怪人ガネホッグ①
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「……よく来たな」
突然、部屋の奥の暗闇から男の声が聞こえた。
「っ!? 誰や!」
こよみさんの呼びかけに姿を現したのは、異様に背の高い不気味な男だった。
その風貌は、二メートルを超える程の身長、肩まで伸びた金髪、暗くてよく分からないが不気味な表情、白衣の袖から覗く大量の体毛……。
「って、なんで技術部主任が!?」
こよみさんと先輩が驚いた表情で目の前の男を見つめる。
「……何を言う。あの資料に隠された座標を読み取ったからこそ、ここにいるのだろう? なら、あの資料を渡した私が仕掛けたものだということくらい、容易に想像つくはずだが?」
男はまるで残念なものでも見るかのように、呆れた表情で肩を竦める。
「……なあ」
「……ええ、ムカツクわね」
そして、そんな男の態度に機嫌を悪くしている二人。
すると。
「……久しいな、ガネホッグ」
「……ああ」
っ!? 飯綱先生と知り合い!?
「先生!?」
「……この男は“怪人ガネホッグ”……私と同じ“ファースト”だ」
「っ!? なんやて!?」
「じゃあ!」
こよみさんと先輩が身構えると、男……怪人ガネホッグが手で制止する。
「安心しろ。私は敵ではないし、ダークスフィアにも属していない」
……どういうことだ?
「は! そんなん信用するとでも……!」
「こよみさん、待ってください!」
「ええ!? 耕太くん、何で止めるん!?
僕の制止に、こよみさんは意外といった表情を見せる。
「……それで、僕達をここへ呼び出した理由……それは何ですか?」
「ほう……察しのいい奴が一人いるじゃないか」
そう言うと、男はニヤリ、と口の端を吊り上げた。
「そうだな……お前達をここへ呼び出した理由、それは、“あの御方”のご意向を伝えるためだ」
「“あの御方”……それは、反町一二三博士のことですか? それとも……もう一人のほうですか?」
僕の言葉にこよみさん、先輩、先生が一斉に僕へと振り向いた。
「上代くん、それはどういうことだ!?」
「はい……先輩や先生からこれまでダークスフィアのこと、怪人のこと、いろいろお話を伺う中で、僕はずっと引っかかっていたんです」
そう、僕は以前から違和感を感じていた。
先輩がダークスフィアにいた時、先輩の前任の四騎将はどうしたのか。
組織のトップである反町一二三が、実の娘が怪人となるのを果たして見過ごすだろうか。
先生が三回目の怪人化を行う時、その危険性を一番理解している反町一二三が、それをさせるだろうか。
さらに。
「……先生が話してくれた、反町一二三博士から先生に宛てられた手紙……その内容を伺う限り、どうしても先生のいう“あの御方”……反町一二三博士の人物像と一致しないんです」
「っ!?」
「な、なあ耕太くん……それって……?」
「はい。つまり、ダークスフィアにおいて“あの御方”と呼ばれる人物は、反町一二三博士ともう一人、別の人物がいる可能性が高いんです」
「なっ!?」
僕の言葉を受け、先生が驚きのあまり一歩たじろぐ。
「じゃ、じゃあ私に怪人化の指示をしたり、ヴレイピンクとの戦闘を指示したりしたのは、反町様ではないとでもいうのか!?」
「確証はありませんが……ですが、こよみさんとの戦闘に関しては、ひょっとしたら意図したものかもしれませんが」
「というと?」
先輩が怪訝な表情で僕に尋ねる。
「はい……その、反町博士は、こよみさん……ヴレイピンク=ヴァルキュリアの持つ武器、“ブリューナク”の本当の能力について、知っていたんじゃないでしょうか。だから先生をわざと闘わせて、人間へと……」
「む、むう……」
先生はショックのあまり、ガックリとうなだれる。
「どうですか? 僕の推理は当たっていますか?」
僕は正面に立つ怪人ガネホッグに問い質すと、みんなの視線は一斉に彼へと向いた。
「ほう、本当に優秀だな……そうだ、全て君の言う通りだ」
「そうですか……」
やっぱり……。
だけど、そうなると。
「ちょ、ちょっと待ってよ!? じゃあ何!? 私やイタチソードは、そのもう一人の“あの御方”とやらにいいように使われてたってこと!?」
「そ、そんな……まさかこの私が、反町様を騙る輩に貶められていたとでもいうのか……」
先輩と先生、二人が呆然として膝をついた。
「な、なあ耕太くん、その、今言ったことって……」
こよみさんが不安そうな表情で僕を見つめる。
「はい……僕の考えが正しいなら、こよみさん達のヴレイシリーズや“ヴレイヴハート”、これも反町博士が開発した可能性があります」
「……それについては半分正解、だな」
僕の言葉を受け、ガネホッグが告げる。
「半分、ですか?」
「そうだ。ヴレイシリーズについては司令本部で独自に開発したものだ」
“ヴレイヴハート”を反町博士が作ったということについては否定しないんだな。
だが、つまりそれは……。
「……それで、それを知るあなたは、反町博士の側近、ということでいいですよね?」
「ああ。私は反町様の命を受けて司令本部に潜入している」
「……お父さんはあなたに何をさせてるの?」
「主に情報収集だ」
先輩の問い掛けに、ガネホッグは事務的に答える。
「そうですか。それで、そろそろ目的を教えてほしいんですが」
「ああ、そうだったな。君達をここへ呼び出したのは、一か月後、反町様に会って欲しいからだ」
「「お父さん(反町様)に!?」」
先輩と先生が同時に聞き返す。
「そうだ。反町様は全員との面会を求めておられる」
「それって……」
「ああ、もちろん君とヴレイピンクもだ」
僕も……。
「ちょっと待たんかい! その反町博士は、なんで耕太くんのこと知っとるんや!」
「それは反町様に直接聞くといい。とにかく一か月後、反町様との面会の場を用意する」
半ばこよみさんの質問を無視するかのように、ガネホッグは淡々と話す。
「し、しかし、一か月後と言っても一体いつ、どこで?」
「それは追って連絡する……話は終わった。では去れ」
「はあ!? 何を勝手な……」
「……先輩、ここは言う通りに……」
僕は激昂する先輩を制止し、静かに首を振る。
そんな一瞬のやり取りの間に、あれほどの巨体を持つガネホッグは姿を消していた。
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次話は明日の夜投稿予定です!
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