出逢い②
ご覧いただき、ありがとうございます!
ようやく涙も止まり、シャワーを止めて浴室を出ると、カーテンの下にスウェットの上下が置いてあった。
おそらく、彼女の父親のものだろう。
僕は、絞ったパンツを履き、その上からスウェットを着た。
下半身がゴワゴワと違和感を感じるが、仕方ない。
カーテンを開けると、待ち構えていたかのように彼女が立っていた。
「いやー、結構長風呂やったなあ。うん、お父ちゃんのスウェットやったけど、普通に着れたみたいで良かったわ。どうや? 少しは温まったか?」
「あ、うん、その……あ、ありがとう……」
「ええてええて、困った時はお互いさまや。それより、着てた服はウチが洗ってしまうから、ニーちゃんはリビングで座って待っとって」
そう言うと、女の子は洗濯機の横に置いてある洗剤を入れ、ボタンを押した。
「ん? 何や、コッチじーっと見て。ひょっとして洗濯機回すのが珍しいんか?」
いや、というか……。
「ええと……その、ご両親は?」
「へ? 何言うてるの、ウチは一人暮らしやで。両親は奈良の実家や」
は!? 一人暮らし!?
……あれかな。どこかコッチの有名私立中学校に入学して、それで別居して生活してるとかかな。
うん、深く考えるのは止めよう。
「そ、そう……」
「それより、そんなところに突っ立ってると邪魔やさかい、はよリビング行っといて」
僕は彼女の指示に従い、リビングへと向かった。
「へえ……」
リビングは女の子の部屋らしく、キレイに整頓されていた。
……見た目の上では。
僕は、クローゼットからはみ出たシャツの裾と、カウンター越しに見えるキッチンの惨状を目の当たりにした。
さっきのドタバタした音は、多分、散らかってたものを全部クローゼットに押し込めてた音なんだろうな……。
で、キッチンはキッチンで、カウンターに隠れて見えないだろうと思ったんだろう。
ただし、あくまで彼女の身長からの目線で。
僕も身長は高くないけど、それでも彼女よりは二、三十センチは高いはずだから、どうしても見えてしまう。
うん、この状態を見た限りでは、あまり一人暮らしは得意じゃないみたいだ。
うーん、でも、中学生だから一人暮らしに慣れてないだろうし、仕方ないのかな。
ま、まあ、あまり女の子の部屋をジロジロと見るのも失礼だな。
僕はテーブルの前で座りながら大人しく彼女を待っていると、彼女がリビングに入ってきた。
そして、テーブルをはさんで彼女はチョコンと正座する。
「どうやニーちゃん、落ち着いたか?」
「あ、ああ、うん……」
「そっか。そんなら良かった。見つけた時はニーちゃんの目、死んだサバみたいになっとったさかい」
死んだサバって……。
「それでニーちゃん、一体何があったんや? お姉さんが話くらい聞くで?」
いや、お姉さんって……。
さすがに中学生に失恋話なんてできる訳がない。
「いや、その、大丈夫だから……」
「ニーちゃん、嘘ついたらアカン。見つけた時、ニーちゃんは普通やなかったで。こういうなんはな、人に話すだけでも、楽になるもんやで?」
彼女は本当に心配そうな顔で僕を見つめる。
僕も思わず話してしまいたい衝動にかられてしまうが、やっぱり子どもに話す訳には……。
「ああもう! 頑固なニーちゃんやな! ほんなら、その固い舌、よう回るようにしたるわ!」
そう言うと、彼女はキッチンに向かい、冷蔵庫をガチャリと開けた。
そして何かを取り出し、こちらへ戻って来ると。
「ほら! これ飲んで嫌なモン全部吐き出して、そして、嫌なこと全部忘れてしもうたらええねん!」
テーブルに置かれたのは、二本の冷えた缶ビールだった!?
