デスティニーワールド
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「耕太くん! 早よ行こ!」
朝食を済ませ、僕達は支度を整えると、目一杯オシャレしたこよみさんが、玄関で元気に手招きする。
なお、今日のこよみさんのコーデは、白の長袖ブラウスにデニムのパンツ、黒色のローファーを履き、ベージュのチェック柄のポンチョコートを羽織っていた。
うん……うちの奥さんは最高にカワイイ。
「あはは、すいません。今行きます」
僕はお弁当と水筒の入ったカバンを背負うと、急いで玄関に向かう。
「じゃ、行きましょうか」
「うん!」
僕とこよみさんは、どちらからともなく自然に手をつないで駐輪場に向かうと、停めてあるモモにタンデムした。
ただ、今日はいつもと違って僕が運転、こよみさんは後ろのシートに跨っている。
「モモ、今日はよろしくね」
僕はポンポン、とエンジンカウルを叩く。
『任セロ相棒! キッチリ安全運転デ運ンデヤル!』
「うん、こよみさんが乗ってるんだから絶対だよ」
モモだから心配はしてないけど、それでも僕の奥さんが乗ってるんだから、念には念を入れないとね。
そして僕はアクセルを回して走り出した。
一路、デスティニーワールドへ!
◇
「ふわあああ……元に戻ってる……!」
園内に入るなり僕達は白雪姫城へと向かい、今、その目の前で元通りになった白雪姫城を見上げている。
「はい、やはりデスティニーワールドのシンボルですからね。急ピッチで修復したらしいです」
「そうなんや……良かった……」
「はい」
そう返事して、涙ぐむこよみさんを抱き寄せると、こよみさんは僕に身体を預けた。
「さあ、見てるだけなんてつまらないですよ。中に入りましょう!」
「うん!」
僕達は手をつなぎながら、白雪姫城の中へと入った。
「ふわあああ……何回見ても素敵やなあ……」
初めてデートした時と同じように、こよみさんは感動の声を上げる。
ガイドさんの説明は……まあ、前回と同じだから聞き流してもいいか。
そして僕達はガイドの後をついて行き、いよいよメインのガラスの棺のある部屋へと向かった。
「さあ! これが白雪姫が眠っていた、ガラスの棺です!」
前回同様、部屋の中央に鎮座するガラスの棺を、ガイドさんが少し大げさに紹介した。
「なお、このガラスの棺には、白雪姫と同様、王子様のキスで目覚めると幸せになるというジンクスがあったりします! この城で結婚式を挙げるとこのガラスの棺も利用いただけますのでぜひ!」
ガイドの営業アピールだけど、今回の僕はいつになく真剣に聞き入った。
そして。
「こよみさん……僕達の結婚式、絶対にこの白雪姫城でしましょうね?」
「はわ!? ……うん」
僕はこよみさんの肩を抱き寄せてそう言うと、こよみさんは瞳を潤ませ、静かに頷いた。
「オヤオヤ? 早速こちらのカップルにガラスの棺をご利用いただけそうです! 皆様もこのお二人に祝福を!」
「ええ!?」
「はわ!?」
ニヤニヤしたガイドから、突然そんなことを言われてしまい僕達は焦る。
けど。
——パチパチパチパチ!
他のお客さんから盛大な拍手を受け、僕は胸がジーンとなった。
それはこよみさんも同じようで、瞳にうっすらと涙を浮かべていた。
僕はその涙を人差し指ですくってあげていると。
「(……他のスタッフには内緒ですが、何ならガラスの棺、使ってみます?)」
などと、スタッフが僕達に耳打ちしてきた。
今回のスタッフ、ノリがいいな!?
