決着!怪人グリフォニア!
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■紫村由宇視点
「“カースド・ウィッチ”」
飯綱先生の声にならない程の悲痛な叫びに応え、私は右手に持つ紫のパネルの先をグリフォニアへと向けると、静かにそう呟いた。
「ガアアアアアア!」
青白い炎をさらに燃え上がらせ、グリフォニアが雄叫びと共に翼を羽ばたかせる。
そして。
「死ねえええええええ!」
グリフォニアは弓から放たれた矢のように青い線を描きながら一直線に私へと襲いかかる。
でも。
「ガア!?」
いつの間にか私の“カースド・ウィッチ”から伸びた無数のいばらの蔦が床を這い、そして、上へと突き上げるようにグリフォニアの身体へまとわりつこうとする。
「っ! こんなものでえええええ!」
やはりグリフォニアの炎により、いばらの蔦は次々と燃やされていく。
だけど、いばらの蔦はなおもグリフォニアへと伸び続け、そして。
「な!?」
一本のいばらがとうとうグリフォニアの身体をとらえた。
「なぜだ!? なぜ私の炎に耐えられる!?」
「……さっきのシルバーの話を聞いてなかったの? シルバーの武器は形状記憶合金と『DS-n細胞』の結合体だって」
「なら、このいばらも!?」
「そういうこと」
グリフォニアの身体にまとわりついた一本のいばらの蔦が、枝分かれするように無数に広がると、グリフォニアの身体を中心にいばらの蔦で囲むように球体を形成した。
「グ、グウウウ……」
中からグリフォニアの呻き声が聞こえる。
「紫村、中では何が起こっているんだ?」
「んふふ、今はグリフォニアの全身にいばらが巻きついているところね。しかも、自分自身の炎のせいで、中は酸欠状態になってるんじゃない?」
「なるほど……」
私の答えを聞くと、飯綱先生が再び球体へと向き直る。
その視線は、まるで死へと旅立つ仲間への手向けのようだった。
「……終わりにするわね」
——ギュルルルルルル!
私の呟きに合わせ、“カースド・ウィッチ”が高速回転を始めると、いばらの蔦を巻き取っていき、同時にいばらの球体も回転する。
いばらの球体はみるみるうちに小さくなっていき、グリフォニアの輪郭が浮かび上がる。
そして。
「グアアアアアアアアアア!」
最後の巻き取りに合わせ、いばらがグリフォニアの身体をズタズタに引き裂いた。
グリフォニアの身体はなおも回転の勢いが止まらず、独楽のように回ったまま床へと落下すると、遠心力で吹き飛んで壁に激突し、ようやくその動きを止めた。
「…………………………う、うう……」
「……まだ息はあるようね」
だけど、既に無残な姿となり、グリフォニアはもはや死を迎えるのみとなっている。
「グリフォニア……」
飯綱先生が変身を解き、グリフォニアの元へと近づく。
……かつての仲間の、その最後を看取るために。
「………………イ、タチ……ソード……」
「無理にしゃべるな……余計に苦しいぞ……」
見下ろす飯綱先生を見ながら、グリフォニアが不意に口元を緩めた。
「ふふ……ま……いり、ました、ね……」
「……そうだな」
「です、が……私は……ガハッ!?」
「グリフォニア!」
慌ててグリフォニアの身体に触れようとする飯綱先生を、グリフォニアは手で制した。
「……私に、触れ、ると……火傷、します……」
「っ……だが……!」
「いい、ん、です……よ……それ、に……私に触れ、て、いいの、は……高田、さ、ま、だけ……」
それでもなお飯綱先生がグリフォニアに触れようとするが、彼女は表情こそ柔らかいものの、その瞳は明確に飯綱先生を拒絶する。
「ねえ……あなたはなんであの男にそこまで……」
私は堪らずグリフォニアに尋ねる。
どうしてグリフォニアは、ここまで献身的にあの男に殉じるのか……あの男に何があるのか、知りたかったから。
「フ、フフ……持っ……て、いる……あなた達に、は、分かり、ませ、ん……よ…………私、には……高、田……様、だけが…………」
その時。
「ゲ、ゲコ」
「「っ!?」」
突然、部屋の壁に貼りついたカエルをモチーフにした一体の怪人が姿を現した。
「ク、フフ……よく、来まし、た……後、は……頼み、ました……よ……」
「ゲコ」
カエルの怪人が返事をすると、スウ、とまたその姿を消した。
「ちょっと! グリフォニア! あのカエルの怪人は一体なんなの! アンタ、一体何を考えてるの!?」
「し、紫村!」
私は思わずグリフォニアにつかみかかろうとするが、飯綱先生がそれを止める。
「何で止めるの! 先生は今のやり取りを見て気にならないの!?」
「紫村……」
払いのけようとする私の身体を抑え、飯綱先生は私の名を呟くと、目を瞑りながら静かにかぶりを振った。
「何よ! 意味が全然分からないわよ!」
なおも突っかかる私を見た後、飯綱先生はグリフォニアへと視線を向ける。
私もつられて彼女を見やると。
「え……」
彼女は、既に息絶えていた。
安らかな……幸せそうな表情を浮かべながら……。
「グリフォニア……」
「……静かに眠らせてやれ」
そう言うと、飯綱先生はグリフォニアに背中を向ける。
その肩は、かすかに震えていた。
◇
「……行くか」
グリフォニアが息を引き取ってしばらくして、ずっと無言で俯いていた飯綱先生は顔を上げると、そう呟いた。
「そうね……ピンク達がどうなったかも気になるし……」
私も、床に横たわるグリフォニアを一瞥してから飯綱先生の答えると、部屋の出口へと歩を進める。
「……怪人グリフォニア……すぐ、高田光機もあなたの傍に送ってあげるわ……」
そう言い残し、私達は振り返ることなく部屋を後にした。
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次話は明日の夜更新予定です!
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