肉じゃがとだし巻き卵
いよいよ最終章開幕!
どうぞよろしくお願いします!
「……よし」
僕は、今日もご飯の準備に取りかかる。
こよみさんの笑顔を取り戻すために。
僕自身、こよみさんに笑顔を見せられるように。
まずはごはんの用意から。
お米を研いでざるに入れて水を抜くと、電子ジャーでお米を炊く。
次にお鍋に水を張り、その中に昆布をひとかけら入れる。
そして、豆腐を小さく角切りに、ネギはみじん切り、皮をむいたジャガイモ・ニンジンを一口サイズに、玉ねぎを櫛切りに揃える。
今度は、さっきの鍋とは別の鍋で油を軽く熱して、一口大に切った牛肉を炒める。
牛肉の赤い部分がほとんどなくなったら、そこへ切った野菜を入れ、油がなじんだら水、砂糖、しょうゆ、酒、みりん、顆粒だしを入れて落し蓋をする。
あとは火にかけて三十分程煮詰めれば、肉じゃがの完成だ。
その間に、別の鍋に入れていた昆布を取り出し、豆腐と顆粒だしを入れて一煮立ちさせたら火を止める。
そこへ、お玉に味噌をよそい、鍋で丁寧に溶かす。
今度はだし巻き卵なんだけど……その前にサラダも作っておこう。
きれいに洗ったキャベツとトマトを切り、器に盛り付けておく。
そして、いよいよだし巻き卵。
ボウルに卵を三つ割り、そこ多めの砂糖、顆粒だし一つまみ、塩・醤油少々、水を半カップ入れてよくかき混ぜる。
取り急ぎスーパーで買った玉子焼き用の安物フライパンをよく熱して、油を浸したキッチンペーパーで拭くと、そこへお玉二杯分の卵液を入れる。
プツプツと膨らんだら箸で潰し、半熟の状態で手前側に巻いていく。
「……美味しそうなええ匂いがする」
リビングで静かに待っていたこよみさんが、匂いにつられてキッチンにやってきた。
「もう少ししたらできますからね……よっと」
「はわあ……やっぱり耕太くんは上手やなあ」
こよみさんがまるで懐かしむかのように、卵をかえす僕の手つきを眺めている。
「はい、この辺は慣れですね……また一緒に料理しましょう」
「うん……」
こよみさんと会話しながらも、だし巻き卵は綺麗に出来上がった。
それを食べやすいように切ると、お皿に盛った。
「一口……食べてみますか?」
「うん……」
頷くこよみさんに、僕はだし巻き卵を一口サイズに切り取ると、それをつまんでこよみさんの口へ運ぶ。
「はむ……はふはふ……」
「どうですか……?」
「やっぱり……耕太くんのだし巻き卵が世界一美味しい」
「ありがとう、ございます」
こよみさんは噛み締めるようにゆっくりと咀嚼する。
「それじゃ……ご飯にしましょうか」
「うん……」
僕は肉じゃがの鍋から落し蓋を取り出し、器に盛る。
「こよみさん、このだし巻き卵と肉じゃがをテーブルに運んでもらっていいですか?」
「うん」
こよみさんは皿と器を受け取り、テーブルへ運んでいく。
——ピーッピーッ。
ご飯もちょうど炊けたようだ。
水で濡らしたしゃもじでご飯をかき混ぜ、茶碗によそう。
お椀にきざんだネギを入れ、そこに豆腐の味噌汁をよそうと、これもテーブルへと運んだ。
……うん、缶ビールもつけないと、ね。
冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、そのうちの一本をこよみさんに手渡す。
「じゃ、こよみさん」
「うん」
「「いただきます」」
僕達は早速箸をつける。
うん、肉じゃがも味がしみて美味しい。
こよみさんも肉じゃがを口に含むと。
「耕太くん、美味しい……美味しいよ……!」
こよみさんはその可愛い瞳から大粒の涙をこぼす。
僕は……。
「こよみさん」
箸をテーブルに置き、こよみさんを見つめる。
この世界一可愛くて、世界一素敵な、世界一大切な僕の彼女を。
「耕太くん……」
こよみさんも涙をこぼしながら箸を置き、僕を見つめ返す。
言わなきゃ、この僕の想いを。
伝えなきゃ、この僕の決意を。
「こよみさん……僕は、僕の作った料理を美味しそうに笑顔で食べるこよみさんが大好きです」
「うん……」
「だから……だから、僕はこれからも料理を作り続けます。こよみさんに美味しいって言って欲しくて、こよみさんの笑顔が見たくて」
「…………………………」
「来年だって、再来年だって、十年後だって、その先だって、僕がしわくちゃになって、よぼよぼのおじいちゃんになっても、こよみさんに料理を作り続けます」
「耕太くん……?」
僕の様子がいつもと違うことに気づいたのか、こよみさんが少し不安そうな表情を浮かべる。
だけど、僕は言うんです。
だから、僕は伝えるんです。
永遠にあなたの傍にいたいから。
「こよみさん……僕はあなたが一生好きです、死んだって好きです。僕と……結婚、してください……!」
「っ!?」
僕の言葉に、こよみさんが息を飲む。
「こ、耕太くん……」
「僕は、こよみさんだけが……こよみさんだけが大好きなんです。絶対に離したくないんです。僕は……あなたが欲しい」
すると。
「ウチは……怪人、やで……?」
こよみさんが目を逸らし、悲しそうな表情になる。
「怪人だとか人間だとかじゃなく、僕の大好きなこよみさんですよ」
「っ!」
僕はこよみさんへと詰め寄り、その手を握る。
「ウチは人間やないから、いずれ耕太くんを不幸にしてしまうかもしれへん……」
「僕にとって最大の不幸は、あなたを失うことです……」
そして、こよみさんの顎をクイ、と持ち上げる。
「ウチは……ウチは……!」
「こよみさん……僕のプロポーズ、受け取ってくれますか?」
「ウチッ……!」
こよみさんが僕へと飛び込み、そして……キスをする。
「はむ……ん……れろ……ちゅ……ちゅぷ……」
こよみさんが求めるように、貪るように僕の口をついばむ。
こよみさん……!
「ぷは……あ……! ウチ……ウチ……耕太くんが好き! 世界一大好き! ウチも……ウチも耕太くんとずっと一緒にいたい! 耕太くんのご飯をずっと食べていたい! 耕太くんの……耕太くんのお嫁さんになりたい!」
「こよみさん……! こよみさん……!」
「耕太くん……! 耕太くん……!」
そして、僕達はお互いを求め合った。
永遠に……永遠に、その傍から離れないと誓い合いながら。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜投稿予定!
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