高田光機という男
ご覧いただき、ありがとうございます!
怪人達を突き抜けた僕達は、青乃さんの足止めもあり、順調に階段を駆け上がっていく。
そして。
「つ、着いたで……司令本部のフロアや!」
僕達はとうとう司令本部のあるフロアへと到達し、目の前には『高田商事株式会社』の看板が壁に掲げられていた。
「いよいよだ……!」
僕達は入口のドアをくぐると、中は誰もおらずもぬけの殻となっていた。
……怪人くらいは配置してるかと思ったんだけど……。
「……とにかく、これで最後です。逸る気持ちもありますが、慎重に進みましょう」
「うん……」
僕達は周囲を警戒しながら、ゆっくりと司令室を目指す。
「司令室……だな」
僕達は司令室に辿り着き、その扉の前に立つ。
すると。
——バアンッ!
突然、勢いよく扉が開いた。
「やあ、待っていたよ」
そこには、全裸で足組しながらソファーに腰掛ける、高田光機の姿があった。
「高田……光機……」
僕は無意識にその名を呟く。
「うん、そうだね。僕は高田光機で間違いないよ」
高田光機はおどけながら、肩を竦める。
だけど……。
確かにその姿こそは僕達の知る高田光機そのものだが、あの男から感じる不気味な威圧感……これは……。
「……改造手術でアリスの『DS-n細胞』を取り込んだのか?」
「えーと、半分正解かな。確かに私は彼女の『DS-n細胞』を取り込んだけど、改造手術なんて面倒なことはしないさ」
高田光機は両手を持ち上げ、ニヤニヤしながらかぶりを振った。
「じゃあどうやって……」
「なに、簡単だよ。私は彼女を“取り込んだ”のさ」
「「「「“取り込んだ”!?」」」」
高田光機の言葉に、僕達は驚きの声を上げる。
取り込んだ!? 取り込んだだって!?
馬鹿な! そんなことで『DS-n細胞』を結合させることなんて…………………………そうか!
「それが、オマエの“能力”か!」
「惜しい! チョット違うかな」
僕の答えに、高田光機は笑みを浮かべながら、指を鳴らす。
「いやあ、まあ、タネ明かしは止めておこうかな。チョットでも君に話したら、簡単にバレそうだし。とはいえ、これだけ癖のある怪人達をまとめ上げ、グリフォニアやアリスを倒して、僕の前に現れるんだから君もかなり優秀だね」
皮肉としか取れない高田光機の賛辞に、僕は思わず顔をしかめる。
「そんなことはどうでもいい……それで、“神”とやらになった気分はどうだ?」
僕は高田光機に返すように、皮肉を込めてそう告げる。
「おや? その言葉……私の目的も理解している、そういうことかな?」
高田光機は意外といった表情を浮かべ、瞳を輝かせて身を乗り出す。
「オマエの目的なんて知らないさ。僕が理解しているのは、何を勘違いしたのか知らないけど、自分のことを“神”だと言って悦に浸ってる一人のつまらない男がいるってことだけだよ」
僕はお返しとばかりに、含み笑いをしながら肩を竦めた。
「ククク……言い得て妙だ。ところで上代くん、君、私の右腕にならないかい?」
「…………………………は?」
この男、何を言っているんだ?
僕に仲間になれと、そう言っているのか!?
