反町一二三③
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■反町一二三視点
「高田くん、これは……?」
「? それはもちろん“適合者”、ですけど?」
私は女の子を指差しながら尋ねると、彼はキョトンとした表情を浮かべ、ただ“適合者”と答えた。
そしてそこには、この女の子に対する一切の情が含まれてはいない。
「……君は、こんな年端もいかない女の子に成功する可能性が極めて低い適合手術をすることに、思うところはないのかね」
私はそう言うと、彼に対し少し侮蔑を込めた視線を送る。
だが。
「は、はあ……ですが、偉大な研究には犠牲がつきものですし、それに、そんな研究に貢献できるんですから彼女も本望ですよ。大体、先生も今さら何を言っているんですか」
高田くんはやれやれといった表情をしながら肩を竦める。
もはや、高田くんの中には倫理という言葉は欠如してしまっているようだ。
……まあ、それはこの私も同じ、か。
「……分かった。では早速、彼女に『DS-n細胞』の結合手術を行う。高田くん、準備を」
「はい!」
高田くんは嬉しそうに、研究室へと戻って行く。
「……もう、由宇にも顔向けできない、な」
私は、横たわる女の子の髪を撫でながら、自責の念にかられた。
◇
「先生! やりましたね!」
結合手術が終わり、ガラスケースで眠る女の子を眺めていると、どこかへ行っていた高田くんが、嬉しそうに話しかけてきた。
「ああ……ひとまず結合手術は成功、術後の様子も安定しているな」
「はい! これで、『DS-n細胞』は名実ともに完成です!」
「はは、まずは経過を見なければな」
そう……『DS-n細胞』と偽って彼女に結合したものは、『DS-v細胞』。
『DS-n細胞』自体は既に完成しているが、今回の結果を成果として偽れば、並井十蔵も高田くんもそれを信用するだろう。
実際、『DS-n細胞』には細胞の活性化、老化・破損したヒト細胞を修復する機能もあるから、彼の求める不老不死にもつながる。
だが、『DS-v細胞』は、そんな『DS細胞』や『DS-n細胞』の数倍の機能を備えつつ、これらの細胞を破壊しうるもの。
それを、こんな小さな女の子に結合させ、未来を託すことになるとは……。
すると。
「反町くん! 高田くんから聞いたぞ! 遂にやったそうじゃの!」
勢いよく研究室のドアが開かれ、並井十蔵が満面の笑みを浮かべながらツカツカと入ってきた。
「これで儂の不老不死は約束され、今まで以上にこの国に“貢献”できるというものじゃ!」
「は……ありがとうございます」
「しかも、なんでも今回の件、高田くんのお手柄じゃとも聞いておる。二人とも、良くやってくれたぞ」
「恐縮です」
高田くんが並井十蔵に対し深々と頭を下げる。
ふむ……高田くんは並井十蔵側についた、ということか。
「それで、儂への適合手術は一体いつになりそうじゃ?」
「は、それは……「それでしたら、いつでも! なんなら、この僕にお任せいただければ!」」
私の言葉を遮るように、高田くんが名乗りを上げる。
「待て高田くん、まだ経過観察が終わっているとは……」
「何を言ってるんですか! 術後も安定していますし、なんの問題も起きていないじゃないですか! 今こそ、並井様に恩を返す時です!」
「フォフォ、嬉しいことを言ってくれおる。では、高田くんにお任せしようかの?」
「っ! は、はい!」
そう言うと、並井十蔵は上機嫌で研究室を出て行った。
「……高田くん、どうするつもりだ? さっきも言った通り、まだ経過も見ていない中、本当にあの男に手術を施すつもりか?」
「ええ。これは僕がやりますから、先生はご心配なく。そうすると、まずは『DS細胞』で強化しつつ、さらにそこへ『DS-n細胞』で……」
高田くんは不敵な笑みを浮かべた後、ブツブツと呟きながら研究室を出て行った。
◇
それからしばらく経ち、女の子の経過も順調。ここまで安定していれば、もう万が一ということはないだろう。
……後は、どうやってあの二人を欺くか、だな……。
「先生。並井様の手術、いよいよ明日実施します」
「そうか……」
高田くんがやって来て、あの男への結合手術について嬉しそうに報告する。
「だが、彼は既に高齢だ。『DS-n細胞』の結合手術に耐えられるのか?」
「はは、当然ですよ! そのためにあらかじめ『DS細胞』の結合手術を施しているんですから!」
「…………………………」
危うい。
『DS細胞』との結合手術も、今でこそ成功率は格段に上がったものの、必ず成功するとは限らない。
そこへ、『DS-n細胞』を結合させるなど……。
「それに、僕は僕なりに考えがありますので。いやあ、あの『DS-n細胞』は無限の可能性を秘めていますよ! なにせ……」
「なにせ……?」
「おっと、いくら先生でもこれ以上はまだ言えません。まあ、結果をお待ちください」
そう言うと、高田くんは含み笑いをしながら去って行った。
……おそらく高田くんが考えているのは、『DS-n細胞』の進化のことだろう。
あの細胞は、宿主に結合すればそれを介して何段階かに分けて進化する性質があることは私も突き止めている。
そして、『DS-n細胞』が進化しきった時、まとめて回収する、そういうことだろう……。
「高田くん……君は……」
彼は、どうやら悪魔の道を選んでしまったようだ。
だが、同じく悪魔の道を歩む私には、彼を止める資格はない。
「……時期を早めるか」
私は、誰に気づかれることなく、そっと呟く。
……ここにある全てを終わらせる決意と共に。
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次話は明日の夜更新予定です!
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