二人を幸せにする大切なもの
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「耕太くん……っ!」
涙で顔をくしゃくしゃにしたこよみさんが、僕の腕を握りしめる。
「こ、こよみさんっ! 離してくださいっ!」
「イヤや!」
僕が振り払おうとしても、こよみさんは僕の腕を必死に握り締め、その顔を左右に振った。
「ですが! アイツは……アイツはこよみさんをっ!」
「それでも! それでもやっ! ……耕太くんがウチのために本気で怒って、許せへんかって、こうやってしてくれてること……ウチを本気で愛してくれてること……分かってるから……せやけどっ!」
そう言って、こよみさんが涙をぽろぽろ零しながら、僕の顔を見つめる。
「せやけど……耕太くんのこの手は、ウチを幸せにしてくれる大切な手や……決して、人を殺めるための手やないんや……それに、この包丁……」
こよみさんの視線につられ、僕も包丁へと目を向ける。
それは、僕がこよみさんと一緒に暮らすようになった時に買った、スーパーの安物の包丁。
だけど、僕とこよみさんを笑顔にして結んでくれた、大切な思い出の包丁。
「この包丁は……耕太くんが美味しくて幸せになれるご飯を作るための大切なものや……せやから、こんなことに使ったらアカン……」
「あ……」
そう言って、こよみさんは僕の指を一本ずつ外していくと、包丁はカラン、と僕の手から滑り落ちた。
「耕太くん……ウチは幸せやで? ウチは怪人かもしれへんけど、それでも……それでも、そんなウチと一緒にいようって、ずっとずっと一緒にいようって、ウチを愛してるって言ってくれる、耕太くんがいるもん……いるんやもん……!」
「あ……ああ……」
僕の目から涙が溢れる。
「だ、だけど……こよみさんが……こよみさんがあ……!」
すると。
「ウチなら大丈夫や! だって……だって、耕太くんがいるもん! ウチには、世界一大好きな耕太くんがずっと傍にいるもん!」
こよみさんが、僕の身体を強く抱きしめた。
「あ、ああああああ……こよみさん、こよみさあん……!」
「耕太くん、ありがとう……ありがとう……! ウチ……ウチ、ホンマに幸せや……!」
「「うわあああああああん!!!」」
僕達は抱き合いながら、大粒の涙を流して泣き続けた。
お互いが、愛する人の温もりを噛み締めながら。
◇
「あ……か、上代くん、ごめんなさい……」
泣き止んで落ち着きを取り戻した僕達に、先輩がものすごく申し訳なさそうな表情で謝罪した。
「あ、ああ、いえ……これは僕のせいでもありますから……」
そう言って、僕は自分の左脚を見る。
先輩のいばらでズタズタになった左脚は、今は応急処置をしているが、床は僕の血で染まったままだ。
「もう……耕太くんはホンマに無茶して……」
「あはは……すいません……」
「ホンマやで? 耕太くんはウチの旦那さんなんやさかい、もっと身体を大事にしてもらわんと」
「あはは……ですね……」
「え? え? チョット待って!? “旦那さん”って、まだ結婚もしてないでしょ!?」
こよみさんの言葉に、先輩が目を見開いて僕達を交互に見る。
ま、まあ、そうですよね……。
「あ、そ、その……実は先日、こよみさんにプロポーズしまして……」
「えへへ……そやねん……」
僕達はお互いはにかみながら、先輩達に報告した。
すると。
「え!? そ、そうなの!? な、なんだあ……」
先輩があからさまにガッカリし、肩を落とした。なんで?
「フフ……まあ、仕方あるまい。二人とも、おめでとう」
「はい、ありがとうございます」
「おおきに」
飯綱先生から祝福の言葉を受け、思わず僕達の顔がほころぶ。
ああ……誰かにおめでとうって言ってもらうと、実感が湧くなあ。
ねえ、こよみさん。
「えへへ、そやね」
アレ? 僕、まだ何も言ってないんだけど。
「そ、そらウチは耕太くんの、その、奥さんやもん……耕太くんの考えてること、分かるよ……?」
「こよみさん……!」
「はわ! えへへ、もう……」
僕が感極まってこよみさんを抱きしめると、こよみさんは優しく僕の頭を撫でてくれた。
ああ、こよみさんは最高だ……。
『オホン』
……なのに、何で邪魔するかな。
ただの脳味噌のくせに。
「なんですか?」
『う、うむ……そろそろ話を進めたいのだが……』
「は?」
『あ、い、いや……それで、これからのことなんだが……』
コイツ、僕が露骨に顔をしかめたのに、無視して話を進めやがった……。
「ま、まあまあ耕太くん、大事なことやから……」
こよみさんが苦笑しながら僕を宥めるので、僕は渋々コイツの話を聞いてやることにした。
こよみさんに感謝しろよ。
『そ、それでだな……これから我々は、高田光機との最終決戦に挑むことになる。なにせ、あの並井十蔵が君達に全てを暴露したのだ。当然、高田光機は君達が向かってくることを予測しているだろう……そして、万全を期して待ち構えているはずだ』
「……万全を期して、というと?」
『うむ……君達も分かっているだろう。高田が生み出した“彼女”のことを』
「アリス……」
ああ……アリスとは、また遭うことになるとは思っていた。
アリスは、また姿を変えて、僕達の前に立ちはだかるんだろう。
「耕太くん……」
こよみさんが僕の手をキュ、と握り、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「大丈夫、ですよ。これで……」
そう……これで最後だ。
僕は、こよみさんの手を強く握り返してニコリ、と微笑みながら、心の中で強く誓った。
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次話は明日の夜更新予定です!
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