アリス
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■桃原こよみ視点
「え……?」
突然、呆けた呟きとともに、耕太くんの左胸にポッカリと穴が開いた。
そして。
「ガハアッ!?」
「あ……」
耕太くんの口から、大量の血が吐き出された。
「え……? え……?」
耕太くんは訳が分からないといった表情で、ウチの顔をジッと見た。
あ……あ……!?
「い……いやあああああああああああああ!?」
ウチは絶叫した……耕太くんのその姿を見て、ウチは絶叫した!
すると。
「あ……?」
耕太くんの身体から急に力が抜けるように、まるでスローモーションのように……。
——どさり。
耕太くんは、ビルの床に倒れた。
その時。
『ク……フフ……こんなガキにしてやられるなん、て……忌々、しい……!』
声のする方向を見ると……高田光機がウチ達に向けてその手を突き出していた。
「オ……オ……オマエがあああああああああ!」
そこから、ウチの記憶が吹き飛んだ。
後から聞いた話やと、ウチはヴレイピンクに変身して、“ブリューナク”で高田光機を何度もビルの床に叩きつけていたらしい。
高田光機が、既に肉片と化していても、それでもお構いなしに……。
で、そんなウチを正気に戻してくれたんは、バイオレットやった。
——パシン!
「しっかりしなさい! そんなことより今は、上代くんの傍に!」
「あ……あ……こ、耕太……くん……耕太く——————ん!?」
バイオレットのビンタで我に返ったウチは、何もかもを全部放っぽり出して耕太くんの傍に駆け寄ると、その身体を抱きしめた。
「あ……」
「耕太くん!? 耕太くん!?」
「こ、こよみ……さん……何、だ……か……身体……が……寒い、ん……です……」
「耕太くん! 耕太くん! 誰か……誰か、耕太くんを助けてえええええええ!」
ウチは縋るようにバイオレット、シルバー、ブルー、ガネホッグと順に見るけど、全員がただ目を伏せた。
「お願い! お願いします! ウチはどうなっても構いません! せやから……せやから、耕太くんを助けてください! どうか、どうか……!」
ウチは耕太くんのその手を握り締め、どこにいるかも分からへん神様に祈った。
いや、神様やのうて悪魔でも構わへん!
耕太くんを助けてくれるんやったら……耕太くんを救ってくれるんやったら……!
その時。
——ぽすん。
「あ……」
泣きじゃくるウチの頭を、誰かが優しく撫でた。
見ると……耕太くんが微笑みながら、ウチの頭を……ウチの頭を……!」
そして——その手が、力なく床へと落ちた。
「あ……ああ……!」
アカン! 耕太くんを寝さしたらアカン!
「耕太くん! 寝たらアカン! 寝たらアカンよ!? ウチと結婚するんやろ!? ウチを幸せにしてくれるんやろ!? ウチと……ウチと、幸せになるんやろ……!」
ウチは必死で耕太くんに呼び掛けるけど、耕太くんは半分だけ目を見開いたまま、何も言わへんように……なって……しも……た……。
「あ……あ……ああああああああああああああああああああああ!!!」
ウチはただ叫んだ。叫び続けた。
ウチは……叫ぶことしかできひんかった……。
——ずる。
「ああああああああああああああああああ!!!」
——ずる……ずる……。
「ああああああああああああああああああ!!!」
——ずる……ずる……ずる……ぴと。
「あああああああああああああ……え……?」
叫び続けるウチの横に、いつの間にか……髑髏のヴァルキュリアのなれの果てが、耕太くんの身体に寄り添っていた。
髑髏のヴァルキュリアはカタカタと顎を動かしたかと思うと——耕太くんの胸の穴にその手を添えた。
すると。
「え……?」
髑髏のヴァルキュリアの手が、ズブズブと穴の中に吸い込まれ……いや、耕太くんの身体と同化? していった。
そのまま、髑髏のヴァルキュリアは耕太くんの穴に潜り込んでいき……その姿を消した。
そして……耕太くんの胸の穴が完全に塞がり、まるで何もなかったかのようにすっかり元通りになった。
「あ……あ……」
ウチはもたれかかるように、耕太くんの胸にしがみついた。
そして、耳をそっと当てると……。
——トクン……トクン……。
「ああああああああああ……!」
生きてる……耕太くんが、生きてる……!」
「うあああああああああん! 耕太くん! 耕太くうん!」
ウチは耕太くんが生きてることが嬉しくて……耕太くんの温もりを感じられることが嬉しくて……!
その時。
「……ん」
「っ!? 耕太くん! 耕太くん!?」
ウチはガバッとその身体を起こし、耕太くんの顔をじっと見ると……耕太くんがゆっくりと目を開ける。
「こよみ、さん……」
「こう、た……くうん……」
アカン……嬉しいはずやのに、ウチの目から涙が止まらへん……!
「こよみさん……僕……夢を見たんです……」
「……夢、って……?」
ウチは涙を拭いながら、耕太くんに尋ねる。
「はい……夢の中に、アリスが出てきて……それで……こう言うんです……『耕太! いつまでも寝てるんじゃないの! さっさと起きなさい!』って……」
「アリス、が……」
「そして、こうも言ったんです……『これからは、ずっと一緒よ?』って……」
「そう、なんや……」
アリス……おおきに……おおきに……!
「これは……奇跡、よ……」
「うむ……そうだ、な……」
振り返ると、涙を流すバイオレットとシルバーが、耕太くんを見つめていた。
「うおおおおおお! 耕太あああああああ!」
そして、号泣するブルー……うっさいねん!
「こよみさん……」
「耕太くん……何……?」
「今度こそ……」
——あの部屋に、帰りましょうね?
お読みいただき、ありがとうございました!
明日はいよいよ最終回!
明日の夜、更新します!
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