さあ、ここよ」
「先輩、ここって……」
結局、先輩に連れてこられたところは、本町先生の研究室だった。
「まあまあ、とにかく入って入って!」
「わわ!?」
先輩に背中を押され、戸惑いながら研究室に入ると、そこには真剣な表情で書類を凝視する本町先生がいた。
「本町先生、失礼します」
「先生! 連れてきたわよ!」
「…………………………」
僕と先輩が本町先生に挨拶するけど、先生は僕達の声に気づかず、ただ黙々と書類に目を通す。
「「せーんーせーいー!」」
僕と先輩は声を合わせ、大声で呼びかけた。
先生は、一度自分の世界に入ってしまうと声が届かないのだ。
なので、大声で呼んでちゃんと気づいてもらうのが基本なのだ。
「……ん? おお! 二人とも、よく来た!」
ようやく僕達に気づいた先生は読んでいた書類を放り投げると、バシバシと肩を叩いた。
「え、ええと……」
「おお、これはスマン! 上代くんには痛かったかな?」
「いえ、それはいいんですが……書類、大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、ざっと読んでみたが、アレでは単位はやれんな」
そう言って先生はニカッと笑った。
「ということは、生徒の論文ですか?」
「いや? どこぞの大学教授だな」
……そうだった、先生はこういう人だった。
「それより、上代くんは急にどうしたんだ? いや、私としては上代くんがここに来るのは大歓迎なんだが」
「それは……」
僕は隣の先輩をジロリ、と見た。
「先生、上代くんが大学を卒業したら私と同じ研究員として入りたいって!」
「はあ!?」
いきなり何を言い出すんだこの先輩は!?
「チョ、チョット先輩!?」
「おおそうか! 上代くんだったらもちろん大歓迎だ! 院生のうちは無給だが、大学院を卒業した暁には好待遇を約束するぞ!」
そう言って、先生は僕の背中をバシバシと叩く。
いや、僕はまだ研究室に入るだなんて一言も言ってないんだけど!?
「せ、先生、僕は……」
「いやあ、紫村くんも入るし飯綱くんも来たし、いよいようちの研究室も充実してきたな!」
ダメだ、こんな嬉しそうな先生の前で断るだなんてとても言えない……。
僕はジロリ、と先輩を睨むけど、先輩は気にした様子もなく先生と一緒になってはしゃいでいる。
……恨みますよ? 先輩。
「まあ、そうは言っても上代くんの卒業まであと二年以上あるんだ。どんな研究をしたいか、ゆっくり考えたらいい」
僕が研究室に入るのは確定なんですね……。
「……帰ります」
「ん? おお、そうか。気をつけてな」
「じゃあね、上代くん」
先輩は笑顔で手を振るけど、僕は許しませんよ。
絶対に仕返ししてやると心に決めて、僕は研究室を後にした。
◇
■由宇視点
「……やり過ぎちゃったかなあ……」
研究室を出て行く上代くんの背中を眺めながら、私はそんなことを呟いた。
まあ、今回の件は、私は悪くないんだけど。
だって、そう仕向けるように指示を出したのは、他ならぬ本町先生なんだから。
「フフフ……これで私も紫村くんと上代くんという二人の後継者がゲットできたし、飯綱くんという優秀な助手も来てくれたし、万々歳だな!」
本町先生は殊の外嬉しそうにしてるけど、責められるのは私なんだけど……。
「なんだかなあ……」
いや、もちろん私も上代くんと一緒に研究できるのは嬉しいけど、多分、私は卒業まで延々と文句言われるんだろうなあ……。
こうなったら、ピンクを使って機嫌を取るしか……!
その時、研究室のドアがノックされる。
「はい」
自分の世界に入ってしまっている先生の代わりに、私は研究室のドアを開けた。
「本町教授、頼まれていました資料を……」
「っ!?」
私は慌ててドアから飛び退き、臨戦態勢で構える。
だって……!
「……あなた、どうしてここに……!?」
「……君は……そうか。ここにいたのだな……」
今、私が相対する長身の女性。
彼女こそ四騎将の一人、怪人イタチソードなのだから!
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は本日夜投稿予定です!
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