潜入
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「ちょ!? この音はなんなの!?」
突然起こった銃撃音に、先輩が困惑の表情を浮かべる。
それもそうだろう、まだ作戦開始時刻より三十分近く早い。
……これは、向こうに気づかれたか……?
「耕太くん、どないしよ……?」
こよみさんが不安そうに、僕の顔を覗き見る。
「少し予定が早まりましたが、この機に乗じてビル内に潜入しましょう」
「お、おい耕太、その……大丈夫なのかよ?」
「ええ。機先を制して向こうを襲ったというのであれば、戦力はむしろ向こうに集中しているはずです。なら……」
「ふむ……ビル内は今は手薄、ということか」
飯綱先生の呟きに、僕はコクリ、と頷いた。
「よし! なら早速中に入って、連中をギッタギタにしてやろうじゃない!」
先輩は不敵な笑みを浮かべながら、掌を拳でパチン、と叩いた。
うん、先輩も気合十分だな。
「ええ、じゃあ行きましょう」
僕達は、先輩を先頭に、こよみさん、僕、青乃さん、飯綱先生の順で、通用口からビルの中へと侵入した。
「……上代くんの言う通り、ビルの中は誰もいないようね」
「先輩、警戒は怠らないでください」
「ええ、もちろんよ。それで、司令本部までどのルートで行くの?」
先輩が振り返って僕にそう尋ねる。
僕は、手に持つタブレットでビルの見取り図を確認すると。
「最短距離で行くならエレベーターを利用するのが一番ですが、ここは敵の懐にいるようなものです。ここは無難に階段を利用しましょう」
「オッケー」
先輩は右手でサムズアップすると、また前を向いて警戒しながら進んで行く。
うん……今のところは順調。
だけど、いつ敵が襲ってくるかは分からないんだから、警戒は怠らないようにしないと。
そして、僕達は階段につながるドアの前に来ると、先輩がいばらの蔦でドアノブを握り、物陰に隠れながら静かにドアを開ける。
「……大丈夫、みたいね」
「ええ……それじゃ、上へと向かいましょう」
僕達は階段の踊り場に出ると、ゆっくりと上へと上がっていく。
その時。
——ドゴオオオオオオオオオオ!!!
「な、何や!?」
突然起こった爆発音に、僕達全員が身構える。
ただ、ビル自体に何かしらの振動もなく、音のみだったことからも、恐らくはガネホッグさん達との戦闘によるものだろう。
「ガネホッグさん……無事だろうか……」
そう呟くと、飯綱先生がポン、と僕の肩を叩いた。
「……上代くんは気にしなくてもいい。それに、あのガネホッグのことだ、無駄死にをするような男ではない……いや、違うな。あのガネホッグは無駄にしぶとい」
そう言うと、飯綱先生はクスクスと笑った。
「……はい、そうですね」
ありがとうございます、飯綱先生……。
「…………………………」
「? どうしました?」
青乃さんが爆発音のした方向へ呆けた表情で見つめていたので、僕は声をかけた。
「え、あ、ああいや……何だか、俺の知ってる奴が叫んでたような気がして、な……」
「お知り合い、ですか……?」
「んー……ま、こんなトコにそんな奴、いる訳ねーよな。悪い、気のせいだ」
「そうですか……」
そう言うと、青乃さんはまた前を向いて階段を上り始める。
でも、その表情はどこか悲しそうに見えた。
◇
「ふう……メッチャ遠いなあ……」
こよみさんが上を見上げながら、額に流れる汗をグイ、と拭った。
「そうですね……少し、休憩しますか?」
「えー、でもこんなところでゆっくりして大丈夫なの?」
僕の提案に、先輩が怪訝そうな表情を浮かべた。
「ええ、今のところ敵の現れる気配はなさそうですし、念のため各階のフロアにつながるドアには、一応仕掛けもしておきましたし」
そう、僕は敵に挟撃されるという事態を避けるため、各階のドアが開いた瞬間にけたたましい音がなるブザーを設置しておいた。
これなら、万が一下から敵が向かって来ても分かるし、僕達は上から来る敵だけを警戒すればいい。
「ですから、交替で見張りに立ちつつ、それ以外は休憩しましょう」
「ええ、分かったわ」
「それじゃ、まずは僕が見張りを……「それはダメよ」」
僕がそう提案すると、先輩が真っ先に否定した。
「ええと、この中で一番戦闘で役に立たない僕が見張りをするほうがいいと思うんですが……」
「何言ってるのよ。上代くんが今回の作戦のブレーンなのよ? ちゃんと休憩して、私達をしっかり指揮してくれないと」
先輩にしては珍しく、真剣な表情でそう忠告する。
「そうだぞ上代くん。高田光機を倒せるかどうか、それは上代くんの肩にかかっていると言っても過言ではないぞ」
「ええー……飯綱先生、そんなプレッシャーをかけないでくださいよ……」
飯綱先生の過度な期待に、僕は思わず肩を竦めた。
「ま、つーわけで見張りは俺がやっとくよ。どうも一番役に立たなそうなのは俺みたいだしな」
そう言うと、青乃さんは飄々としながら見張りに立った。
青乃さん……そんなことないですよ?
僕にとっては、青乃さんがいてくれることがどれだけ心強いか……。
「……すいません、それじゃ、お言葉に甘えます」
僕は床に座りこむと、カバンから水の入ったペットボトルを取り出し、蓋を開けて口に含んだ。
するとこよみさんが、僕の隣にちょこん、と座った。
「耕太くん……無理せんといてね?」
「あはは、大丈夫です。無理してませんよ」
心配そうな表情で見つめるこよみさんに、僕は笑顔で返した。
するとこよみさんは安心したのか、ホッとした様子で僕にもたれかかってきた。
「耕太くん、この闘いが終わったらどうする?」
「これが終わったら、ですか? そうですねえ……」
うーん、こよみさんとしたいことなんて山ほどあるから悩むなあ……。
またデートもしたいし、旅行にだって行きたいし、美味しいものも食べたいし…………………………あ。
「そうですよ! 肝心なことを忘れてた!」
「はわ!?」
僕が突然大きな声を出したものだから、こよみさんが驚いて仰け反ってしまった。
「あ、す、すいません……ですが、僕もすっかり忘れてました。僕……こよみさんをうちの両親に紹介してませんでした……」
「はわわわわ!?」
僕の言葉に、こよみさんはますます仰け反ってしまった。
「ホ、ホラ、僕達その……夫婦になるわけですし……」
「あ、う、うん、そ、そうやね……ちゃ、ちゃんと耕太くんのご両親にご挨拶せえへんと……でも、大丈夫やろか……ウチ、耕太くんのご両親に認めてもらえるやろか……」
「それに関しては、絶対に大丈夫です!」
僕は不安そうにするこよみさんに、満面の笑みでサムズアップした。
だってこの前小夜から、うちの両親がこよみさんに会いたがってるって連絡もらったからなあ。
むしろ、こよみさんの写真を見て母さんがはしゃいでるらしいし。
「なので、それに関しては大丈夫です!」
「はわ……う、うん……」
「「「ゴホン」」」
などとやり取りをしていると、三人から一斉に咳払いをされた。
「はあ……緊張するよりはいいけど、少しは場所と状況を考えてよね……」
「「す、すいません……」」
僕とこよみさんは思わず頭を下げる。
その時。
——キイイイイイイイイイインンン……。
耳鳴りのような甲高い金属音のような音が、僕の耳に響いてきた。
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次話は明日の夜更新予定です!
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