紫村由宇③
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■紫村由宇視点
『……由宇』
私は上代くんとピンクが去った後も、お父さんと向かい合ったままでいる。
『由宇……大きく、なったな……』
「お父さん……ええ……ええ……!」
こんな姿に変わり果ててしまったお父さん。
だけど、私の中に響くお父さんの声は、最後に逢った……最後に私の頭を撫でてくれた、あの時のお父さんと同じ声だった。
「私は……怪人になったわ……」
『……知っている』
「そっか……」
ふふ……人間やめちゃったんだから、ある意味、ものすごい親不孝よね。
だけどお父さんだって、私とお母さんの前からいなくなって、今もこうして怪人になって目の前にいるんだから、娘不幸……家族不幸、よね。
「だけど……だけど、私は後悔していない。だって、私はお父さんの娘だもの。お父さんと同じように生物工学の道を選び、結果、こうなったんだから本望よ」
『そうか……』
私とお父さんの間に、沈黙が訪れる。
だが、その沈黙を破ったのは、お父さんからだった。
『由宇……私は、お前と母さんのこと、片時も忘れたことはなかった』
「っ!」
その言葉を聞いた時、私の中から熱いものがこみ上げた。
「……なによ」
『……由宇』
「なによ! 私達のこと今まで放ったらかしにして! 勝手にいなくなって! 怪人なんて厄介なもの生み出して! 今さら……今さら、こうやって私の前に現れて! 私は……私はあ……!」
瞳から大粒の涙が零れる。
『……すまない。もちろん、謝って済むような話でないことも承知している……』
「本当よ……お母さんに、何て言えばいいか……」
『……母さんには、ただ、“死んだ”と伝えてくれればいい……』
「本当に勝手ね……」
私は吐き捨てるように呟いた。
「……それに、上代くんとピンクは私の大切な仲間なの。そして、この飯綱先生も」
そう言うと、私は一歩下がって立つ飯綱先生へと目を向ける。
「紫村……」
「……何よ、今さら私の仲間じゃないなんて言ったら、本気で怒るわよ?」
「……ふふ、そうだな。私は、紫村の……上代くん達三人の仲間、だ……」
「そう。お父さんはそんな仲間達まで不幸にしたんだから、ちゃんと責任……取ってもらうからね」
『……うむ。全てが終わったら、その時こそ私は……』
「「っ!? 反町様! それは……!」」
「はあ……」
分かっていない。
この、まるでダメなお父さんは何も分かっていない。
「……いい加減にしてよ! これだけ迷惑かけておきながら、まだ分からないの!? お父さんのすべきことは、生きてこれまでの罪滅ぼしをすることでしょ!」
『っ! だ、だが、私に生きる資格など……』
「ウルサイ! このバカ親父! お父さんは、生きて怪人を人間にするための研究をしなきゃいけないの! 生きて……生きて、上代くんとピンクを幸せにしてあげなきゃいけないのよ!」
そうよ!
勝手に怪人なんかにされちゃって、不幸のどん底に落とされて、それでもなお一緒に幸せになろうとしてるあの二人を、今度こそ幸せになれるようにしてあげなきゃいけないのよ!
だから!
「だから……私はあなたを勝手に死んで楽にさせたりなんかしない。死ぬなら、あの二人を幸せにしてから死んで」
「紫村……」
『…………………………』
ここまで言っても分からないなら、その時はもう……もう、“お父さん”とは思わない。
だから……これからもお父さん、って呼ばせて?
これからも、尊敬する大好きなお父さんでいて!
『……そうだな』
「っ!」
『私が馬鹿で浅はかだったようだ……娘に言われなければ、そんなことにも気づかないとは、な……』
「…………………………」
『うむ……これからの生涯、必ず……必ず、桃原こよみさんを……彼女を人間に戻してみせる! 必ずだ!』
「お父さん!」
うん! やっぱりお父さんはお父さんだ!
私の大好きな……お父さんだ……!
私は瞳から零れる涙をグイ、と拭うと、もう一度お父さんを見据える。
だって……私個人としての話はここでおしまいだから。
これからは、私は上代くんやピンク、飯綱先生の仲間として……ヴレイバイオレットとして、怪人スオクインとしての私だ。
だから、今度は私の覚悟と決意を示す番。
「お父さん……お願いが、あるの……」
『……お願い?』
「そう、お願い……」
それは。
「この私を“改造”して欲しいの。もっと……もっと強く」
『っ!? な、何を……!』
「私も……私も、再度の“改造”を望みます」
振り返ると、飯綱先生も決意を込めた表情でお父さんを見つめていた。
飯綱先生……いいえ、怪人イタチソード……あなたも私と同じ気持ち、ってことね。
なら……なら、私と一緒に!
『バ、バカな! 二人とも気は確かか!?』
「うん……だって、あの二人だけに背負わせるなんて、そんなの不公平だし、それに……それに、私はお父さんの娘だもの。お父さんの不始末は、娘のこの私が終わらせる!」
「私も! ……私も、ハッキリと申し上げますと、せっかく取り戻した人間としてのこの身体、手放すことは断腸の思いです……ですが! 私は“ファースト”として、反町様の弟子として、そして、上代くんの師として、この最後の闘いに参加します!」
私と飯綱先生は、決意と覚悟を込め、お父さんに訴えた。
『……馬鹿者が』
「はあ……バカはお父さんでしょ? こんなことしでかして……娘じゃなかったら、こんなこと放り出してるわよ」
「フ、そうだな……弟子である私としても、最後まで尻拭いせねばならん」
「言えてる」
私と飯綱先生は笑い合いながら、わざと軽い言葉でお父さんに悪態を吐いた。
だってそうじゃなかったら、私もお父さんも飯綱先生も、自分達の罪に耐えられないと思うから。
だから。
「お父さん」
「反町様」
「「私達に、改造手術を!」」
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次話は明日の夜更新予定です!
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