桃原こよみ④
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今回は第3章の幕間としてこよみさん視点でお送りします(計3話)
ウチは自分のことが嫌いやった。
その理由は言わずもがなやけど、そう思ってたウチやから、色んなものを諦めていた。
小学校の時にクラスメイトから聞いた、東京デスティニーワールドにあるっていう“白雪姫城”……ウチはいつかここに行くことを夢見て……そして、絶望していた。
そんな時、一緒に暮らしているウチの大好きな耕太くんから、デートのお誘いを受けてしもた。
しかも、行先は東京デスティニーワールド。
ウチは信じられへんかった。
だって……だって、今まで馬鹿にされて、気持ち悪がられて、誰にも相手にされへん、誰にも見てもらえへんかったウチが、まさかウチの大好きな人に誘われるやなんて……。
だけど、ウチがデートのお誘いに「うん」って返事したら、耕太くんは飛び上がりそうなほどの勢いで喜んでくれた。
ウチなんかとのデートの約束で、ホンマに心から喜んでくれた。
幸せやった。
もう、それだけでウチは何もいらへんと思った。
でも、ウチの幸せはこんな程度では済まへんかった。
だって。
日曜日になったら、耕太くんがお弁当まで作ってくれて、ウチの精一杯のオシャレをものすごく褒めてくれて、そして、ホンマにあの夢にまで見た東京デスティニーワールドに、耕太くんと一緒に来たんやもん。
それだけでもう胸がいっぱいで、どうしようもないくらい幸せな気分の時に、耕太くんはさらにウチを幸せにしてくれた。
なんと、耕太くんはウチの手を握ってくれたんや!
しかも、恋人つなぎで!
今度こそ夢やと思った。
せやから耕太くんに、これも夢なんかな、って尋ねた。
せやけど耕太くんは、これは現実で、これを夢なんかにしたくないとまで言うてくれた。
そして、これ以上はないと思ってたウチに、耕太くんはまだこれ以上があるなんて言うから、ウチはもうホンマに胸が張り裂けそうやった。
そんな気持ちのまま、ウチ達はいよいよ念願の白雪姫城に向かった。
下から見上げる白雪姫城は大きくて、そして、やっぱり素敵やった。
早速ウチ達は列に並び、そして自分達の番になって城の中へと入る。
中はもっと素敵やった。
ホンマにお城の中にいるみたいで、自分が白雪姫になったみたいで……。
そして、この白雪姫城の一番の見どころ、ガラスの棺のある部屋にたどり着いた。
白雪姫は、王子様のキスで目覚めるんやんな……。
そう思ってた時、ガイドさんが現実でも幸せになるジンクスがあるいうて説明してくれた。
その言葉に、ウチは思わず耕太くんを見てしまう。
ウチも……ウチもひょっとしたらあのガラスの棺に入って、耕太くんにキスしてもろたら……。
「こよみさん、僕の顔を見てどうしました?」
「は、はわわわわ!? え、ええと、べ、別に何でもあらへんよ……?」
「そ、そうですか……」
アカン、ウチは何を考えてるんや。
そんなこと、それこそ永遠にあり得へん。
だってウチみたいな女、耕太くんに相応しゅうないし、それに……。
うん……ウチは耕太くんとここにこれただけで、充分満足や……それ以上は高望みっちゅうもんや……。
そう自分に言い聞かせて、後ろ髪を引かれる思いで白雪姫城を出た。
もう一回、ここに来たいな……。
そう思ってたら。
「どうします? もう一回入りますか?」
その耕太くんの言葉に、ウチはついつい甘えてしもて、お昼からまた一緒にくることになった。
ウチの都合ばっかり優先してるみたいで、耕太くんはホンマに楽しんでるんやろか……。
ウチはチラリ、と耕太くんの様子を窺うと、耕太くんは本当に嬉しそうな表情でウチのことを見つめてた。
そんな耕太くんの視線に恥ずかしゅうなって、ウチは思わず俯いてしもた。
その後、デスティニーワールドの外にあるピクニック広場で、耕太くんが作ったお弁当を食べた。
そのどれもが美味しくて、ウチは夢中になってお弁当を食べた。
今日という幸せを噛みしめながら。
それから、色んなアトラクションを回って、そして、白雪姫城にも二回も入って、この目にしっかりと焼き付けた。
デスティニーワールドのキャラクターの着ぐるみとも写真を撮ったし、耕太くんとのツーショット写真も撮ったし……これはウチの一生の宝物や。
そして、今日のクライマックス。
東京デスティニーワールド名物、夜のパレード。
ウチと耕太くんは夕方になると場所取りをしに中央広場に向かうんやけど……その時に、またここに来る約束をした。
この夢の続きがまた見られるやなんて思ってもみなくて、思わず飛び上がりそうになるほど嬉しくて。
そんな嬉しいサプライズもありながら、ウチ達はパレードが始まるその時を待った。
すると、電飾の光に包まれたフロートが、ゆっくりと会場へと姿を現した。
あのおなじみの音楽と一緒に、ゆっくりとウチ達の前を通過してく。
そのキャラクター達は、ウチももちろん全部知っていて、夢中になってそれを眺めてた。
その時、ウチの大好きな白雪姫のフロートが目の前にやってきた。
ウチは興奮してそのフロートを指差しながら耕太くんに声を掛けると。
「こ、こよみさん!」
耕太くんが真剣な表情でウチの名を呼んだ。
いつもと違う耕太くんの様子に、ウチもつい緊張してしまう。
「あ、えと、その……こ、こよみさん、その……僕が……こよみさんの部屋の近くでへたり込んでたあの日……あの時、全てがどうでもよくなって、絶望して、もう壊れてもいいって思った時、こよみさんが僕を助けてくれたんです」
耕太くんが初めて出逢った、あの雨の日のことを語り出す。
ウチは緊張しながら話す耕太くんから目が離せんかって、パレードで盛り上がってるのにウチにはただ耕太くんと、耕太くんの声だけしか入ってこなかった。
「それから、こよみさんと一緒に暮らすようになって、こよみさんを知るようになって、そして、僕の中でこよみさんがいっぱいになって……」
「うん……」
ウチは思わず手を握り締める。
だって、これって……。
せやけど、ウチにまさかそんなことあるはずなくて、期待したらその分後でつらい思いするだけやって言い聞かせて、それでも、どうしても期待してまうどうしようもないウチがいて……。
「こよみさん」
耕太くんがじっとウチの目を見つめる。
ウチは……。
「こよみさん、僕はあなたが……」
その時。
「我々はダークスフィア! そして俺は四騎将の一人、怪人ゴライドウ! ここにいる全ての人間よ、絶望しろ!」
……ウチはこの時ほど、怪人を憎いと思ったことはなかった。
お読みいただき、ありがとうございました!
今回は3話構成のため、お昼前に1話、そして夜に1話投稿します!
次話はお昼前投稿予定!
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