反町一二三⑤
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■反町一二三視点
肉片となった“ヴレイヴブロッサム”の後片付けを終え、私は研究室に戻り、椅子に腰を掛ける。
「ふう……」
すると。
「……反町様」
「ガネホッグ……君か」
「……“ヴレイヴブロッサム”については記憶操作を施したうえ、無事、彼女の実家付近に元の姿のまま解放したとの連絡が……」
「そうか、すまない……」
「ハッ!」
そのことだけを告げ、ガネホッグはその場を去った。
「だが……予想した通り高田くんが行動を起こしてくれたおかげで、上手くいったな……」
彼がこういった行動に出ることは予想していた。
人一倍、自己顕示欲と承認欲求の高い男だ。
私の研究を出し抜くためには、彼女を調べて『DS-n細胞』のデータを収集するしかない。
……案の定、サンプルの採集に来たか。
あらかじめ彼女のダミーを用意して正解だった。
そして、ダミーに刺激を与えた瞬間、ただの『DS細胞』が暴走するようにプログラムしておいたことも……。
……これで、彼等の中で “ヴレイヴブロッサム”という存在はこの世から消えた。
後は、彼女が人として愛する家族の元で過ごしてくれればと思うが……そうはならないだろう、な。
それに、然るべき時が来れば、どうしても彼女の力が必要となる。
並井十蔵と高田光機、この二人が生み出した『DS細胞』による改造人間を全てこの世からなくすために……。
だから、私はその時までに準備をしておこうと思う。
まずは……『DS-v細胞』を強制的に“十段階”進化させる補助装置の開発、そして、『DS-v細胞』を改造人間に注入するための武器及び防具の作成、だな。
私は改めて机に向かうと、次の研究に没頭した。
◇
彼女がこの研究所を去ってから半年後、私は並井十蔵から呼び出しを受け、彼の部屋へと向かう。
……恐らく、この私を抹殺するつもりなのだろう。
何せ、既に『DS細胞』と『DS-n細胞』の開発は終了し、臨床もほぼ終わっている。
こうなれば、私はもはや用済み……いや、全てを知っている分、邪魔でしかないだろう。
それに、今後はあの高田くんが私の後を引き継ぐのだろうから。
「失礼します」
私は並井十蔵の部屋へ入ると、少年姿の彼は豪華なソファーに座りながら、飴を舐めていた。
そして、その隣には高田くんが。
「やあ! 待ってたよ!」
「それで……私にどのようなご用件で?」
すると、並井十蔵は嬉しそうに顔を歪め、私に向かって飴を突き付けた。
「もちろん! 君に最後の実験に付き合ってもらうんだよ!」
「最後の、実験……?」
すると。
「な、何だお前達は!?」
突然現れた黒服の男達数人に取り押さえられ、床にうつ伏せになる。
「高田くん」
「ええ」
すると、高田くんが立ち上がり、ツカツカとこちらへと近付いて来る。
「先生……最後の実験、付き合ってくださいますよね?」
「高田くん……何を!? ガアッ!?」
彼は注射器を取り出し、私の腕に突き刺した。
「こ、これ、は……グオオオっ!?」
「ハハハハハ! 今あなたに打ち込んだのは、『DS-n細胞』ですよ! ただし、“ヴレイヴブロッサム”に使った、あの出来損ないですけどね!」
「ググッ……な、何だ……と……!?」
高田くんは苦しみにのたうち回る私を見下ろし、嬉しそうに笑う。
「フフフ……自分が生み出した『DS-n細胞』を打ち込まれてどんな気分ですか? まあ、自分の作品で苦しむんだ。本望でしょ?」
「ググ……グググ……!」
「おやおや、苦しいですか? ですが安心してください。あなたの研究は、この僕がさらに発展して差し上げますよ。まあ、『DS-n細胞』をここまで発展させたのはこの僕なんですから、既にあなたを超えたと言っても過言ではないですが」
グ……これが、ムク、い、カ……!
すルと。
——バアンッ!
「な、何だ!?」
「……反町様はいただいていくぞ」
……ドア、を、蹴破っ、テ、現れタのハ……ガネホッグだっタ。
ダ、メダ……いし、キ、が……。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……。
◇
——暗い。
——何も、見えない。
——ここはどこだ?
——私、は…………………………ハッ!?
『ソ、ソウダ! 並井十蔵ト高田光機ハ!?』
「反町様!」
私の視界に入ったのは、全身傷だらけのガネホッグだった。
『ガ、ガネホッグ……! キ、君ノソノ怪我ハ……!』
「私は良いのです! それよりも反町様……私が“視える”のですか?」
『ナ、何ヲ言ッテイルンダ!? 視エルモ何モ、ソンナコトハ当然……』
「反町様……失礼します」
そう言うと、ガネホッグは私を抱え、どこかへ移動する。
というより……抱えられている? 私が?
いくらガネホッグが長身とはいえ、さすがに抱えられているのであれば、このような持ち方は……。
私はこの場所も、どこへ向かっているかも、ましてや、ガネホッグになぜ抱えられているかも、皆目見当がつかない。
私はガネホッグに抱えられたまま洗面所のようなところへと来ると、ガネホッグが備え付けの鏡の前に立つ。
すると。
『コ、コレハ……!?』
映っていたのは、ガネホッグに抱えられた、人間の脳だった。
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次話は明日の夜更新予定です!
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