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アカ色の糸

作者: みけサク

 『運命』というものが本当にあるというのなら、私達はそれに縛られて生きているということになる。自分の意思で決めたと思ったことも、全て私達よりずっとずっと上の存在が描いた脚本シナリオに沿ったものに過ぎない。全ては予定調和で、何もかもが必然。

 そう考えると、『運命的な出会い』っていうのも話を盛り上げる為だけに設けられた演出に過ぎないし、『運命の相手』っていうのも厭くまで話を進めていく為だけの登場人物に過ぎない。全ての出来事が上位の存在が描いた物語。その物語の登場人物同士は赤い色をした糸で結ばれている。両者がどんなに拒もうとも決して解けることの無い、まるで呪いのような真っ赤な糸。

 私には生まれつき、その赤い糸を見ることが出来た。


 〜〜〜


 朝礼前の教室と言えば、大抵何処の高校であろうとも騒がしいものだと思う。朝から無駄に元気で、宿題をしたかどうかという話から、昨日のテレビ番組を見たかどうかという話まで様々な話題が飛び交っているが、どの話題を取ったところで低俗なのに変わりは無い。

 今日も今日とて私が登校すると、教室は既に低俗な話題で満ちていた。話題の中を掻き分けながら、教室の一番後ろ窓際の席へと辿り着く。鞄から教科書とノートを取り出し、机に移し変える。途中で一限目に必要なノートを家に置き忘れたことを思い出したが、今更そんなことを思い出しても取りに戻ることなど不可能だ。これもささやかな演出というものだろうか。

 仕方無いので、一限目の授業内容は違うノートに書くことにしようと、私がそのノートを選別していると、私と同じグループとして分類されている少女、三、四人が朝の挨拶と共にやってきた。派手と言う訳でもなく地味と言う訳でも無い。どちらつかずの中途半端。類は友を呼ぶという言葉通り、私をよく表している私の友人たちである。

 「オハヨー」

 友人たちのテンションに合わして、私も努めて明るく挨拶を返す。友人たちは目をキラキラと輝かせながら、生き生きとした表情で私を囲い込む。

 「ど、どうしたの? 」

 友人たちのテンションがいつもよりも数段高くなっていることに、私は少しばかり戸惑いつつもそう返す。いつも低俗な話題で盛り上がっているが、それでも中途半端な人の盛り上がり方など高が知れている。中途半端に盛り上がり、すぐさまその熱も冷めるとそういうことの繰り返しだ。今朝のようなテンションというのは非常に珍しい。

 私の問い掛けに友人の中の一人、私の属するグループ内で最もおしゃべりな少女が、彼女の隣に立つ少女に彼氏が出来たのだ、と少しばかり声を潜めながら告げてきた。彼女の隣に立つ少女は彼女とは全く正反対の、グループ内で最も寡黙な大人しい少女だった。

 「えー、凄いねー」

 大げさに驚いておく。別に凄いとは思っていない。高校生なら恋愛の一つや二つするだろう。それが彼女の元に訪れたとしても全然おかしくない。

 私の心の篭っていない上辺だけの言葉でも、当の本人は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに顔を伏せていた。初々しい反応だが、高校生にもなってその反応は如何なものか。まぁ、彼女は今時珍しい生娘なのだから、そういった経験も初めてなのだろう。友人として此処は素直に祝福してあげよう。

 「で、どんな人なの? 」

 先程と違い今回の言葉には心が篭っているはずだ。興味があるというか、彼女の左手の小指に結ばれている糸と繋がっている相手かどうか、それは友人として大いに関心がある。

 『小指に結ばれている糸』と言っても、本当に結ばれている訳ではない。私にだけ薄く赤い線のようなものが見えるだけだ。私がその糸が自分にしか見えていないと知覚したのは私がまだ五歳の時だった。相手は親戚のお姉さんで、その人の糸は私の兄と繋がっていた。実際、その人と私の兄はもう随分も前から深い関係で、近いうちに身を固めようかと思っていると家族団欒の席で唐突に何の脈絡も無くそう告げていた。正直、そのことについて私はどうも思っていない。それは兄自身のことなのだから、兄の好きにすれば良いと思う。今まで『お姉さん』と呼んでいた人を『お義姉さん』と呼ぶことになるが、読みは口にすれば一緒なので問題は全くない。勝手に結婚でも何でもすれば良い。家族として祝ってやる。

 他にも赤い糸を見てきた。…この言い方には語弊があるか。私には赤い糸は常に見えている。出会う人で会う人の指に赤い糸がしっかりと結ばれているのだ。このクラスをざっと見渡すだけでも大多数の人の指に糸がある。中には少数だが何にも縛られていない自由なものもあるが、クラスでも嫌われている男子のものであるので納得ものである。

 実はね、とおしゃべりな少女の方が口を開いた。因みに彼女の小指の糸は彼女が嫌悪して止まない、チャラい事で有名なクラスメイトへと繋がっている。彼女たちの身に何が待ち受けているのかは知らないが、先の未来で必ず二人は一緒になるだろう。厭くまで私の予想に過ぎないが、たった一度の過ちが元で結婚しなければならなくなりそうだ。

 彼女はいずれ自分の身に降り掛かる事実も知らず、友人に出来た彼氏のことについて語る。彼女の口から出てきた名前は私もよく知る人物だった。その人物は残念ながら、寡黙な彼女と赤い糸で繋がる人ではなかったから、恐らく二人は上手くいかないのだろう。それは別に二人の問題なので私が残念に思っても仕方の無いことだが、それでも何処かで安心している私がいた。

 尚もおしゃべりな友人は彼氏について語り、寡黙な友人は顔を真っ赤にして黙っていたが、私は最早そんなことなど興味は無かった。

 私の頭の中は他のことで一杯だった。寡黙な少女の運命の人の名前は『木城きじょう ひろ』。寡黙な少女こと『木城きじょう 真白ましろ』の一つ下の弟に当たる。最初にその事実を知った時は私も結構な衝撃を受けたが、例えそれが禁忌であろうと何であろうと、二人の間に赤い糸が結ばれているというのなら、二人は必ず一つに結ばれる。まるで呪いの如く絶対に。

 いつか彼女たちが逃れようも無くその問題に直面することになるが、それは叶うならば、ずっとずっと先のことであって欲しいと思う。彼女がその問題に対して真っ直ぐに正面から立ち向かえるような強さを持つまでは訪れて欲しくは無い。

 柄にも無いことを考えながら、私は五限目の科学のノートを取り出す。一限目の内容はこれに書くことにしよう。

 私はそっとそのノートに一つの名前を書く。

 それは先程、真白の彼氏として語られた名前。

 そして同時にその名前は私の小指から伸びる糸が行き着く先にいる人物の名前だった。

思いつきの産物。

投稿する前に友人に見せたら、書き出し部分が友人の話と酷似していたという代物。

まぁ、それも『運命』なのでしょう。


読んで下さった方々に感謝を。真剣に短編を書くのは久し振りです。

と言うか、小説書くのが久し振り。

連載の方も続きをそろそろ考えたい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。 「運命の赤い糸」の小説を書こうとして、行き詰っている時に、この小説を読みました。 好きになった人が運命の赤い糸につながった人じゃない、寡黙な少女が印象に残りました。 友達の彼…
2012/07/19 14:08 退会済み
管理
[一言] 赤い糸、昔からよく語られる、運命の相手との絆ですね。 それが見えてしまう、というのはツマラナイですねぇ。けれども、結ばれる、というのが必ずしも『望んで』の結果とは限らないんですね?それにして…
感想一覧
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