怪人イタチソード③
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『はじめましてヴレイピンク……私は四騎将の一人、“怪人イタチソード”だ』
タブレットには、犬の怪人が突然倒され、その後ろから現れた女怪人の、自らを四騎将の一人であると名乗る姿が映し出されている。
その出で立ちは、全身を黒のタイトスーツで覆い、両腕は肘までの手甲を、両脚は膝上までのブーツを履いていた。
そして、顔は鉄の仮面をかぶっており、その隙間から覗く鋭い眼光は見る者を委縮させる。
確かに、犬の怪人とはその雰囲気も佇まいも、そして彼女から感じる圧力も違う。
……それは、素人でしかない僕でも分かるほどに。
『さて、無粋な者もいなくなったことだ。では……始めようか!』
そう叫ぶと、イタチソードはその両腕から二本の刃を出現させると、素早く滑らかな動きでヴレイファイブへと迫る。
『っ!? みんな! 散開しろ!』
青乃さんの言葉にヴレイファイブの全員が散り散りになる。
だけど。
『くうっ!?』
イタチソードはイエローさんに狙いを定めていたらしく、一気に詰め寄るとその脚を切りつけ、イエローさんはもんどり打って倒れた。
『っ!? イエロー!』
『バカッ!? 近づくな!』
青乃さんの制止を聞かずにブラックさんがイエローさんの元に慌てて駈け寄ろうとすると、狙い澄ましたかのようにイタチソードの刃が襲い掛かり、そして。
『ぐあっ!』
あっさりとイタチソードに脚を切りつけられ、イエロー同様その場で倒れた。
「っ! 皆さん! 距離を保って!」
『『『了解!』』』
僕は慌ててタブレット越しに残る三人へ指示を出し、遠目からイエローさんとブラックさんの様子を確認する。
とりあえずは脚しかダメージを負っていないはずだけど……。
「イエローさん! ブラックさん! 状況を教えてください!」
『……こちらイエロー、左脚を切られた。だがスーツのおかげで軽傷だ……』
『……ブラックだ。コッチもイエローと同じだ』
「ありがとうございます。二人ともそこから離脱は可能ですか?」
『多分イケる。やってみるよ』
『こちらも同じく』
「ではお願いします! 離脱したら二人はそのまま退却してください!」
『『了解!!』』
よし、後は二人に任せよう。
しかし、イタチソードはどうして脚への攻撃に留めているんだ?
僕はイタチソードの不可解な行動に首を傾げる。
……とはいえ、そのおかげで二人が助かったのも事実だ。
なら。
「……青乃さん、イタチソードにこう聞いてくれませんか? 『なぜ脚だけを狙うのか』と」
『……了解』
青乃さんだけに通信してお願いすると、青乃さんは何も言わずに聞いてくれた。
『おいイタチソード! 何で脚だけ狙ったんだ!』
青乃さんはイタチソードを指差しながら、お願いした通り語りかけた。
『フ……決まっている。邪魔されたくないからだ』
『邪魔? 何をだ?』
イタチソードの意図が分からず、僕も、青乃さんも、他の二人も首を傾げた。
その時。
『なっ!?』
今度は青乃さん目掛け、イタチソードが飛び出した。
だけど。
『っ! チイッ!』
『ねえイタチソード、私のこと忘れてない?』
紫村先輩がいばらの蔦……“ヴレイウィップ”をイタチソードの脚に絡めてその動きを封じると、ギリギリと綱引きを始める。
『さあ、これで……何っ!?』
するとイタチソードはヴレイウィップをその刃で切断し、再び青乃さんに肉薄する。
『くそっ! くら……があっ!?」』
青乃さんはヴレイブーメランを投げつけようと振りかぶったけど、それを振り下ろす前にイタチソードの刃が青乃さんの脚を切りつけた。
『チッ! 舐めないでよね!』
その間に先輩がイタチソードへと迫り、左腕だけでなく右脚もヴレイウィップに変化させ、大量のいばらの蔦がイタチソードを囲んでいく。
『捕らえた!』
先輩はヴレイウィップを引き絞る。
イタチソードを圧迫させて倒すつもりなんだろう。
だけど。
『な!?』
無数に絡みつくヴレイウィップが、いとも簡単に切り裂かれ、何事もなかったかのようにイタチソードが現れた。
『ふむ……あの時よりも強くなっている、か。だが、私を止めることはできないようだな』
『ま、まだまだあっ!』
それでも、なおも先輩はヴレイウィップをイタチソードに向けて繰り出すけど、イタチソードはいともたやすく切断していく。
『どうした? もう終わり……』
『やあああああああああ!』
先輩の攻撃を全て捌き切り、口惜しそうに睨む先輩に対し尊大に振る舞うイタチソードへ、こよみさんが不意を突いた。
『むっ!』
さすがに少し焦ったのか、これまでの動きより若干のぎこちなさでこよみさんのヴレイソードを受け止める。
『そこおおおおお!』
その隙を見逃さなかったこよみさんは、畳み掛けるように剣の連撃を放った。
『ぐ……む……いい、いいぞ! そうだ! もっとかかってこい!』
『あああああああ!』
こよみさんの息継ぎをする間もないほどの連撃を、イタチソードはまるで楽しむかのように捌き続ける。
そして。
『ふっ!』
連撃の隙間をかいくぐり、イタチソードが刃を一閃させた。
『くっ!?』
こよみさんはそれをバックステップで躱すと、剣先をイタチソードの眉間に合わせる。
『ハアッ、ハアッ……!』
こよみさんの息が荒い。
あれだけの連撃を放ったんだから、それも当然だ。
「……こよみさん、イタチソードに目的を聞くフリをして、少し息を整えてください」
こよみさんは軽く頷いて了解の意思を示すと。
『……イタチソード、アンタの目的は何や?』
『フッ……知りたいか?』
こよみさんの問い掛けに、イタチソードは軽く笑った。
だけど、隙を見せる様子は一切なく、ただこよみさんを見据えている。
『そらな。何ちゅうても、仲間の怪人叩き切ってからウチ達に一人で挑んでくるんやからな』
『なに、単純な話だ。私は……私は、同胞であるゴライドウを倒したヴレイピンク、貴様の力量が知りたかっただけだ』
『ウチの力量をやて?』
イタチソードの理由を聞き、僕は違和感を覚える。
なぜ? 何のために?
こよみさんを知ってどうするつもりなんだ……?
……これは、早めになんとかしたほうがいい。
そう感じた僕は、先輩に通信した。
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次話は本日夜投稿予定です!
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