ヴレイヴハート②
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■飯綱江視点
「それでね! 上代くんとピンクったら、私に内緒で妹ちゃんと天ぷら食べたのよ!? ひどいと思わない!?」
週末の研究室、暇なのか知らないが、紫村がまくしたてるように上代くんと桃原さんに対する愚痴を言い続けている。
「はあ……」
全く……私は暇じゃないのだがな……。
「チョット! 飯綱先生聞いてるの?」
少しでも相手にしないとすぐこれだ……。
「ああ聞いている。だが二人は付き合っているのだし、上代くんの妹さんが来たのなら、二人がもてなすのも当然だろう」
「だけど、私だってちゃんと活躍したのよ? だったら私もお呼ばれしてもいいはずよ! それともなに? 飯綱先生はあの二人に味方する気?」
「味方とか関係ないだろう……とにかく、私は君達から預かったこの“ヴレイヴハート”に関する資料を調べているんだ。少しは静かにしてくれ」
そう言って私は資料に再び目を通す。
あれから何度も読み返してはみたが、特に変わったところはない。
書いてあったのは、“ヴレイヴハート”の能力値と使用方法、発動条件くらいなものだ。
「……私もその資料に目を通したけど、光機おじ……高田司令に聞いた内容とほぼ同じだったわ」
「そう言っていたな。ところで、その『光機おじ……』とは何なのだ?」
「え!? ああ、ええと、実は高田司令……光機おじちゃんは、お父さん……反町一二三の一番弟子だった人なの。子どもの頃、うちに来た時によく遊んでもらったりしてたの……」
紫村は懐かしむように、口元を緩める。
「ほう……反町様にそのようなお弟子さんがいたとは初耳だ」
ふむ……反町様は、ご自身のことをあまり語られないお方だからな。
反町様……息災だろうか……。
まあ、“あの男”が傍にいるから、大丈夫だとは思うが……。
「でね? その光機おじちゃんが……」
それから紫村は、その高田光機という人物について、延々と語り続けていた。
……二人の愚痴からすり替わっただけで、邪魔していることには変わりないのだが……。
◇
「んん……!」
私は椅子の背もたれに体重を預け、思い切り伸びをする。
私はチラリ、と時計を見ると、時刻は既に深夜〇時を迎えようとしていた。
紫村は話疲れたのか、夕方には帰って行った……いや、あれはまたあの二人の邪魔をしに行ったな。
全く、私も仕事がなければ上代くんのご飯を食べたいというのに……。
「だが……結局何も分からず……か……」
私は机の上の資料に視線を向け、思わず溜息を漏らす。
研究そっちのけで確認をしているが、手掛かり一つない。
何か有益な情報でも載っているかと思ったのだが、な。
「いかんな……今日のところはもう帰ろう」
そう思い、机を片付けようとしたところで。
「おっと」
私はついうっかり蓋が開いたままのペットボトルを倒してしまい、中身のお茶がこぼれてしまった。
私は慌ててペットボトルを立て、近くにあったティッシュで濡れてしまったデスクを拭く。
「ああ……資料にまで……」
資料を持ち上げ、同じくティッシュで拭こうとして。
「……………………ん?」
見ると、資料の濡れたところにインクのシミのようなものができていた。
……お茶のせいでインクがにじんでしまったのか。
私は滲んでしまった該当のページを開く。
すると。
「こ、これは……!」
そのページの全てが黒く塗りつぶされたようになっており、白抜きの数字が浮かびあがっていた。
『35.37596900,139.91688400』
「この数字が現す意味は……?」
私は数字の意味に見当がつかず、頭を抱える。
「……駄目だ、頭がうまく働かない……仕方ない、明日、みんなに相談しよう……」
私は念のため、その浮かび上がった数字をスマホで撮影し、その日は帰宅した。
◇
次の日の朝。
少し眠い目をこすりながら、いつもの時間に大学に出勤する。
すると。
「……何だ!?」
大学の構内に警察官が数名立ち入っており、辺りが物々しい雰囲気に包まれている。
「すまない、何かあったのか?」
私は現場を呆然と眺めていた男子学生に声を掛けた。
「あ、ええと、なんでも大学内に泥棒が入ったみたいで……」
「泥棒?」
「ええ……研究棟が被害を受けたみたいっす」
「研究棟……」
学生の言葉に、私は嫌な予感を覚えた。
「そうか……すまなかったな。ええと、君は……」
「あ、はい、桐谷翔太って言います」
「うむ、桐谷くんか。また機会があったら、私の授業を受けるといい。今日のお礼に、単位を優遇してあげよう」
「マジっすか! ぜひ受け……あ、でも来年っすね……」
「うむ、待っているぞ」
私は桐谷くんの肩をポン、と叩くと、研究棟へと急いだ。
だが。
「な、なんだこれは……!」
どうやら泥棒が入ったのは、本町研究室だったようだ。
研究室の入口が黄色のテープで封鎖され、中に入れなくなってしまっている。
「おお! 飯綱くん!」
「本町先生、これは一体……」
「うむ……昨日の夜、どうやら泥棒が忍び込んだようでな。研究室の中はグチャグチャに荒らされておる」
「それで、何か盗られたりしたのですか?」
「何が無くなったかは今警察が捜査しておる。しかし、よく分からんのだ。うちの研究室なんかに忍び込んでも、金目のものなど何もないのになあ……」
本町教授はさも不思議そうに首を傾げる。
だが……。
「……ひょっとして、あの資料が……?」
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次話は明日の夜投稿予定です!
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