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正体②

ご覧いただき、ありがとうございます!

「はあ……」


 僕は病院のベッドの上で、思わず溜息を吐いた。


 結局僕の所為でこよみさんに迷惑をかけて、こよみさんに救われて……。


 情けない。


「って、違うだろ! 僕は闘えないかもしれないけど、そうじゃなくて、こよみさんを支えるって誓ったじゃないか!」


 そうだ。

 僕はこよみさんを支えるって誓ったんだ。


 だったら、こんなところでウジウジと悩んでたって仕方ない。

 僕は僕なりに、こよみさんを支えるんだ。


「だけど……はあ……」


 そうは言っても……今の僕は、左腕のひびと全身打撲で、しばらくは身動きが取れないんだけど……。


「そういえば……せっかく作ったグラタン、こよみさんに食べてもらえなかったなあ……」


 天井を眺めながら、僕はそんなことを考えた。


「うん、退院したら、もう一度グラタンを作って、こよみさんと一緒に食べよう」


 すると。


 ——コンコン。


 病室のドアをノックする音が聞こえた。


「はい、どうぞ……」


 扉が開き、そこに現れたのは。


「あ……上代くん……」


 沈んだ表情の紫村先輩だった。


「せ、先輩、どうしてここが!?」

「あ、そ、その……大学の事務室で、この病院に入院してるって聞いたから……」

「そ、そうですか……あ、ど、どうぞ! 何もないですけど……」

「あ、あはは、実はお見舞いにフルーツの盛り合わせ持ってきたから、一緒に食べない?」


 そう言って、先輩は色んな果物が入ったカゴを持ち上げた。


「あ、ありがとうございます。ええと、ナイフは……」

「か、上代くん! 私がやるからじっとしてなさい!」

「で、ですが……」

「ですが、じゃないの! あなたは大怪我してるのよ?」


 いつになく真剣な表情で、先輩にたしなめられた。


 うーん、先輩の言ってることは正論なんだけど、なんだか釈然としない。

 普段の少しおどけた雰囲気とは違うから、かなあ……。


「まあまあ、私に任せなさいな」


 先輩は病室に備え付けの丸椅子に腰かけ、肩に掛けたトートバックから果物ナイフを取り出すと、するすると手際よくリンゴの皮を剥いた。


「へえ……先輩って、意外と器用なんですね」

「“意外と”は余計じゃない? 私、一人暮らしも長いから、家事全般得意なの」

「そうなんですか?」

「ええ……うちはお母さんしかいなくて、働きに行っているお母さんの代わりに、子どもの頃から家事は私の担当だったの……」


 先輩は剥いたリンゴを櫛切りにし、真ん中の種を切り取ると、それを同じくトートバックから取り出した皿に盛った。


「はい、上代くん」

「あ、ありがとうございます……ところで、なんで先輩のトートバックには、果物ナイフや皿が入ってるんですか?」

「ああこれ? ふふ、そりゃあ淑女のたしなみ、ってところかしら?」

「淑女って……」

「……何が言いたいの?」


 先輩がジト目で僕を睨む。


 うん、だけど、先輩に淑女って言葉、似合わないと思います。

 声に出しては言わないけど。


「え、ええと、美味しそうなリンゴだなあ」

「話を逸らされた!?」


 僕は先輩に絡まれる前に話題をリンゴに変えると、リンゴをつまんで口に運んだ。


「ん、美味しいです」

「でしょ? ここのフルーツ、どれも美味しいの」


 先輩もリンゴを口に入れ、美味しそうに頬張った。


「へえ、先輩って美味しそうに食べるんですね」

「え、そ、そう? 普通だと思うんだけど……」


 先輩は恥ずかしそうに、今度はリンゴを少しずつかじるように食べる。ハムスターみたい。


 だけど……やっぱりこよみさんが一番美味しそうに食べるかな。


 そんなことを考えていると、思わず口元が緩んでしまう。


「あら? このリンゴ、そんなに美味しかった?」

「え、ええ、美味しいですけど……どうしてですか?」

「だって上代くん、今、すごく嬉しそうな顔してたわよ?」

「あ、あはは……そうですね……」


 指摘されちゃうと、何だか恥ずかしい。理由は違うけど。


「それで……け、怪我の具合はどうなの……?」


 先輩が上目遣いでおずおずと尋ねる。


「あ、はい。左腕にひびが入っているのと全身打撲ですので、お医者さんからはしばらくすれば退院できると聞いています」

「そ、そう」


 そう説明すると、先輩はホッと安堵の表情を浮かべた。


「あ、あんまり長居しちゃ上代くんに悪いわね。そ、それじゃ私はこれくらいで失礼するね?」


 そう言うと、先輩は慌てるようにそそくさと席を立つ。


「あ、は、はい。お見舞いありがとうございました」

「いえいえ、また大学でね」

「はい」


 先輩は手を振りながら、病室を出て行った。


 僕は先輩が出て行った後も、病室の扉を見つめ続ける。


「先輩……」


 僕がこの病院に入院していることは、大学には伝わっていない。


 僕は大学に言っていないし、もちろんこよみさんも。


 それ以前に、こよみさんからは、僕がこの病院に入院していることは対外秘となっていると聞いている。


 なのに先輩は、「大学の事務室で聞いた」と言っていた。


 つまり。


「紫村先輩……あなたは“何者”なんですか……?」


挿絵(By みてみん)

お読みいただき、ありがとうございました!

次話は本日夜投稿予定です!

少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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どうぞよろしくお願いします!


【戦隊ヒロインのこよみさんは、いつもごはんを邪魔される!】
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