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プロローグ 2

プロローグの続きです。

次回から本編となります。

プロローグ 2


「一人で死ぬつもりが。最後の最後にわしに子供が出来るとは・・・。さてさて、どう育つやら」


 家の中は、滝のように雨漏れしていたのが嘘のように、綺麗な木造建築の住居になっていた。部屋の数はリビングと寝室が二つ。キッチンに、浴室まで付いていた。勿論、釜戸なども完備されている。

 住宅を創造できるのだ。あの蛇がレヴィアタンかどうかは分からないが、人知を超えた存在である事は間違いないのだろう。


「寝よう」


 全ての疑問をレインは投げ捨て、布団にもぐる。

 ふかふかな布団は、かつての王宮暮らしを彷彿とさせた。

 それからの日々は、レインにとっては懐かしくもあり、大変な日々だった。


 まず食事について。

 今まで、山の麓の人間達とは少なからず接触はしていた。だが、世捨て人として振舞っていた為、最低限の会話しかしてこなかった。しかし、赤ん坊が生肉を食らうハズもない。

 変化の魔法は、動物には成れるが人間にはなれない。その為、目深に帽子を被り、耳を隠さなければならなかった。村の人々はその様子を不思議に思ってはいたが、野生の鹿や猪と、衣服や食料を交換してもらう事が出来た。


 また、ルティーヤ・ルビーと名付けた女児は、やんちゃではあったが賢く、さすがバハムートの転生者というべきか、魔力の量はレインを遥かに上回り、その肉体はケガを追っても回復魔法を必要とせずに治ってしまう。つまり、言う事を聞かなければ滝つぼに落とそうと、剣や魔法を避ける練習の時に、当てても問題が無かった。


 彼女は既に五歳となっていた。


「うう。ごべんだざい」


 今日も与えた魔術書を途中で飽き、森の中で狐を追いかけ、木に登り遊んでいた所を村から戻る途中で見つけ、そのまま上空から捕まえて滝つぼの中へと放り込んだのだった。

 ルティーヤは、俯き反省した様子でずぶ濡れのスカートを両手で掴んでいる。

 衣服は村の者から、着られなくなった物を譲って貰っていた。


「我が娘、ルルよ」


 レインは魔法で衣服を乾かしてやりながら、優しく頭を撫でる。


「森の魔獣はまだ五歳のお前には手に追えない。魔術書を読み、剣や格闘の練習をしなければ、人の世で生きて行く事は難しいぞ。それは、お前も分かっているね?」


 ぽろぽろと涙を流しながら、頷く娘を優しく抱きかかえ、椅子に座る。

 随分と重たくなった我が子を膝に乗せ、涙を拭ってやる。


「わしの寿命はお前が十三になる頃に尽きるだろう。それは仕方のない事だ。すでに三百年を生き、自由気ままに生活した。その為に、国や家族、全てを失った」


 ルティーヤは何も言わず、ただレインの目だけを見ていた。


「ルルよ。わしは人間が憎い。だが、復讐しようとは思っておらぬ。それは、復讐した所で新たな恨みを買い、また復讐を繰り返す。そんな生に何の意味がある。

 この世界は広い。そして、南の大陸には未だ見た事もない土地が広がり、北の大地にあった我が故郷も異形どもの住処となっておる。お主には世界を見て欲しい。ドラキュラとしてではなく、人間として生きて行くのだ。その為にも知恵を付けねば。何が正しく、何が正しくないのか。そして力を付けねば。どんな魔獣が襲ってこようとも、負けない魔術、魔術が通じぬ相手には剣や拳で。ただ闇雲に強い力を振るえば恨みを買う。憎しみを育てる力とはそういう物だ。それを学ぶのだ、よいな?」


「はい。パパ」


 ルティーヤを抱えながら、テーブルに置かれていた魔術書を手に取り渡すと、素直に読み始めた。意味はまだ解らないだろうが、それでいい。魔術とはイメージ。イメージと魔力のコントロールさえ出来れば、魔法陣の意味は知らなくても発動できる。

