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魔剣学院編 入学試験2

 ルティーヤは、正面に座る少年の方を向く。

「そうだ。あなたも受験生なの?」

「はい、そうです。えっと。」

「あ、わたしルティーヤ・ルビーだよ。十三歳。」

「僕、アルヘナ・ワシャト。同い年だね。」

「わたし、道分からないから受験受付の会場まで一緒に行く?」

「はい!お願いします。」


 彼女はエレスト山脈という遥か北の地から来たようで、この辺りの地理はおろか、試験の内容すら把握していなかった。

「へぇ、魔術だけじゃなく、剣術や弓術、槍術まで試験になってるんだぁ。」

「そうですよ。一年の時は、全部の授業がありますから。細分化されていくのは三年になってからです。」

「ほうほう、全然知らなかった。あはは。」


 だ、大丈夫なのか。この子は。ただ、あの体捌きを見た後だと、この子が落ちるとは思えないけど、たぶん。学力テストもある。なので、身体能力だけでは受からない。

 ルティーヤは僕の方をじろじろと見ながら、楽しそうにしている。


「アルヘナが女の子だったのは、意外。だって、その服男物だし、髪の毛も短いから。」


 そう、別に黙っていた訳ではないのだが、言い出すきっかけがなかっただけだ。

 ワシャト家は、三人の子供がいるが全員女の子だった。両親や姉たちは、弟が欲しかったらしく、幼少期から男の子のように育てられてしまったので、普段の服装もなんとなく男装しているのが普通になっていたのだ。それに、女子の服装よりは盗賊に会わないだろう。と思っていたのだが、結果的には失敗だった。


「そうなんだ。両親や姉たちに仕込まれているから、僕もどっちにしたらいいのやら。成長してくれば、自然に女性らしくなるのかと思ったけど、・・・変・・・だよね?」

「んー、どうなのかな。わたしはどっちでもいいけどね。ほら、わたしも眼、普通じゃないから。話し方なんて、どうでもいいと思うけど?」


 確かに。彼女の眼はまるで、悪魔や魔獣のようだ。瞳の部分が赤く、縦に線が入っている。だが、それを彼女は特に気にした様子もない。


「あ、着きましたよ。さすがに、人が多いですね。」


 広場に作られた即席会場には、およそ五百人以上は居るのだろう。人の熱気も凄い。

 春の時期で良かった。夏なら、人混みだけで帰りたくなるほどだ。


「受験者、二百人くらいって聞いていたけど?」


 どうやら、彼女は本当に何も知らずに来ていたようだ。

「それは、受験資格を得られた人の数ですよ。まず申し込みをしたら、その後に奥で即席の試験があります。そこでは剣術か魔術かを選べるのですが、ここで半分が落ちます。」

「えっ!?そうなの?へぇ、厳しいんだね。」

「落ちたら、受験時の費用は半分が返ってきます。」

「へぇ、まぁ落ちる気はないけれど。アルヘナもでしょ?」

「勿論ですよ。」


 アルヘナも、間違っても落ちる訳にはいかなかった。既に、帰るべき場所などないのだから。

「僕も既に屋敷を出た身です。落ちたら・・・住む場所がありません。」

「わたしは、食べるお金も無いわ!」

 家なし金なしの二人は、妙に意気投合していた。


 受付会場にはテントが建てられており、長テーブルに上級生か教官が座っているようだ。全員がお金を持っている訳ではなく、家宝の武器や防具を代金の代わりにしている人もいる。

 かく言うルティーヤも、盗人から取り上げたショートソードや短剣をお金の足しにしていたようだが、大した代物では無かったようで泣く泣く銀貨で支払っていた。


「うう、あの盗人達の武器、全部で銅貨五十枚にしかならなかった。」

 涙を流すルティーヤと共に、噴水の近くで座り順番が呼ばれるのを待つ。

「僕は420番、ルティーヤは450番だね。」

「あの受付の人、絶対ケチだよ。せめて銅貨七十枚にってお願いしたのに。」

「ま、まぁ、仕方ないよ。余程の業物ではない限り、一律同じ金額って言っていたし。それよりも、他の人のを見ようよ。」

 無理やり話題を変えてしまうことにした。


 剣の打ち込み台が並び、奥に鉄製の的が見える。手前が剣、奥が魔法なのだろう。的は今の所使われてはいない。その場で魔力量の検査と、何種類かの魔法をテストされている。


「そういえば、ルティーヤはどっちで受ける事にしたの? あの盗賊達を簡単に倒せるのだから、剣術?」

「魔法だよ。アルヘナは?」

「え?そうなの。僕は剣かな。幼少期からずっと習ってきたしね。」

 そんな事を話していると、一際華やかな歓声が外からあがる。そちらを見ると、見るからに貴公子然とした金髪の青年が馬車から降り、受付には並ばずに試験会場に入って来た。その周りには、若い女達が何人も取り囲んでいる。

