地下室
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「あれが……目的の場所よ」
僕達は一斉に先輩が指差すあばら家に注目する。
まだ遠くから見ている状態なので、詳しくは分からないけど、見た限り、かなりの年数が経っているようだ。
それに、雑草も生い茂っていて、近隣住民からクレームが来てもおかしくない状況だな。
「とりあえず行こう」
飯綱先生がそう促すと、僕達は頷き、そのあばら家へ向かう。
「うわあ……」
近くで見ると余計にその古さが分かる。
これ、中に入ったら潰れてしまうんじゃないだろうか……。
「ふふ……懐かしいな……」
先輩は当時を思い出しているのか、しみじみとあばら家を眺めながら口元を緩める。
「しっかし……草が邪魔して入口まで行くんも大変やな……」
確かに雑草が腰まで伸びていて、これは大変そうだ。
「といっても、行くしかないのだ。とにかく中に入ろう」
僕達は雑草を掻き分け、玄関へと辿り着く。
「うああ、見て見て耕太くん! ウチのオーバーオールにひっつき虫がメッチャ付いた!」
こよみさんはなぜか嬉しそうに、そのオーバーオールを見せる。
「ふむ、これはオオオナモミにアメリカセンダングサだな」
飯綱先生が冷静に分析する。
「耕太くん耕太くん! 背中にもくっついてしもてるさかい、その、取ってくれへん?」
「ちょっと待ってくださいね」
僕はこよみさんの背中に付いたひっつき虫を丁寧に取り除く。
「はい、綺麗に取れましたよ」
「耕太くん、おおきに! って、耕太くんも付いてしもてるやん! ウチが取ったげる!」
そう言って、今度はこよみさんが取り除いてくれた。
「こよみさん、ありがとうございます」
「えへへ」
「ハイハイ、じゃれ合いが終わったんなら、中に入るわよ」
見ると、先輩が呆れ顔で僕達を眺めていた。
「ま、いいけどね。それじゃ、開けるわよ」
先輩はドアノブをゆっくり回してドアを開ける。
どうやら鍵は掛かっていないみたいだ。
「……何だか殺風景、ですね……」
あばら家の中には物が何も置いておらず、ただ廊下といくつかの空いた部屋があるだけだった。
「こっちよ」
先輩は土足のまま中へと入ったので、僕達もその後をついて行く。
一番奥の部屋に入ると、先輩がしゃがみ込む。
「床下収納……ですか?」
「見た目はね」
そう言うと、先輩はポケットから鍵を取り出して鍵穴に差し込むと、ゆっくりと時計回りに回す。
――カチリ。
鍵が開いた。
先輩が扉を開けると、そこには下へと降りるはしごがあった
そして、はしごづたいに下へと降りて行く。
一番下まで来ると、先輩がスマホのライトで辺りを照らした。
「っ!?」
すると、机とその脇に平積みされた大量の本やファイル、そして、ガラスの容器に入った三体の人間のようなもの……恐らく怪人のサンプルだろう……それらが陳列されていた。
「こ、ここは……」
「ここはお父さんが密かに隠した研究成果を収めた部屋。私はここで『研究のその先』……つまり、複数回にわたる怪人化の実施条件、そして、その成果が記されたファイルを見つけたの」
「なにっ!? 本当か紫村!」
先輩の言葉に、飯綱先生が詰め寄る。
「ええ……見つけた時は、私はまだ中学生だったから理解できなかったけど、今は理解している……あれは、最強の怪人を生み出すための悪魔の手段」
「馬鹿な! 複数回の怪人化は、私達“ファースト”でも二回……いや、三回、それが限界だ! そんなもの不可能だ!」
先輩から放たれた言葉に、飯綱先生は声を荒げる。
「確かに飯綱先生……イタチソードの言う通り、複数回の怪人化は論理的に不可能よ。だけど、可能性がないわけではないの」
「その、可能性って……?」
「それは、心の強さ……怪人の器となる個体の精神力の高さによって成功率が高くなるの」
「精神力……」
僕は先輩の言葉を聞き、気になることがあった。
「せ、先輩、その……その精神力というのは、例えばですけど、悪意といったものでも該当したりしますか……?」
「耕太くんどういうこと!?」
「いや、上代くんのその考察は、多分正しい……そうだろう?」
僕達の視線は一斉に先輩へと向く。
「……ええ、精神力に区別はないわ。それが正義の心なのか、執着心なのか、忠誠心なのか……」
そう言って、先輩はチラリ、と先生を見た。
「だから、イタチソードは三回目の怪人化に成功した、と言えるわね」
「そ、そうか……私の反町様への忠誠心が、三回目の怪人化を成し得た、ということか……」
先生はそう呟くと、静かに目を閉じた。
「なあ耕太くん……それで、何でそんなこと聞いたん?」
「それは……あのアリスが複数回の怪人化に成功しているからです」
「あ……」
そう、アリスも複数回の怪人化を達成している。
それは、アリスの精神力がそれだけ高いということ。
たとえそれが、歪んだ感情によるものだったとしても……。
「……そうね。私があの女を怪人化した時は、薄っぺらい存在でしかないと思っていたけど、結果としては私達にとって脅威と呼べる存在にまで成長した……」
「ええ……だからこそあの鳥の怪人はアリスを奪還したんだと思います。もう一度、怪人化を行うために……」
アリス……君は……。
「それよりも、そのことをダークスフィアが知っている、ということも問題ですね。先輩がダークスフィアにいた時に、その情報を提供したんですか?」
「いいえ、『研究のその先』については言ってない」
なら、なんでダークスフィアはそのことを知っているんだろう。
独自の研究で気づいた? ……いや、その可能性は低い。
それだったら、先生も先輩も知っているはず。
じゃあ、やはり反町一二三がダークスフィア総帥として指揮をしている、と考えるのが妥当……。
「……よく来たな」
突然、部屋の奥の暗闇から男の声が聞こえた。
「っ!? 誰や!」
こよみさんの呼びかけに姿を現したのは、異様に背の高い不気味な男だった。
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