 意味を知るのはその後でも間に合う。


 ある日の出来事。

「パパ!みてみて!」


 天気の良い日で、窓辺でうとうとしていたらルティーヤに叩き起こされた。

 手を引かれ、滝まで連れてこられる。

 瀑布の轟音であっという間に眠気が醒めてしまった。


「ルルよ、木刀を持ってどうしたのだ。今日は森で遊ぶのでは無かったのか」

「今日はいい天気だから、寝るって言われちゃった。だから、独りで遊んでたの」


 この子はいつの間にか、動物と念話が出来るようになっていた。念話とは、樹の精霊ドリアードなど、極一部の特殊な存在が持つ魔術で、私には使う事が出来ない。

魔術書に載っていたので、それで覚えたのだろうか。


「それで、わしに何を見せてくれるのかな?」

 ルティーヤは悪戯っぽくにんまりと笑い、レインを一歩下がらせた。


「見てて」

 左手を鞘の代わりにし、木刀を抜刀術のように右手一本で構え、滝を見据える。

「やっ!」

 息を吐くと同時に木刀を振りぬく。

 すると、大きな音を立てて流れていた滝の水が、風の刃を受け、斬れる。

 斬られた水は一瞬だけ止まり、すぐに轟音と共に流れ始める。

「ほほぉ。凄いじゃないか」


 ルティーヤをわしゃわしゃと撫でてやると、嬉しそうにしていた。

 内心では、人外へと成長していく我が子を心配しながら。

(あっという間に人の世を滅ぼしてしまいそうだ。それはそれで構わんが、この子は人間の子供とも遊びたいようじゃしな。力のコントロールをしっかりと教えんと)


 別のある日

 ルティーヤとレインは山頂で魔法の練習をしていた。広く平らで、丈夫な岩の大地は多少の魔法では崩れる事も無い。ただ、万が一崩れても、人里からは遠いので問題ない。


「ほれほれ、早く動かんとお気に入りの服が燃えるぞ!」

 レインは、意地悪くそう言うと、自身の周囲に複数浮かんでいる下位の火炎魔法『ファイアボール』をルティーヤに向けて放つ。


 ルティーヤはレインに、「偶にはピクニックでも行くか。一番お気に入りの服を着てこい」と言われたので、気に入っていた黄色のワンピースを着ている。

「パパの意地悪!嘘つき!」

 涙目でそんな事を言っている我が子を見る。

「わはは。騙される方が悪いのだ。悔しければ全て避け、反撃してみせよ。ほれほれ!!」

 さらに数を増やし、ファイアボールを容赦なく投げつける。ルティーヤは高速で飛び、火柱をあげる火球をバックステップで躱し、側転で避け、少しずつ速くなる火球よりもさらに速い動きで避け続ける。


「やりおるな。ならば、これならどうじゃ」

 火球に加え、雷のサンダーアローを無数に浴びせる。

 さすがに避けられないと踏んだルティーヤは、自身の周囲を土のストーン・ウォールで覆い、火球や雷の矢を防ぐ。同時にレインの視覚から逃れた。

「甘いわ!」

 高速で回り込んで来た、ルティーヤの手刀を上空に逃れることで躱す。

「パパ、それずるい!」

「ふはははは。お前も空を飛べばよいだけではないか」

 言いながらも、容赦なく火球を浴びせ続ける。


 浮遊の技は風魔法の応用で出来るが、徒手空拳主体のルティーヤには不向きだった。

 ルティーヤも反撃で風刃や氷の礫を飛ばすが、実戦経験の差は如何ともしがたかった。自由に空中を飛び回るレインを捉えられずにいる。


「くそぉ、パパめ。」

 ルティーヤは、日々こっそりと練習していた必殺技を使う事を決意する。


 全身の魔力を活性化、体内で爆発させる。

 すると、レティーヤの背中からドラゴンの翼を模った黒い魔力が発生し、金の髪が大きく広がる。火球が飛んでくるのを厭わず、レイン目掛けて飛び上がりその身に火球を受けた。だが、そこにルティーヤの姿はない。

「ぐはっ!」

 瞬間、レインは横から脇腹に蹴りをくらい、大きく吹き飛ばされ、追いすがって来たルティーヤの叩き付けによって地面へと墜とされた。

 衝撃音と土煙が巻き起こる。その様子を見てルティーヤは慌てた。


「ぎゃぁ!やりすぎた!パパ!!」

 慌ててレインの元に駆け寄る。大地の岩盤を砕き、レインの体は半分ほどが地面にめり込んでいた。そして、レインは動かない。

「パパ!パパ!!」


 涙目で叫ぶルティーヤをレインは、寝たまま優しく抱き寄せてやる。

「大丈夫だ。今の技は、ルルの必殺技かの?」

「うん、パパ対策。まだ長時間は使えないけど、すごい力が湧くよ」


「そうか、そうか。すごいな。ルルは」

 レインはゆっくりと体を起こし、回復魔法を自身にかけ、立ち上がる。

 目の前には火球を受け、お気に入りの服が焦げたルティーヤが得意そうに立っていた。

「ところで、服。燃えてしまったな」

「あーーー!」

 ルティーヤは頭を抱え落ち込んでいた。

(賢いのかアホなのか、わからん子じゃ)


平穏でありつつも、騒がしい日々にレインの心は満たされていた。

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