「なぁに?あれ。」


 ルティーヤの全く興味なさそうな声に、アルヘナはやや慌てた。周囲を見回し、今のセリフが聞かれていないかを確認するが、どうやら全員が貴公子に釘付けの様子で聞かれていなかったようだ。

「彼はこの国の第二王子だよ。受験する噂はあったけれど、本当だったのだね。」

「へぇ。そう。」


 全くこの子は。思わず半眼でルティーヤを見る。当の彼女はまるで興味がないようで、付近を歩いている鳩に目が釘付けだ。その目が血走って見える気がするのは・・・きっと、気の所為だ。そうに違いない。

 ふらふらと鳩の方へ行こうとするルティーヤの服を掴んでおく。不満顔でこちらを見下ろして来るが、手は離さない。そうするうちに、鳩は飛び立ってしまった。彼女は、やはりと言うべきか、「ああっ!?晩御飯!」とか言っていたが、無視だ。


「ルティーヤ、鳩は食べたらダメだよ。それよりも、王子様が剣術の試験をやるみたいだよ?」

 大勢の野次馬に囲まれながら、純白の服を着た第二王子、ルートヴィヒ・ウレキサイトは剣を構え、素早く三連撃を放った。剣を鞘に納めると、最初よりも大きな歓声が上がる。

 どうやら第二王子様は相当、女性にモテるようだ。周囲にいる同い年の男達の視線は、恨みがましい。


「アルヘナはどう見た?」

 興味が無いから見てないかと思ったが、ルティーヤもしっかりとみていたようで、僕に尋ねて来た。

「んー、あれだけだと分からないかな。騎士剣術だろうから、型は綺麗だったけど。ルティーヤはどう見たの?」


 横を見るが、彼女はやはり興味は無かったようだ。だが、感想はくれた。


「あれなら、余裕・・・かな。」

 それはどっちの意味で?とは、思ったが。多分、彼の合格が余裕ってことなのだろう。

 その後、一時間ほど経った頃にようやく呼ばれた。


 騎士家、貴族や上位の階級の子供たちに順番を抜かされていたからだ。その間、緊張して大変よりも、ルティーヤを捕まえておく方が大変だった。

 何しろ、隙あらば鳩を捕まえようとするのだ、この野生児は。トイレに行く時もムリやり一緒に付き添わせないと、戻って来たら鳩をむしゃむしゃしていた。なんて事もあり得そうだった。

 順番を呼ばれたので、立ち上がる。


「アルヘナ、頑張れー。」


 ルティーヤは手を振って応援してくれた。その声には大して感情は篭ってはいなかったが。

 苦笑いをしながらも、応援してくれる人がいるだけで気持ちが強く持てる。

 試験官から、一通りの説明を受けショートソードを受け取り、両手で持ち右肩に水平に構える。周囲から変わった構えなので、野次が飛ぶが眼前の目標に集中していく。


「始め!」


 試験官の合図と共に踏み出し、袈裟斬りから斬り返しての逆風、ステップを踏んでその場でターンをして打ち込み台の首を水平に薙ぐ。

 ゆっくりと鞘に剣を仕舞う頃、打ち込み台の木製の首が落ちた。

 周囲から歓声が上がる。


「やるなぁ、兄ちゃん!」

「いい連撃だったぜ、鳥肌立った。」

 など、野次馬をしていた大人たちにも褒められた。女の子なのだけれどね。


 試験官に剣を返す時、にこやかに。

「お前、オーロラ剣術か。珍しいな。」

「はい。師匠がオーロラ剣術の師範でしたので。」

 肩を叩かれ、剣筋を褒めてくれた。もし、これで落ちたとしても、悔いはない。そう思える程の会心の出来だった。


「お疲れ様。」

 ルティーヤはまだ呼ばれていなかったようで、既に眠そうだ。

「僕の剣術、どうだった?」

 頬がまだ紅葉しているのが自分でもわかる。聞くのは恥ずかしかったが、この子を相手にいい恰好をしても仕方がない。

 それに、剣術をみんなに褒められた事が嬉しかった。

 男装は家族の趣味だったが、剣術を習うのに家族の反対が一切無かった事を思えば、男装も全然嫌ではない。


「うん、いい剣だったよ。あの王子様よりも。」

「ちょっ!」

 慌てて周囲を見るが、既に人の数は減って来ており、周りには誰もいない。

 溜息を付くが、彼女は気にした素振りも無い。


「あ、ルティーヤ、呼ばれたよ。」

「じゃあ、行って来る。」


そう言うと、彼女は試験場へと向かっていった。



感想頂けると嬉しいです。


文章がぶつ切りにならないように気を付けますが、ぶつ切りになるだろうなぁ。

読み辛い時は、申し訳ナス。

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