「え、ええと、これ……?」
「なんやニーちゃん、ひょっとして未成年やったか?」
「あ、ああいや、僕は二十歳だけど……」
「ほな問題ない! ウチも付き合うから、飲んで話してスッキリするんや!」
そう言うと、彼女は缶ビールを手に持ち、勢いよくプルトップを引いた……って、あああ!?
「ちょ、ちょっと! 何やってるの!?」
「へ? 何って、ウチが飲む分の蓋開けたんやけど?」
僕が慌てて彼女を止めに入ると、なぜか彼女はキョトンとした。
「い、いや、だって……」
続けて僕が止めようとすると、彼女は手で僕を制した。
「はあ……“そういうこと”かいな……」
何かを察したような彼女は手で額を押さえ、かぶりを振る。
「え、ええと、“そういうこと”って……?」
僕はおずおずと彼女に尋ねると、彼女は缶ビールをダンッ、と勢いよくテーブルに置いた。
「ええかニーちゃん……ウチは……ウチはなあ……!」
彼女が俯きながら肩を震わせ、台詞を溜めた。
「ウチはこう見えても、ピチピチの二十三歳や!!!」
……………………………………………………は?
彼女の発した言葉に、思わず僕は耳を疑った。
え!? 二十三歳!?
この容姿で!?
「なんや……文句でもあるんか?」
「あ、い、いえ……」
睨む彼女に、僕は何も言えずただただ俯いた。
「はあ……まあ、もう慣れてるさかい、ええねんけど……」
そう呟くと、彼女はそっぽを向いてしまった。
「あ、い、いえ! 少し驚いてしまっただけで! そ、その、お気遣いだったり、そういうところ、やっぱり大人だなあって……!」
あああ!? 何を言ってるんだ僕は!
全然フォローになってない!
おずおずと彼女の様子を窺うと。
「…………………………ホンマ?」
顔は明後日の方向を向いているのに、チラチラとこちらを見ていた。
何コレ、すごくカワイイんだけど。
「本当です! おかげで僕もその、元気に……」
あ……ダメだ。またアリスのあの台詞を思い出す。
「無理せんかてええよ? ホンマにつらいこと、あったんやろ? ウチもしょうもないことで拗ねてゴメンな?」
気づけば、彼女は僕を心配そうに見つめていた。
ああ……本当に優しい人だな。
「あ、い、いえ……もう、大丈夫です」
「ならええけど……」
それからしばらく、僕と彼女の間に沈黙が続く。
そして。
「あ、そ、そや! 君、名前はなんて言うんや?」
彼女は突然思い出したかのように尋ねてきた。
多分、彼女なりの気遣いなんだろう。
少し申し訳ないなと思いながらも、僕はそれに乗ることにした。
「あ、はい。僕は“上代耕太”って言います。大学二年生です」
「そっかー、耕太くんやね! ウチは“桃原こよみ”、二十三歳の社会人や!」
そう名乗ると、彼女……桃原さんは笑顔でピースサインをした。
「え、ええと、桃原さ「そんな名字なんて堅苦しい。“こよみ”でええで!」」
名字で呼んだら、速攻で否定されてしまった。
「……そ、その、こよみ、さんは、社会人ということは、どんなお仕事を?」
「え!? そ、それは……け、警備関係のOLさんや!」
警備関係……ガードマン的な感じかなあ。
「そ、そうですか……」
「そ、そや! そ、それよりも、耕太くんのこと……」
——ピピピ。
すると、突然こよみさんの腕時計が鳴りだした。
「ああもう! こんな時に! ……そ、その耕太くん! ウチ、これから急用でちょっと出かけてくるさかい、そのままここで待っとって!」
「え、ええと、それでしたらお暇しますが……」
「い、いや! すぐ! すぐ帰ってくるから!」
そう言って、こよみさんはそそくさと部屋を出て行った。
そして、たった一人で残された僕……一体どうすれば……?
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の朝更新予定です!
少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!