表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

魔剣学院編 入学試験4

「なんだか、気が抜けちゃったな」


 緊張している自分が馬鹿らしくなった。

 折角なので、校舎の中を見学してみる。何かの実験室や、地形の模型が置いてある教室、天体学の教室だろうか。星が浮いている部屋まであった。


 屋上も行けるのだろうかと思い、五階建ての屋上に向かったが、残念ながらカギが掛かっていた。仕方がないので教室に戻る。先ほどよりも人数が増えており、人間〈ヒューム〉、犬や猫、ウサギの亜人、エルフ、ドワーフなど多様な種族が居た。

 世界的な人口でみれば人間が一番多いけど、受験者は人間の方が少ない。ここに居る人達はライバルでもあり、将来のクラスメイトでもある。目立たない方がいい。


 何しろ穏やかではない視線を送られている。まぁ、その原因は寝ている彼女だし、しっかり目立っているから、もう遅い気もする。

将来の全てが決まるのだ。これから始まる試験で・・・。

 全員が緊張しているし、殺気だっても仕方がない。ここで揉め事を起こすような人はいないだろうけど。


(そ、そろそろ起こした方がいいよね?いいかな?起こしても)

 恐る恐る、彼女の肩をゆする。

「まだぁ、お肉食べたい・・・」

 もにょもにょと、彼女は寝言を言っているが、頑張って起こす。

「うー、あともう少しでお肉だったのに」

 不機嫌そうに目をこすりながら、こちらを睨んでくる。

「これが終わったら食べさせてあげるから。周りの視線が怖いから、もぉ、起きてて」


 うっかりそんな約束をしてしまったが、お陰で彼女の機嫌は直ったようだ。

「おー、色んな種族がいる。わたしの村には人間しかいなかったから」

 楽しそうに彼らを眺めている。特に、ウサギの亜人に目が釘付けだ。少し涎を垂らしている気がする。いや、気の所為だ。見なかった事にしよう。


 ウサギの亜人の女性が、怯えた表情でこちらをチラチラと見ているのも気の所為だ。

 僕は決めた。

 彼女と共に合格出来たら、レインさんのお墓に行き、とんだ肉食系女子に育ってしまった。その教育方法について話しをしなければ。まぁ、男装系女子である僕が言うのはアレだけど。

 遠くの方で女子の黄色い声が聞こえてくる。ただ、声は遠ざかっているので同じ教室ではないようだ。正直、ウンザリするので同じ教室ではなくて良かった。


 周りを見ると、同じような安堵の表情を浮かべている人たちが見える。

王子と一緒とか、やりにくいだろうなぁ。

 そんな事を考えている間に試験時間となった。


「最初は筆記試験だ。制限時間は二時間、記入方式なので名前と番号を書き忘れないように。終了したら教壇まで持ってくるように」

 黒のローブを纏った教師らしき人が説明している。

 最初は戦略、戦術に関する問題。武器や馬等の基本的な長所や弱点などの設問が並ぶ。

 集団戦闘の例が載っており、例えば兵糧が無くなった場合はどうするか。などだ。

 難しい問題だがこの日に向けて勉強をしてきた。


 それらが終わると、続いて魔術に関する問題になった。正しい魔紋を選べというものや、属性に関する設問。そして、戦略や戦術における魔術師の役割などの設問だ。

 僕は終わる頃には目が回っていた。問題が士官学校のレベルと変わらないじゃないか。例年難しくなっているとは聞いていたが、ここまでとは。

 すっかり自信を無くしていた。試験時間の一杯を使い、なんとか全問を埋める事は出来たが。隣の彼女は四十分も前に既にいない。誰よりも早く教室から出て行った。なにしろ、先生が慌てた程だ。諦めるにしても早すぎる。


 その彼女は中庭にあるテラスで寝ていた。寝すぎでしょ。さすがに呆れる。

 しかも、この中庭は校舎から丸見えだ。まぁ、そのお陰で直ぐに見つけられた。こんな日に、呑気に昼寝できる人間はそうそう居ない。


「あれ?もう終わったの?」

 この調子だもの、怒る気にもならないよね。

「終わったよ。昼から第二グラウンドで剣術の試験と魔術試験があるから。ご飯食べたら早めに行こうね。」

「食料はあるよ」

 そういうと、彼女は椅子の下に置いてあったカバンからパンと牛乳を取り出す。

「ご飯に関しては、本当にぬかりないよね。あなたって」

「食べる事は生きる事だよ。」

「どこかで聞いた格言を言わないの。ほら、みんな移動しちゃったから。行くよ」

 彼女の手を引いて歩いていたのだが、他の受験生から。

「ち、いちゃついてやがる」

「あんな遊びで来ているヤツらに負けられねぇ」

 などと聞こえてくる。


 困った事に、彼女がにこやかに笑みを返すものだから火に油だ。こっちは女同士だというのに、とんだ勘違いで怒りを買ってしまっていた。だというのに。

「あはは。アルヘナ、男だと思われている」

 質が悪いことに、この状況をフリーダム魔人は笑って楽しんでいる。

 試験会場に着く頃、すっかり精神的に疲れてしまった。


「どうしたの?疲れた?」

「ええ、あなたのお陰で。心が疲れたわ」

「何もしてないのに。どう致しまして」

「はぁ。もういいから」


 相手にするのも一苦労だ。

 肝心の試験は、三つのグループに別れるようだ。僕らは弓術から。

 的が正面に三枚平行に並んでおり、移動をしてもしなくても構わないが、早く正確に中央を射抜いた方がポイントは高い。だからといって、的に当たらなければ意味がない。的まで二十メートルなので、時間よりも正確に中央に当てた方がいい気がする。

 呼ばれる順番はランダムなようで、受付をすると弓、槍、剣術、魔術で別れていく。


「420番、アルヘナ・ワシャト!」

「はい!」

 名前を呼ばれたら前に出て、弓を受け取る。

 安全策をとり無理はせず、移動しながら射る。少し中央からは外れてしまったが、いい具合に出来たと思う。終わると、受付に行き次の場所へと向かう。その繰り返しだ。


「じゃあ、僕は先に行くね。次は槍みたい」

「そう。気を付けてね。頑張って」

 ルティーヤは、アルヘナと握手をして彼女を見送る。


(余程のポカをしなければ、彼女なら大丈夫じゃないかな)

 人の好いアルヘナを見送りながらそんな事を思う。

「450番、ルティーヤ・ルビー!前へ!」

 そんな事を考えていたら順番が来たらしい。

「はーい」

 伸びをしながら手を挙げる。

 周囲から剣呑な視線を受けるが、全く意に介さない。

 弓の弦の具合を確かめながら歩く。


「では、始め!」

 三本の矢を纏めて指に挟み、纏めて弓を引き絞る。

 周囲から、笑いと嘲笑が起こる。

「をいをい、本の読み過ぎだろう」


 そんな声が笑い声と共に聞こえたが、放った矢は的の中心を全て捉えていた。

「終わったよ?」

 弓を渡そうと出しているのに、受け取らない試験官に声をかける。

「あ?ああ。次!」


 次の試験は魔術だったが、特に一次と変わりは無かった。見せる魔術が一種類だったものが二種類に増え、槍も集団で試験官の型を真似するだけだった。恐らく、弓や魔術、槍はオマケなのだろう。本番は最後の剣術。一対一での模擬戦だ。


感想頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