検証結果報告④
ご覧いただき、ありがとうございます!
二〇××年〇九月二十一日
——被験体コード“FFD700”に関する進捗——
高田馬場に所在する大学構内で発生した被験体“F8ABA6”との戦闘において、ロストアイテム『VH』による攻撃を受け、被験体“FFD700”の左半身が消失。
現在、“並井機関”のラボにおいて修復作業中。
なお、修復に当たっては、被験体“000000”の『DS―n細胞』を使用。
また、併せて被験体“FFD700”の最終強化プラン『明星』の発動を具申。
◇
■グリフォニア視点
「……以上が報告になります」
「うむ……」
彼は私から受け取った報告に目を通すと、静かに目を閉じた。
そして。
「……よし、最終強化プラン『明星』の発動を許可する」
「は、はい! ではいよいよ……」
「ああ……私はあの過去の遺物、被験体“F8ABA6”を超える……!」
彼は決意を込めた表情で、その先にあるであろう“あの男”の亡霊を見据えているのだろう。
その彼の姿に、歓喜と興奮で私の胸が震える。
「もちろん、微力ながら私も全身全霊をもってあなたをサポートいたします!」
「うむ。期待している」
ああ……! いよいよあなたは、“神”の領域へと足を踏み入れるのですね……!
「ふふ……長かった、長かったよ……! この時のために、私がどれほど血を流し、どれほど辛酸を舐め続けてきたか! いよいよあの“亡霊”は、私の足元にひざまずくのだ!」
「はい! あなたこそが“神”となるべき御方……! 私はあなたにお仕えでき、本当に幸せです!」
「ははは……思えば君にも苦労をかけた。だが、それももう終わる」
「ええ……!」
ああ……そして私は、あなたの隣を永遠に歩き続けるのです!
あなたの――たった一人の女として!
「そうだ、それで“あの男”はどうなったのかな?」
「はい、“あの男”からは『DS―n細胞』を全て抽出済みです。もはや“あの男”には、出涸らしの『DS細胞』とサソリの細胞しか残されておりません」
「そうか……思えば“あの男”も哀れな男、だな」
「いえ、それは違います」
「というと?」
「“あの男”は、一時とはいえ死を迎えるだけの老害から望み通り少年気分を味わえたのです。そのような分不相応な夢を見れたのですから」
「ははは、それはそうかもな」
彼は愉快そうにお腹を押さえて笑う。
ですが、確かに“あの男”の生涯は滑稽というほかありませんね。
政財界のトップに立ち、国の中枢を裏で牛耳るなど、まさに頂点に立っていた男が、自身の“老い”から逃れるという俗物的な欲望のために彼にすがり、その全てを搾取されたのですから。
さらに言えば、まさか“あの男”自身が、『DS―n細胞』を培養するための器だったとは、夢にも思っていないでしょうね。
まあ、それによってアリス=ヒュブリスは生まれ変わり、彼の偉業の一助となるのですから、“あの男”にとっても名誉でしょう。
「さて……それじゃ、出涸らしとなった“あの男”の処遇だが……」
「それについて提案が」
「ほう……?」
彼が興味深そうに私の顔を覗き込む。
「はい、“あの男”を捨て駒として被験体“F8ABA6”と闘わせ、被験体の更なるデータ収集を行えばよろしいかと。と申しますのは……」
「つまり、君は被験体“FFD700”が最終強化を行っても“負ける”……そう言いたいのかい?」
「っ!? い、いえ! 決してそのようなことは!」
「同じだよ。私の研究を信用していないのとね」
ああ……! 彼がお怒りに……!
ど、どうすれば……!?
「あ、あの……キャっ!?」
突然、私は彼に腕を引かれ、デスクの上に押し倒される。
「……“あの男”と被験体“FFD700”との戦闘に関しては許可する……だが、それは決してデータ収集などというくだらない目的のためではなく、あくまで“あの男”への最後のはなむけとして、だ。そして、グリフォニア」
「っ! は、はいっ!」
「君には再教育が必要のようだ……だから、これから私は君に罰を与える」
「ば、罰……ハッ!?」
突然、彼の身体が膨張し、服が裂ける。
そして。
「あ……あ、あ……」
彼の身体の全てがこの執務室に収まりきらない程の大きさに変化し、背中から三対六つの禍々しい翼が生えた。
その彼は、そのまま私の身体へと覆い被さる。
「グリフォニア、これは君への罰だ。その身体で、この変化した私を全て受け入れろ」
「え……は……きゃあああああああっ!?」
そして、私は身体が壊れようと、彼の罰を一身に受け入れた。
彼への忠誠を、彼への愛を示すために。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜投稿予定です!
少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