「……何が目的だ?」
「目的? そんなの、グリフォニアも死んでしまったし、優秀な助手が必要だからね。その点、君なら申し分ないと思うんだよ。それに、君が私の部下になれば、“ヴレイヴブロッサム”も付いてくるしね」
高田光機の言葉に、僕はかあ、と頭に血が昇る。
「オイ! こよみさんをその名前で呼ぶな!」
「おやおや、これは失敬。桃原くんも、上代くんが私の仲間になれば、当然君も私の側につくんだろう?」
「お断りや! 大体、耕太くんがオマエなんかの仲間になるわけないやろ!」
飄々とそんなことをのたまう高田光機に、こよみさんも激高した。
「はあ……いい案だと思ったんだけどなあ……あ、そうだ、だったら由宇ちゃん、君はどうだい? 君なら上代くんとまではいかないまでも、それなりに優秀だろうし」
「フザケルナ! お父さんをあんな目に遭わせたオマエが、どの口でそれを言うのよ! それと……それと、二度と私の名前を軽々しく呼ばないで!」
「あれえ? 子どもの頃はあんなに私に懐いてくれてたのになあ」
「今の私には、それが最大の汚点よ!」
はあ……どうやらこの高田光機という男は、人を不快にさせる天才のようだ。
確かにこれは、ある意味神懸っているかもしれない。
「……まあいい。こよみさん、先輩、話をするだけ無駄ですよ。大体、この男と会話をしたところで、僕達に得るものなんて何一つないですから」
「いやあ、残念だよ上代くん。君なら僕の言葉も、理想も、全て理解してくれると思ったんだけどなあ」
「無理だよ。だって、所詮オマエは反町一二三以下なんだから」
そう告げると、高田光機の眉が一瞬ピクリ、と吊り上がった。
やっぱりここに触れられると弱いみたいだな。
「耕太くんの言う通りやな。大体、反町一二三本人が生きてるのに、耕太くんほどの人がわざわざ格下を相手にする必要、あらへんもんな」
こよみさんはおどけた表情で僕にウインクした。
あはは、さすがこよみさんだ。
僕の意図、ちゃんと分かってくれてる。
「ちょっと待て! 反町一二三が生きているとはどういうことだ!?」
「あらあ? 知らなかったの? お父さんはオマエに『DS-n細胞』……じゃなかった。『DS-n細胞』だと思わされていた『DS-v細胞』を打ち込まれたけど、奇跡的に“怪人”として生き延びていたのよ。お生憎さま」
今度は先輩がしたり顔で手をヒラヒラさせる。
「な、何だと!? おまけに、その『DS-v細胞』とは一体何なんだ!」
「ふ……これこそ反町様が生み出した『DS-n細胞』を遥かに超える、究極の細胞だ。そして……ピンクを縛る呪われた細胞、だ」
飯綱先生がチラリ、と僕とこよみさんを見る。
その瞳は、少し哀しそうな色を浮かべていた。
「……大丈夫ですよ先生。あの脳味噌が、何とかしてくれるんでしょ?」
「う、うむ……そうだな……もちろん、私も全霊をもって取り組むつもりだ」
「あはは、期待してるで、飯綱先生」
僕とこよみさんはお互いの手をつなぎながら、飯綱先生に微笑んだ。
「ふ……ふざけるのもいい加減にしたまえ! あの男は死んだんだ! 私に『DS-n細胞』を打ち込まれ! そ、それに、もう私はあの男を既に超えているんだぞ!」
「何言ってるんだ? 現に、アリスもグリフォニアも、こよみさんと先輩達に敗れたじゃないか」
「チガウ! アレはあの二人がただの出来損ないだったからだ! 私の実力じゃない!」
僕の言葉に高田光機は狼狽え、自身の頭を掻きむしる。
だけど。
「フザケルナ! 彼女は……グリフォニアは、オマエのことを最後まで……!」
「そんなこと知るか! クソッ! あの女め……私の玩具のくせに、役立たずがあっ!」
駄目だ……僕は、この男をどうしても許せない。許せるはずがない。
「いい加減にしろよ! 自分のことを心から愛してくれた、そんな女性に対してその言い草はなんだよ! だからオマエは、その程度の男でしかないんだよ!」
「キサマ……キサマあっ!」
すると、高田光機の身体が、突然変化を始める。
……これは、怪人に変身するつもりか!
高田光機の身体が隆起し、その肌の色も赤黒く変化する。
そして……高田光機は、三メートルほどの大きさになり、その背中には漆黒の翼が三対生えた。
何より、その顔……。
それは、ファンタジーに出てくるような、まるでドラゴン……そう呼ぶにふさわしかった。
「フ、フフフ……まあいい……だったらこの私自身でキサマ等を破壊し尽くし、この私が反町一二三よりも上だということを証明してやるううううう!」
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜更新予定です!
少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




