怪人アリス=ヒュブリス=ルシフェル②
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——キイイイイイイイイイインンン……。
階段の踊り場で休憩している僕の耳に、耳鳴りのような、甲高い金属音のような音が響く。
だけど、これはまるで……。
「僕を……呼んでる……?」
「? 耕太くん?」
僕の呟きを聞いたこよみさんが、不思議そうな表情で僕を見つめる。
「あ、ええと……この音、聞こえませんか? ほら、何というかその……音叉を鳴らしたような、そんな音なんですけど……」
「? 何も聞こえへんけど……?」
聞こえない?
だけど、僕の耳には今もはっきりと鳴り響いている。
『こっちにおいで』と、僕を誘うように。
「……とにかく、少し気になります。すいませんが、一旦このフロアを調べていてもいいですか?」
「あ、うん……それは構わへんけど……」
「他のみなさんは?」
僕は三人にも尋ねると、全員不思議そうな顔をしながらも、頷いてくれた。
「すいません……では、休憩が終わり次第、お願いします」
◇
休憩が終わり、僕達はその“僕にだけしか聞こえない音”に誘われるように、フロアの調査を開始した。
「それで上代くん、その“音”というのは、どこから聞こえているのだ?」
「あ、はい、音はちょうど向こうの奥から聞こえています」
飯綱先生の質問に、僕はその音がする方向を指差した。
「しかし、耕太くんにだけ聞こえる音て何やろ?」
「さあ……?」
こよみさんと先輩が顔を見合わせながら首を傾げる。
ただ……僕には一つの予感があった。
僕を……僕だけを呼び続ける、一人の女性の存在を。
そして。
「どうやらこの部屋の中、のようですね……」
僕達は、フロアの一番奥にある部屋の前に立っている。
今、僕の頭の中では、最大のボリュームで音が鳴り響いていた。
「じゃあ……開けるわよ?」
先輩がいばらの蔦をドアノブに巻き付けると、ゆっくりとドアを開いた。
すると。
「ウフフ……やっぱり耕太は来てくれた」
そこには、妖艶な笑みを浮かべたアリスの姿があった。
アリスの髪は銀髪になっており、その瞳も同じく銀色。
肌は、まるで透き通るほどの白さで、それと合わせるかのように純白のドレスをまとっていた。
「アリス……」
僕はかつての恋人の名を呟く。
「フフ……私、キレイになったでしょ?」
「…………………………」
「どう? 耕太の今の彼女と比べて」
アリスは僕に対してそんな問いかけをすると、うっとりとした表情で手を上へとかざし、悦に浸る。
だから。
「答えは決まっているよ、アリス……君よりも、こよみさんのほうが何倍も、いや、それこそ比べ物にならないほど素敵だよ」
「そう……」
僕の答えに、アリスは打って変わって憂いを帯びた表情を浮かべる。
そして。
「ふふ……でも、耕太は私の元に戻ってくるわ。だって……」
すると、アリスの背中から三対の純白の翼が現れた。
「彼女……ヴレイピンクは今度こそ、ここで死ぬもの」
アリスの頭上にサッカーボール大の光の球体が生まれ、僕達目がけて襲い掛かった。
「耕太くん、下がって! 変身!」
僕はこよみさんの声に反応し、すぐに後ろへと下がる。
こよみさんは左腕をかざしてヴレイウォッチのダイヤルをカチリと回すと、ヴレイピンク=ヴァルキュリアへと変身した。
「“アイギスシールド”!」
こよみさんは“アイギスシールド”を正面に展開すると、光の球体が衝突する。
「グ、グギギ……!」
こよみさんが腰を落として踏ん張り、光の球体を押し留める。
「だああああああああ!」
そして、光の球体をお返しとばかりにアリスに向けて弾き飛ばした。
「フン」
アリスは面白くなさそうに左手で軽く払うと、光の球体が一瞬で掻き消えた。
「ピンク!」
先輩が叫び、ヴレイウォッチをかざして変身しようとすると。
「来るな!」
こよみさんは、なぜか先輩の加勢を断った。
「……スマンけど、この女はウチが……ウチが一人で決着つける」
「っ!? 何考えてるの!? 一緒に闘ったほうが確実じゃない!」
こよみさんの言葉に、先輩が叫ぶ。
「アカン! それじゃアカンのや! 今度こそ……今度こそ、ここでハッキリ分からせたる! 耕太くんの隣におるんは、どっちが相応しいかを! ウチこそが、耕太くんの隣に立つべき女なんやと!」
「こよみさん……!」
こよみさんのその叫びに、僕は思わず胸がつまる。
そして、気づけば僕の瞳から涙が溢れていた。
言ってくれた。
こよみさんが、僕の隣は自分だと、宣言してくれた……!
僕は……僕は、その言葉だけで幸せです……!
だけど。
「フフフ……アリス、あなたは思う存分、このヴレイピンクと闘いなさい。そして、勝って高田様こそが“神”なのだと証明なさい!」
まるで、全ての空気を台無しにするかのように、怪人グリフォニアが口の端を吊り上げて現れた。
「うるさい」
するとアリスは、まるで塵芥でも見るかのような視線を向けると、さっきと同じく光の球体をグリフォニアに放った。
「なっ!? ア、アリス!?」
突然のことに驚きを隠せないグリフォニアだったが、すぐに我にかえると、光の球体を咄嗟に躱した。
「アリス!」
「フン……雌犬は雌犬らしく、くだらない男に尻尾でも振っていれば?」
「貴様アアアア!」
激昂したグリフォニアがアリスに牙を向ける。
だが。
「え!? ……は、で、ですが! ……はい、はい……かしこまりました……」
無線か何かで会話をするグリフォニアは、みるみる意気消沈していく。
おそらく、会話の相手は高田光機だろう。
「……アリス、高田様からの指令です。『アリス一人で、ヴレイピンク=ヴァルキュリアを消滅させろ』と」
「フン、最初からそのつもりなんだけど?」
グリフォニアはアリスの返事も聞かずに、今度は先輩達に視線を向ける。
「ふう……あなた達雑魚は、この私がお相手することになりました。どうぞこちらへ」
そして、深い溜息を吐いた後、グリフォニアがツカツカとこの部屋を出ていった。
「上等じゃない! そのいけすかない顔、私のいばらでズタズタにしてあげるわよ!」
グリフォニアの言葉を受け、怒りからか先輩が鼻息荒く彼女の後をついて行く。
「フ……元“ファースト”のよしみだ。この私が介錯をしてやろう」
飯綱先生は静かに笑うと、先生もそのまま後に続く。
「先輩! 飯綱先生!」
「上代くんはそこでピンクと待ってなさい! ……ピンク! そのクソバカ女、絶対にボコボコにするのよ!」
「任しとき!」
拳を突き上げてゲキを飛ばす先輩に応えるように、こよみさんも同じように“ブリューナク”を突き上げた。
——今、それぞれの闘いが始まる。
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次話は明日の夜更新予定です!
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