反町一二三④
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■反町一二三視点
「失礼します」
研究室の私のデスクで論文の整理をしていると、被験体の一人“ガネホッグ”が入ってきた。
「……どうした?」
「はい。“例の件”について、ですが……」
ガネホッグが私の傍に近づくと、そっと耳打ちする。
「(反町様の研究データ一式について、木更津の例の場所に移動させました)」
「(そうか……すまなかった)」
「(いえ、仕事ですので)」
そう言うと、彼は踵を返し、無言で部屋を出た。
……久しぶりに家に帰るか。
家族への手紙を忍ばせるために。
◇
「お父さん! お帰りー!」
帰るなり、由宇が私に飛びついてきた。
「ははは、ただいま」
「今日はゆっくりできるの?」
「すまないね、またすぐに戻らないといけないんだ」
「えー! ヤダ! もっと一緒にいたい!」
私の言葉に、由宇がすねた顔をした。
由宇……。
「すまない……これが終わったら、その時はゆっくり遊ぼう?」
「ホント? 約束だよ?」
「ああ、約束だ」
そう言うと、私は由宇の頭を優しく撫でる。
……最後となる由宇の感触を確かめるように。
そして私は、自分の書斎へと来ると、机の下にあらかじめ書いておいた手紙を、木更津のあの場所の鍵とともに引き出しの裏に貼り付ける。
いつか、家族に気づいてもらえると信じて。
さあ、研究所に戻ろう。
愛する娘の顔も見られたんだ。
この私がこれ以上を望むのは、それこそ罪を重ねるようなもの。
あとは、潔く散るだけだ。
◇
「た、大変です!」
私が研究室に戻ると、高田くんが血相を変えて研究室に飛び込んできた。
「一体どうした?」
「どうしたじゃありませんよ! 被験体が……“ヴレイヴブロッサム”が、突然膨張を始めたんです!」
「どういうことだ!?」
私は高田くんの後に続き、被験体がいる部屋へと向かう。
すると。
「うわあああああああ!?」
研究員達の悲鳴が聞こえる。
「ど、どうした!?」
「あ……あ……」
部屋から飛び出してきた研究員に声をかけるが、何かに怯えているのか、恐怖で顔を引きつらせ、言葉にならない。
私は慌てて部屋を覗くと。
「な、何だこれは!?」
そこには、部屋の半分を埋め尽くすほどのぶよぶよとした肉の塊のようなものが蠢いていた。
「これは一体どういうことだ!?」
私は思わず高田くんに詰め寄る。
「わ、分かりません! “ヴレイヴブロッサム”の細胞を採集しようと注射器を差し込んだら突然……」
「はあ!? なぜそんなことを!? まだ経過観察は終わっておらず、まだ安定していないとあれほど言っていただろう!」
「で、ですが……」
「そんな時に余計な刺激を与えて……! くそっ! これじゃもうどうにもならない……!」
私は高田くんを叱責すると、事の重大さに気づいたのか、消沈した顔でうなだれる。
だが、今はこれを何とかせねば……!
「とにかく、研究員は速やかに退避! そして……“ヴレイヴブロッサム”は廃棄処分とする」
「な、何ですって!?」
苦渋の選択を伝えた私に、高田くんが詰め寄る。
「何を考えているんですか! アレは“神”へ至るための希望なんですよ! それを!」
「その希望とやらをあんな風にしたのは誰だ!」
「っ!?」
私が高田くんを一喝すると、彼はその場にへたり込んだ。
私はポケットからスマホを取り出すと、専用ダイヤルにつなぐ。
「……反町だ。“ファースト”の出動を要請する」
『本気ですか!? 一体何が!?』
「“ヴレイヴブロッサム”が暴走した」
『なっ!?』
通話の向こうで、息を飲む音が聞こえる。
「『DS-n細胞』の膨張は止まらず、今は部屋の半分を埋め尽くしている状態だ。このままでは……」
『わ、分かりました! 直ちに向かわせます!』
私はスマホの通話終了のボタンをタップすると、深い溜息を吐いた。
後は、“ファースト”に任せるしかない……。
私は膨張を続ける“ヴレイヴブロッサム”を眺めながら、彼らが来るのを待った。
そして、“ヴレイヴブロッサム”の肉塊が部屋全体を埋め尽くした時。
「フン! アイツを潰せばいいのだな!」
「フフ、それは容易いですね」
「馬鹿者! 油断するな!」
「…………………………」
ゴライドウ、グリフォニア、イタチソード、ガネホッグの四人が無事到着した。
「四人とも……あの肉塊を処分するのだ」
「「「「ハッ!」」」」
四人は返事をすると、一斉に“ヴレイヴブロッサム”へと飛び掛かり、そして、瞬く間にただの肉片と化した。
「……すまなかった」
私は様々な意味を込め、頭を下げて彼等に謝罪する。
「そ、反町様! とんでもありません!」
イタチソードが恐縮しながら私の身体を起こす。
「だが……」
「ハイハイ、とりあえず何とかなって良かったよ!」
すると、一人の少年が手を叩きながらにこやかに現れた。
「君は……?」
「ボク? ボクはまあ“カネショウ”とでも呼んでよ! ね、高田くん!」
高田くんの……知り合い?
…………………………まさか!?
「君……いや、あなたは……!?」
「しー、ナイショ!」
少年……カネショウはおどけながら人差し指を唇に当てる。
「とにかく、失敗しちゃって残念だったねー! ま、別にもうどうでもいいんだけど?」
「どうでも、いい?」
「そ。だって、『DS-n細胞』については、このボクという完全体がいるんだもん。これ以上必要ないよね?」
「…………………………」
「そういうことで、ボクも戻るね。高田くん、グリフォニア、行こ!」
「ああ……」
「はい」
そして、カネショウと高田くん、グリフォニアはその場を去った。
「フン、何だか知らんがいけ好かないな」
「まあそう言うな。彼等も我々と同じ“ファースト”なのだからな」
「…………………………」
ゴライドウが三人の背中を見ながら鼻を鳴らすと、イタチソードがそれを窘め、ガネホッグは無言で目を瞑る。
「三人とも、今日は助かった、今度からは気をつける」
「い、いやいや、イタチソードが言ったように、反町様はお気になさらず!」
また謝罪しようとすると、今度はゴライドウに止められた。
「また、君達の力を借りる時が来るだろうが、その時はまた頼む」
「ガハハハハ! 任せてください! このゴライドウ、必ずや反町様のお力になりますぞ!」
「反町様! 当然、このイタチソードも微力ながらお供いたします!」
「…………………………」
ありがたい……このような姿に変えてしまった私に、ここまで慕ってくれるとは……。
「うむ……“その時”が来たら、また連絡する」
「「「ハッ!」」」
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜更新予定です!
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