決着!怪神デミウルゴス!
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「こよみさん……おかえりなさい!」
僕は、自分の胸の中で涙を零しながら微笑むこよみさんに、万感の想いを込めてそう告げると
「うん! ただいま!」
こよみさんも最高の笑顔で僕の想いに応えてくれた。こよみさんの想いの全部を、この僕に向けてくれた。
すると。
「アツツ……耕太くん、ピンク……やった、わね……!」
「ふう……二人とも、見事だ……!」
変身を解いてお互いの肩に寄り掛かる先輩と飯綱先生が、こちらに微笑みかける。
「先輩! 飯綱先生! 身体は大丈夫なんですか!?」
「え、ええ……お父さんの作った新生ヴレイスーツのおかげね……」
そう言うと、先輩はチラリ、とヴレイウォッチを見た。
そうか……あの脳味噌も、少しは役に……って!
「そうだよ! あの脳味噌、帰ったら絶対に三枚におろしてやる!」
僕はあの制限時間付きの“モード=アテナイ”のことを思い出し、沸々と怒りがこみ上げる。
アイツがもったいぶらずにちゃんと僕に説明していたら、もっと効果的なタイミングを見計らって、それこそ楽に高田光機を倒すこともできたのに!
「あ、あはは……ホ、ホラ、結局高田光機は倒せたんだし、少しくらい大目に見てあげてもいいかなー、なんて……」
先輩が申し訳なさそうな表情でそんなことを言う。
だけど。
「いーえ! 今度という今度は許せません! 帰ったら絶対に痛い目に遭わせます!」
僕は鼻息荒く先輩に宣言すると、先輩はもはや苦笑するしかないようだった。
「ま、まあ……よくやったぜ! 耕太!」
青乃さんが足を引きずりながらこちらへとやってくると、ウインクしながら豪快にサムズアップした。
「はい! ……青乃さん、ありがとうございました!」
「よせよ! この勝利は、お前とピンクの勝利だろ!」
青乃さんにそう言われ、僕は思わずこよみさんを見る……うん、やっぱりこよみさんは可愛いなあ……。
「はあ、全く……俺を放ったらかしにしやがって……ま、勝ったんだしいいけどよ……」
そう呟きながら呆れた表情を見せる青乃さん。
でも、青乃さんはどこか嬉しそうだった。
「さーて……それじゃ、あの男の最後、シッカリと拝んでおかないとね」
先輩の僅かに怒気の孕んだ言葉を受け、僕達は一斉に高田光機を見やる。
高田光機は、“ブリューナク”で身体を縦に貫かれたまま、その姿を晒していた。
まるで、百舌鳥の早贄のように……。
すると。
『な、なぜだ……なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだああああ……! なぜ“神”であるこの僕が、“ヴレイヴブロッサム”に敗れなきゃいけないんだあああああ!!!』
あとは消滅を迎えるばかりの高田光機が、こよみさんに敗北したことに納得がいかないのか、虚ろな目で叫ぶ。
僕はみんなより一歩前に出ると。
「簡単だよ……オマエは、“素人”だったんだよ」
そう告げると、高田光機だけでなく、こよみさんを除く他のみんなも不思議そうな表情を浮かべた。
「え、ええと、上代くん? “素人”だから、って、どういうこと?」
先輩がおずおずと僕に聞いてくる。
「はい。そうですね……例えばですが、ガネホッグさん、僕の射撃はどうでした?」
「む……どう、とは?」
「言葉通りです。僕の射撃はプロフェッショナルのガネホッグさんから見て、及第点をいただけますか?」
そう言うと納得したのか、ガネホッグさんは静かにかぶりを振る。
「いや……構えは歪んでいたし、照準もずれていた。オマケに、“ハンニバル”から弾丸を発射後も、お世辞にもその反動を制御することができていなかった。これではとても及第点は与えられない……」
「ですよね。だって、僕は“素人”なんですから」
「うむ……上代くんが射撃の“素人”なのは分かったが、それと高田光機が敗れたこととどう関係するのだ?」
いまいちピンとこないみんなを代表して、飯綱先生が尋ねる。
「はい。つまり、拳銃の“素人”の僕が正確に射撃を行うことなんてできないのと同じく、戦闘の“素人”である高田光機が、こよみさん相手にまともに闘うなんてできないってことです」
「「「「っ!」」」」
僕の言葉に、四人がハッと息を飲む。
「だ、だけど! 高田光機はあんなに強かったじゃない!? それって闘えてるってことでしょ!?」
「先輩の言うことももっともです。ですが、それは高田光機自身の怪人としてのスペックのみで成立しているんです。要は、喧嘩をしたことがない子どもが、やみくもに手足を振り回しているのと同じですね。ただ、その全てが圧倒的なだけで」
そう説明すると、こよみさんだけがウンウン、と頷いた。
「だ、だが、それは彼女……ピンクも同じだろう……?」
「違います」
ガネホッグさんの言葉を、僕はハッキリと否定する。
「それは……どうしてだ?」
「考えてもみてください。ダークスフィアという組織がこの日本に現れてから今日まで、怪人達と最前線で闘ってきたのは“誰”ですか?」
その言葉で、ガネホッグさんは……いや、みんなは気づく。
こよみさんの、その強さに。
「そうです……こよみさんは、この四年間、ひたすら怪人達を倒してきたんです。その戦闘経験は、ここにいる全員と比べても圧倒的です。一方」
僕はもう一度、高田光機をチラリ、と見やる。
「この“素人”である高田光機は、それでもそのスペックを活かしてこよみさんと互角以上に闘った。でも、明暗を分けたのは、僕が放った一発の銃弾です」
「え? え? でも、高田光機には命中しなかったんでしょ!?」
「はい。というか、別に命中させるつもりはありませんでしたけど」
「「「「はあ!?」」」」
僕の言葉に、全員が驚きの声を上げる。
「ただ、万が一こよみさんに当たってしまったら……そこだけが懸念でしたが、ガネホッグさんに絶対当たらないと言っていただいたので、その点は安心していました」
「そ、そんなことはどうでもいい! それより、そんな当たらない銃弾が、どうして明暗を分けたと言い切れるんだ!?」
先輩から言葉を引き継ぐように、飯綱先生が僕に詰め寄った。
「簡単ですよ。高田光機は、どうして隙が生まれましたか?」
「「「「あ!」」」」
「そう……僕の放った銃弾に気を取られ、一瞬の隙が生まれた。そして、戦闘のプロフェッショナルであるこよみさんが、その隙を逃すはずがなかった。そういうことです」
そう……それこそが、高田光機の唯一にして最大の敗因。
己の慢心と己の未熟さ……この二つが、僕達に勝利をもたらしたんだ。
「……納得したか? 高田光機」
僕がそう呟くと。
「ク、フフ……そ、んな……そんな下らない理由でええええええ!?」
高田光機は頭を掻きむしりながら、その事実を受け入れられず串刺しのままもがく。
だけど……それが事実で、今のオマエのその姿が現実だ。
僕は高田光機から視線を外し、こよみさんを見つめる。
「耕太くん……」
「こよみさん……帰りましょう。僕達の、あの部屋に……」
「うん……」
僕はこよみさんのその小さくて可愛い手を取り、ビルの出口を目指して歩を進め……。
——ドン。
「え……?」
僕の左胸に、ポッカリと穴が開いた。
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