だけど。
「あはは、それは僕達の結婚式本番のために取っておきます。その際は、遠慮なく利用させてもらいますね?」
「っ! う、うん! その時はウチもちゃんとウエディングドレス着て、バッチリ利用します!」
「ウフフ! ご利用、お待ちしております!」
そして僕達はガイドと別れ、白雪姫城から出た。
「はわあ……白雪姫城で結婚式、かあ……」
こよみさんが頬に手を当て、うっとりとした表情で白雪姫城を見上げる。
「はい……こよみさんを眠りから目覚めさせるのは、この僕の役目です」
「うん……ウチを目覚めさせて、幸せにしてくれるんは、耕太くんだけや……」
そう言うと、こよみさんは幸せな表情を浮かべ、そっと僕にもたれかかった。
◇
「はわあああ……美味しそう……!」
お昼の時間になり、僕達はデスティニーワールドに併設されているピクニック広場で、お弁当を広げている。
うん、こよみさんのお弁当への印象は上々だ。
「こよみさん、どうぞ」
「ありがとう!」
僕はこよみさんにお箸を渡すと。
「「いただきます」」
さあ、食べよう。
「はわああ……耕太くんが作るお弁当の甘い卵焼き、大好き! まずはこれから!」
そう宣言したこよみさんは、おにぎり片手にだし巻き卵に箸を伸ばす。
「はむ……ん……」
こよみさんがその可愛くて小さな口でだし巻き卵を咀嚼する。
「はわあ……やっぱり耕太くんのだし巻き卵は世界一や……アカン、幸せ過ぎる……」
「あはは、たくさん作ってきましたから、どんどん食べてください! 他にも……」
そう言って僕は、今度はミートボールが入ったお弁当をこよみさんの前にずい、と持っていく。
「これも美味しそう! どれどれ……はわあああ! メッチャ美味しい! この甘いソースがサイコーや!」
そう言って、こよみさんは次々とお弁当を頬張る。
うん……こよみさんが僕のご飯を食べる時の、その笑顔は本当に最高だ。
これからもずっと、こよみさんのためにご飯を作りますからね。
◇
夜になり、僕達はパレードの舞台となる中央広場の前に陣取り、パレードが始まるその時を待ち構えている。
「はわあああ……パレード楽しみやなあ……」
「はい、僕も楽しみです」
うん、前回はゴライドウのせいで、途中で邪魔されたからなあ。
今日は絶対最後まで見届けるぞ!
すると、電飾の光に包まれたフロートが、ゆっくりと会場へと姿を現した。
おなじみの音楽とともに、ゆっくりと僕達の前を通過していく。
そしてそのキャラクター達を、僕達を含めた観客達が、嬉しそうな表情でそれらを眺めていた。
「はわあああ……めっちゃ綺麗……」
「ええ……ですが、こよみさんのほうがずっと綺麗ですよ?」
「はわ……もう……」
そう言うと、こよみさんはうっとりとした表情を浮かべた。
フロートじゃなくて僕にうっとりしてくれたんだったら……って、それは自惚れ過ぎかな。
そして。
「耕太くん耕太くん! ほ、ほらあれ!」
こよみさんが興奮しながら、パレードの会場に入ってきフロートを指差す。
それは、お目当ての白雪姫のフロートだった。
「はわあああ……白雪姫、可愛いなあ……」
「こよみさんのほうがカワイイです」
「はわ!?」
うん、そこは絶対に譲れない。
こよみさんが世界で一番素敵でカワイイんだから。
「もう……耕太くんがそんなことばっかり言うさかい、フロートやのうて耕太くんにしかウチの目が行かへんやんか……」
そう言いながら、こよみさんは照れくさそうに僕の服をつまんだ。
「あはは……僕は最初から、こよみさんしか見ていませんけどね」
「はわ……もう……大好き」
「僕もです……」
そして、白雪姫のフロートが僕達の前を通過しようとした、その時……僕とこよみさんはキスをした。
◇
「はわあああ……今日は楽しかったあ……」
デスティニーワールドの駐車場で、こよみさんは両頬を押さえながらうっとりとしていた。
「そうですね。今回は邪魔もなかったですし」
「ホンマや! やっとちゃんとデートできたで!」
「あはは」
「えへへ」
僕達は笑い合いながら、コツン、とお互いのおでこをぶつけた。
「さあて、と」
「うん」
「行きましょうか」
「そやね……行こか」
「「決着をつけに!」」
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜投稿予定!
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