卑屈②
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「はわああ……どれから食べよかなあ……よし! まずはなめろうや!」
そう言うと、こよみさんはなめろうへと箸を伸ばす。
そして、可愛い口を大きく開け、その中へなめろうを放り込んだ。
「うわ、耕太くんこれアカンやつや! 箸とビールが止まらへんようになる!」
そう言いながら、こよみさんがパクパクとなめろうを口に入れ、それをビールで喉に流し込んだ。
「あはは、美味しいですか?」
「うん!」
そんな風に嬉しそうにご飯を食べるこよみさんを眺めているだけで、僕のお腹は……胸は一杯です。
「あ、そや。耕太くん、それで日曜日はどんな用事なん?」
あ、そうだった。日曜日のスケジュールだけ押さえて、肝心の目的を話してなかった。
「あ、その、ええと……」
「? どうしたん?」
「……その……い、一緒に、デスティニーワールドに……行きませんか?」
「へ?」
僕がそう言うと、こよみさんはキョトンとした顔をした。
アレ? なんですかその反応?
「ええとゴメン耕太くん。デスティニーワールドってアレやんなあ? その……ネズミとかアヒルとかクマとかの着ぐるみがいて、そんで、ジェットコースターとかお城とかあったりする……」
「え、ええ……そこです」
「そこへ今度の日曜日に……ウチと、耕太くんが……一緒に……?」
おずおずと自分を指差すこよみさんに、僕は無言で頷いた。
「はわわわわわわわわわわわわわ!?」
「こ、こよみさん!?」
な、何ですかその反応!?
ひょ、ひょっとして……!?
「あのそのあのそのあの!?」
「あ……い、嫌、でしたか……?」
こよみさんに断られたらどうしよう……。
僕は死刑宣告を待つかのように、唇を噛みしめながら答えを待つ。
すると。
「……ねえ、耕太くん……その……何で?」
「はい?」
僕はこよみさんの質問の意図が分からず、思わず聞き返した。
「……何でウチみたいなん、誘ってくれたん……?」
「な、何でって! そんなの!」
って、ここで言っちゃダメだろ!?
ガマンだガマン……!
「と、とにかくその……僕は、こよみさんと一緒にデスティニーワールドに行きたいんです……!」
「せ、せやけどウチ……こんなチンチクリンやし、その、た、多分一緒にいる耕太くんまで、バカにされてしまうかもしれへんし……」
「な、何言ってるんですか! そんな訳ないですから! 僕はこよみさんと、その……デ、デートがしたい、んです……!」
「っ!」
「だ、だから……その、こよみさん……一緒に、お願いします!」
僕はチラリ、とこよみさんの様子を窺う。
こよみさんは、コチョコチョと指遊びをしながら、チラチラと僕を見てはまた俯くを繰り返していた。
そして。
「……………………う、うん……」
こよみさんは顔を真っ赤にしながら、静かに頷いてくれた。
「……や」
「や?」
「やった——————————!!!」
「は、はわわわわ!?」
僕はこよみさんがオッケーしてくれたことが嬉しくて、思わず拳を突き上げて叫んでしまった。
こよみさんは驚いているけど、僕はこの嬉しい気持ちを抑えられない。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「は、はうう……うん……」
僕は何度もこよみさんに頭を下げると、こよみさんは赤い顔のまま俯いてしまう。
「はあああ……日曜日はどうしよう……た、楽しみだなあ……」
「はうう……もうウチ、恥ずかしい……」
その後、こよみさんは無言で、僕は妄想しながら晩ご飯を食べた。
◇
■こよみ視点
「はわわわわ……どうしよう……」
ウチは布団の中に潜りながら、晩ご飯の時のことを思い出してはモジモジしていた。
「ま、まさか耕太くんから、その、デ、デートに誘られるやなんて……」
確かに、前の怪人アリスとの一件で、耕太くんはあのクソ女との関係に終止符を打ったけども……それでも、まさか自分が耕太くんからこんな風に真剣にデートに誘われるなんて、想像もしてへんかった。
……いや、それは嘘やな。
ホンマは司令本部でブルーに言われてから、少しだけ淡い期待をしとったんは事実や……。
『だってさあ、いくら後方支援だからって、自分の身の危険を冒してまであんなこと言う奴、他にいねーだろ。だったら、それに応えてやるべきなんじゃねーの?』
せやけど、せやけど……。
「ウチ……耕太くんの隣に立っても、ええんやろか……」
ウチが耕太くんを好きになってから、ずっとこればっかり考えてる。
だって、晩ご飯の時にも耕太くんに言うたけど、ウチはチンチクリンで、力だけがアホみたいに強くて、全然女として魅力のかけらもあらへん……。
そんなこと、これまでの人生でずっと言われ続けてきたことやさかい、自分が一番よう分かってる。
せやのに、せやのに……。
『そんな! 一体その組織とやらは何を考えてるんですか! こよみさんはこんなに素敵な女性なのに! それを……!』
『待つに決まってるじゃないですか! 僕は、美味しそうに食べるこよみさんの笑顔を見ながら食べたいんです! だから、これは譲れません!』
『そんなことないですよ! 餃子作った時とかも思いましたけど、こよみさん、やり方が分からないだけで、コツをつかめば絶対できますし! それに、その……こよみさんと一緒に料理したら、楽しいし……』
『僕なら大丈夫ですから! 僕は……僕は、あなたに救われたから! あなたがいるから! だから!』
『……こよみさん、だけですよ?』
『僕の作る料理は、こよみさん専用ですから』
『ね、ねえ、こよみさん。そ、その、今日も可愛いですね……!』
『こよみさん……僕、受けるよ。僕は、こよみさんを支えたい。こよみさんの隣に立ちたいんだ』
これまで耕太くんがウチにくれた言葉……ウチは全部覚えてる。
その言葉がウチにとってどれほど嬉しくて、どれほど温かくて、そして、どれほど救ってくれたか……。
そんな耕太くんが、真剣な表情でウチをデートに誘ってくれた。
耕太くんやから、ウチをからかうとか、騙すとか、打算とか、そんなもん一切なくて、ただまっすぐな、純粋な想いで……なんやろな……。
せやからこそ、ウチは耕太くんに対して申し訳なく思ってしまう。
ウチみたいな女のせいで、耕太くんの足を引っ張って、つらい思いをさせてしまうんやないかって。
でも……。
「耕太くん……ウチ、ウチ……耕太くんの隣に立ちたい、ずっと傍にいたい、よお……!」
神様がホンマにいるんやったら、どうかお願いします。
ウチみたいな女が、耕太くんの隣に立つことを許してください。
耕太くんの傍にいることを、許してください。
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次話は明日の朝投稿予定です!
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