司令本部②
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「さあ、行くわよ」
 
僕達は市ケ谷の司令本部があるビルに着き、地下駐車場から本部のあるフロアへと向かった。
 
エレベーターが目的の階に到着し、扉が開く。
 
そこには、『高田商事株式会社』と看板が掲げられていた。
 
「先輩、コレって……?」
「それはそうでしょ。わざわざ『司令本部』なんて掲げてたらバカよね?」
「……ですね」
 
だけど、高田司令の苗字をさらすのはいいのかな……。
 
そんなことを考えている間にも、先輩はカードキーにカードを差し込み、備え付けのディスプレイにナンバーを打ち込む。
 
——ピピ。
 
ロックが解除され、入口のドアが開いた。
 
そのまま慣れたように入っていく先輩の後に続き、僕も中に入る。
 
すると、オフィスのような場所の大勢の人が忙しく働いていた。
 
「コッチよ」
 
その横を通り抜け、僕達は一つの部屋の中に入る。
 
そこには、四人の男の人がいた。
 
数人前の弁当を食べている人。
スマホを弄りながらニヤニヤしている人。
腕組みしながら瞑想? をしている人。
そして、僕達を見た瞬間、僕の胸倉をつかむ人!?
 
なんで!?
 
「お、お前! 誰に断ってここに! い、いや、それより彼女とどういう関係だ!!」
「は、はい!?」
「ちょっと! やめなさい!」
 
ものすごい剣幕で詰め寄る男と僕の間に割り込み、先輩が引き離してくれた。
 
「お、おい、バイオレット! こ、この男は!?」
「はあ……昨日司令が言ってたでしょ……彼が上代耕太くんよ」
 
わなわなと震えた声で尋ねるこの男の人に対し、先輩は辟易した様子で答える。
 
うん……先輩、お疲れ様です。
 
「そうか……おい、貴様! バイオレットとも知り合いみたいだが、調子に乗るなよ!」
「…………………………」
 
なんだコイツは。
 
いきなり人の胸倉つかんだ挙句、言う台詞がこれか。
 
「先輩、もう帰っていいですか?」
「ちょ、ちょっと上代くん! 待って! ほ、ほらレッド! あなたのせいなんだから謝りなさいよ!」
「いや、だ、だが……!」
 
そうか……コイツが例のヴレイレッドか。本当に嫌な奴だな。
 
もういいや。とにかく、これ以上こんなところにいたくない。
 
僕は踵を返し、退室しようとしたところで。
 
「……ホンマ、司令は一体何の用なんや……ちゃんと晩ご飯までに帰らなアカンのに……って、耕太くん!?」
「こ、こよみさん!?」
 
ちょうどバッタリとこよみさんと出くわした。
 
「こ、耕太くん、なんでここに!?」
「あ、そ、その、高田司令が僕に用があるとかで……」
「そ、そうなんや……」
「は、はい……」
 
なんだか緊張する……。
 
こよみさんに想いを告げると決めてから、こよみさんと面と向かうと、どうしても緊張してしまう。
 
こんなことじゃ、こよみさんに変に誤解されてしまう。
と、とにかく何か話さないと……!
 
「そ、それでこよみさん、今日の晩ご飯、何がいいですか?」
「「「「は!?」」」」
 
僕の言葉を聞いた瞬間、こよみさんと先輩を除く四人がポカン、とした。
 
「きょ、今日? そ、そやなあ……耕太くんのご飯やったら何でもええんやけど、その……ハ、ハンバーグ、とか……?」
 
こよみさんはそう言うと、上目遣いでおずおずと僕を見る。
 
うわあ……たまらないなあ……。
つい抱きしめたくなる衝動に駆られるけど、何とか僕は耐えた。
 
「はい! 絶対に美味しく作りますから!」
「はわ!? ……う、うん……ありがと」
 
顔を真っ赤にしたこよみさんは俯いてしまった。
ああ……可愛いな。
 
「ねえねえ耕太くん! 私の分は?」
「ないです」
「ええ!?」
 
当たり前です。
 
「あ、そ、そやったら早いとこ司令との用件済ませて、その、い、一緒に帰ろっか……」
「は、はい!」
 
やった、こよみさんと一緒に帰れる。
 
僕は小さくガッツポーズをしていると、その様子を見ていた男の人の一人……スマホを弄っていたチャラい人がこちらに近寄ってきた。
 
「……なあなあ、お前、あのピンクと普通にしゃべってるけど、その……怖くないのか?」
 
そして、僕の耳元でそんなことを囁くと、心配そうに僕を見る。
 
ああ……この人もこよみさんのことを勘違いしてるんだ。
 
だから僕は、少しムッとしながらも、本当のこよみさんを知って欲しくて、わざとこんなことをしてしまう。
 
「ね、ねえ、こよみさん。そ、その、今日も可愛いですね……!」
「は、はわわわわわわ!?」
 
あう……こよみさんは褒めると照れて可愛くなるから、それを見てもらおうとしたんだけど、これ、僕自身も恥ずかし過ぎる……。
 
「も、もう! 耕太くん急に何を言い出すんや! し、しかも、その……ウチのこと、可愛い……って……(ゴニョゴニョ)」
 
こよみさんの抗議は、僕の言葉を恥ずかしくて言いづらいために尻すぼみになる。
 
さあどうだ! 僕もこんなに恥ずかしい思いをしたんだから、こよみさんの素晴らしさをこれで理解しただろう!
 
僕は少し誇らしげに胸を張り、チラリ、と男の人を見る。
 
すると、男の人は口をパクパクさせながら、こよみさんを指差していた。
む……その反応、それはそれで失礼な気がする。
 
「……ハ、ハハ……何だよそれ、俺が知ってるピンクと、全然違うじゃねーか……」
 
男の人はポツリ、とそう呟くと、今度は顔をニヤニヤさせながら僕を肘で小突いてきた。
 
「エ、ナニナニ? お前とピンク、ひょっとして付き合ってたりなんかしたりするワケ?」
「!? そ、そんなんちゃうわ! ………だ、大体ウチとじゃ……(ボソッ)」
 
こよみさんは男の人の言葉に、大声で否定した。ちょっとショックだ。
だけど、最後に何か呟いてたけど、なんて言ったんだろう?
 
「ハハッ! まあいいや、それよりまだ名乗ってなかったな。俺は“青乃仁”、勇者戦隊ヴレイファイブのヴレイブルーを務めてる」
 
男の人はそう名乗ると、スッ、手を差し出した。
 
「あ、僕は“上代耕太”と言います。よろしくお願い……」
「おい待てブルー! 何を勝手に部外者に名乗っているんだ! 最重要機密事項なんだぞ!」
 
僕も握手しようと手を差し出そうとしたところで、うるさいバカが絡んできた。
 
「ハア? レッド、お前こそ何を言ってるんだ? そもそも耕太は司令が呼んだんだし、ピンクとバイオレットの正体も知ってるんだぞ。意味なく耕太に絡んでんじゃねえよ」
「うぐ……!?」
 
すると、まさかのヴレイブルー……青乃さんがフォローしてくれ、このバカを窘めた。
見た目のチャラさに反して、意外といい人だった。
 
「まあいいや。それより全員揃ったんだから、さっさと司令のトコに行こうぜ。な、耕太?」
「は、はあ……」
 
青乃さん、急に距離感が近くなったな。
 
なんだろう、誰かに似てる気が…………あ、そうか、桐谷に似てるんだ。
だったら、これからは上手くやれそうかも。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は本日夜投稿予定です!
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