冷製パスタとビシソワーズ
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「なあなあ耕太くん、今日の晩ご飯は何にするん?」
大学内の見学という名のデートを終え僕達は近所のスーパーに晩ご飯の買い出しに来ていた。
しかし、晩ご飯かあ。
今日は暑かったから、冷たくてさっぱりしたものがいいかな。
よし。
「じゃあ、今日は夏にぴったりの、トマトと大葉の冷製パスタとビシソワーズにしましょうか」
「はわあ……やっぱりすごいなあ耕太くんは! そんなオシャレな料理かて、簡単に作ってしまえるんやから!」
今日の献立を発表すると、こよみさんは尊敬のまなざしで僕を見つめてくれる。
だけどこれ。
「実は今紹介したメニュー、すごく簡単に作れるんですよ?」
「そうなん? 名前聞いてるとすごく難しそうなイメージあるんやけど……」
「そうです。ですので、こよみさんだってレシピさえ覚えれば、すぐにでも作れますから、今日も一緒に作りましょうね?」
「うん! 耕太くん、今日もウチに教えてな!」
「任せてください!」
ということで、必要な材料を次々とスーパーのかごに入れ、お会計を済ませたら部屋へと戻った。
「それじゃ、今から料理開始です!」
「おー!」
じゃあまずはビシソワーズから。
ジャガイモと玉ねぎの皮をむき、それぞれスライスにしたら、鍋を熱してバターを落とす。
「それじゃこよみさん、まずは玉ねぎを透明になるまで炒めてもらっていいですか?」
「うん! まかしとき!」
玉ねぎが透明になってきたのでジャガイモも入れて一緒に炒めて、と。
「なあ耕太くん、どれくらい炒めたらええの?」
「ジャガイモの表面が少し透明っぽくなった程度でいいですよ」
「分かった!」
こよみさんは鍋の中の玉ねぎとジャガイモが焦げ付かないように一生懸命混ぜる。
やっぱり、好きな人が頑張る姿って最高だよね。
「うん、そろそろいいかな。じゃあ今度は水を一カップ入れて、ふたを閉めてしばらく煮ましょうか」
「はわあ……そういえば、ビシソワーズってどんな料理なん?」
こよみさんが興味津々に尋ねる。
そういえば、どんな料理かちゃんと伝えてなかったな。
「ビシソワーズは、一言でいえばジャガイモの冷製スープです。夏に飲むと、冷たくて美味しいですよ」
「はわあああ……そうなんや! 楽しみやなあ!」
うん、こよみさんはこうやって素直に喜んだり、感動してくれたりするから、料理のしがいがあるよね。
こんな素敵な女性が僕の彼女で、本当に良かった。
一〇分ほど経ったら、鍋の蓋を開け、菜箸でジャガイモに刺してみる。
うん、簡単に崩れるほど柔らかくなった。
そうしたら、お湯ごとフードプロセッサーに入れ、さらに牛乳一カップ、生クリーム一カップを加えで滑らかになるまで攪拌する。
で、これを再び鍋に戻して弱火にかけ、粉末状にしたコンソメスープと塩コショウで味を調えて……。
「さて、それじゃ器に盛りつけますね」
僕はあらかじめ用意しておいたガラスの器にスープを流し込み、上からパセリをほんの少し振りかけ、器にラップをかけて、と。
「後は冷蔵庫で冷やしたら完成です」
「ホンマや! すごい簡単にこんなオシャレな料理が完成してしもた!」
「そうですね。もちろん次に作る冷製パスタも簡単ですよ?」
「そうなんやー、ウチもしっかり作り方覚えな!」
こよみさんはフンス、と両手で小さくガッツポーズをした。
僕はこの時ほどスマホをリビングに置いたままにしていたことを後悔したことはない。
スマホさえ持っていれば、この尊いこよみさんの撮影ができたのに……。
とりあえず気を取り直して。
「では次に冷製パスタを作りましょう。これはビシソワーズより簡単です」
まず、家にある一番大きな鍋にたっぷりの水と塩を入れ、沸騰するまでお湯を沸かしたらカペッリーニを茹でる。
二分経ったらカペッリーニを取り出してざるにあげて水気を切る。
トマトは一センチ角に、大葉は千切りにしたらボウルに入れ、ニンニク一片をすりおろしたものとオリーブオイル、塩少々を加えて混ぜ合わせたら、さらにそこへ水気を切ったカペッリーニを加えて和え、ガラスの皿に盛りつける。
最後に黒コショウを振りかけたら完成だ。
「ほら、本当に簡単だったでしょ?」
「ホンマやねえ……さっきのビシソワーズといい、これやったら……」
感嘆の溜息を吐きながらそう呟くと、こよみさんはチラリ、と僕のほうを見た。
「な、なあ耕太くん、その……も、もしやで? もしウチがその、料理作ったら……食べてくれる?」
こよみさんが顔を赤らめ、上目遣いで尋ねる。
そんなの……!
「そんなの当然じゃないですか! し、しかもこよみさんが作ってくれる料理だなんて……なんですかそのご褒美!」
「はわわわわわわ!?」
僕は嬉しさのあまり、こよみさんの手を取って上下に振る。
「うわあ……こよみさんの料理かあ、楽しみだなあ……」
「はうう……まだ作ったわけちゃうから、その……」
こよみさん、分かってないなあ。
「僕はですね、そうやってこよみさんが僕のために料理をするって言ってくれた、それだけで幸せなんです」
「はうう……そんなに喜んでくれたら、その、ウ、ウチも嬉しいよ……?」
……………………グハッ!
どうやら僕は今日、キッチンで尊死する運命にあるようだ。
でも、悔いはないです。
「せやから、その、待っててな?」
ハイ、たった今トドメを刺されました。
「さ、さあ! 耕太くん、ご飯にしよ!」
「…………………………ハッ!? あ、ハ、ハイ、そうですね」
こよみさんの照れ隠しを含んだ呼びかけによって、僕はなんとか意識を取り戻した。
うん、やっぱり僕を生かすも殺すもこよみさんしだい、だな。
そして僕達は冷製パスタとビシソワーズのほか、いつものように缶ビールを二本取り出してテーブルへと運ぶ。
そして。
「「いただきま……」」
——ピピピ。
無情にも、こよみさんのスマホと僕のタブレットが同時に鳴った。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は本日夜投稿予定です!
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