耕太の怒り
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『……それから一年後、並井十蔵と高田光機は“ダークスフィア”という組織を作った。君達“ヴレイファイヴ”との闘うための受け皿として』
長時間に及ぶ映像を見させられた僕達は、あまりの衝撃に全員声を失っていた。
特に、こよみさんと飯綱先生は……。
「すいません……ちょっといいですか?」
恐らくこの中で最も部外者である僕は、努めて冷静にこの反町一二三という男に尋ねる。
『何かね?』
「色々と聞きたいことはありますが……まず、こよみさんと闘わせてデータを得るために“ダークスフィア”をその二人が作ったことは理解できます。では、これほどまでに慕っていた飯綱先生……イタチソードやゴライドウといった“ファースト”は、なぜ“ダークスフィア”に付き従ったんですか?」
『それは……「上代くん、それは私から話そう……」』
反町一二三の言葉を遮るように、飯綱先生が訥々と話し始める。
「私は……私達は、“ダーウスフィア”の総帥が反町様だと思っていたからだ。まあ、要は騙されていた、ということだ……」
飯綱先生は唇を噛み、悔しさをにじませる。
「それは僕も理解しています……僕が聞きたいのは、なぜそう簡単に騙されてしまったか、ということです」
「そ、それは……私達が愚かだった、ということだ……何せ、反町様のお姿も確認せずに、ただカネショウ……並井十蔵の言葉をそのまま鵜呑みにし、反町様が我々のために立ち上がってくれた、そう信じ込んでいたのだから……」
飯綱先生はそう説明するが、僕は到底納得できない。
つまり。
「……並井十蔵と高田光機の陣営に、洗脳といった能力をもつ怪人がいたりしませんか?」
「っ!?」
僕の言葉に、飯綱先生が息を飲む。
「あ、い、いや、それは……」
「いるんですね?」
「う、うむ……君も知っている“ファースト”の一人、“怪人グリフォニア”だ……」
うん……つまり……。
「その怪人グリフォニアは、最初から向こうの陣営だったってことですね。そして飯綱先生とゴライドウを洗脳し、あたかも反町一二三が総帥であると植え付けた」
「う、うむ……」
ふう……とりあえず、一つ目の疑問は解決した。
「分かりました。次の質問ですが、あなたは『DS-v細胞』を『DS-n細胞』と偽った、とありますが、どうして高田光機はこよみさんが適合者であると分かったんですか? ……いや、どうしてこよみさんが『DS-v細胞』の適合者であると、調べることができたのですか?」
「ね、ねえ上代くん、それは全国の血液サンプルから調べたってさっきの映像で……」
「いえ、先輩よく考えてみてください。高田光機は『DS-v細胞』の存在を知らないんですよ? なのに、どうやって血液サンプルから適合しているかどうかなんて調べることができるんですか?」
「あ……」
僕の説明に、先輩が思わず口元を押さえる。
「そう……つまり、高田光機は初めから『DS-v細胞』を知っていたということに他ならないんです。これは、どういうことですか?」
そう言うと、僕は反町一二三を睨みつける。
『……君の言う通り、彼は『DS-v細胞』について知っていた……ただし、あくまでも『DS-n細胞』のプロトタイプとして……』
「…………………………」
『なので、高田くんはその適合条件などについても知り得ていたし、調査も可能だった、ということだ……』
「……初めから『DS-v細胞』を高田光機にその存在を教えないという選択肢もありましたよね? なのに、オマエは高田光機に『DS-v細胞』を渡している……」
『…………………………』
「つまり! オマエ自身、こよみさんという研究対象を求めていた、そういうことだろう!」
僕は反町一二三を指差し、大声で怒鳴った。
だって……だってこの男は、どう言葉で言い繕おうと、結局はこよみさんのことをモルモットとしか見ていないということだから……!
『……君の言う通りだ』
「お父さん!?」
反町一二三の肯定の言葉に、先輩が驚きの声を上げた。
『偽ったとはいえ、私が『DS-v細胞』を高田くんに渡していなければ、“ヴレイヴブロッサム”は……』
「おい! こよみさんには“桃原こよみ”という素敵な名前があるんだ! “ヴレイヴブロッサム”なんてフザケた名前じゃないぞ!」
『……すまない。桃原こよみさんは永遠に見つからず、普通に過ごせていたはずだ……結局は私自身が研究者として『DS-v細胞』の適合者を見つけ出し、研究したかったからに他ならない……』
「ああそうだ! オマエは……オマエは私利私欲のために……こよみさんを探し出すために、高田光機を利用したんだ!」
僕はそう叫びながら、一歩ずつ反町一二三へと近づいていく。
「そして……そしてこよみさんとご両親は、オマエの研究の……私利私欲のせいで幸せな時間を失ってしまったんだ! オマエは……オマエはあっ!」
僕はカバンの中で握っていた包丁を取り出し、反町一二三へと切っ先を向けた。
「「っ!?」」
「こ、耕太くん!?」
『…………………………』
先輩と飯綱先生が息を飲み、こよみさんが僕の名を叫ぶ。
だけど。
「オマエは……オマエだけは許さない! こよみさんの人生をメチャクチャにした、オマエだけは絶対に許さないんだあああああ!」
僕は包丁を強く握りしめ、反町一二三に突進する。
だけど。
「っ!? は、離せ———————!」
僕の脚に先輩のいばらが巻きつき、僕の動きを止める。
「か、上代くん……君が怒る気持ちも分かるわ……だけど……だけど、反町一二三は私のお父さんなの……」
「そ、そんなの関係ない! 僕は……僕は……っ!」
僕はいばらの蔦を外そうと、ガシガシと包丁で叩き付ける。
「……ムリ……包丁なんかじゃ、私のいばらは外せないわよ……」
そう言う先輩の顔は、涙で濡れていた。
だけど、そんなことは関係ない!
いばらが外せないなら……!
僕は無理やり床を這いずり、少しずつ反町一二三へと向かって行く。
既に僕の脚には、先輩のいばらが食い込んでいて血まみれになっている。
だけど……構うもんかっ!
僕はまた一つ、腕を前に伸ばすと。
「耕太くん……っ!」
涙で顔をくしゃくしゃにしたこよみさんが、僕の腕を握りしめた。
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