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〇〇〇〇りくじょうぶ!  作者: 天笠愛雅
8/11

優秀な人材の勧誘に

次の日、僕は悠馬に相談することにした。

けれど、1つその前に消化しなければならない問題がある。

昨日悠馬が帰ってしまったのは、気を悪くしたからだろう。

そんな中で都合良く相談に乗ってくれるはずが無い。

「悠馬…。おはよう」

僕は、教室に入ってきた悠馬に恐る恐る挨拶した。

「お!おはよ、琉生。昨日はどうだった?」

悠馬の返事は、いつも通りだった。

昨日、何も無かったかのように。

そういう態度をとられると、逆に心配になるのが人間というものだ。

「あ、あぁ。楽しかったよ」

「良かったじゃん。で、入るの?」

「それはまだ決めてないけど…」

「そっか。ん、何かあった?」

悠馬には分かるようだ。

僕が何か抱えていると。

でも、凛に持ち掛けられた問題の他に存在する問題は、他でもなく目の前にいる悠馬に対しての気まずさなのだから皮肉もいいところだ。

悠馬が気にしていないような態度を取るのならば、僕だってそうしてやろう。

「実はさ、陸上部の1年生の子に、1人女子を入部させて欲しいって頼まれて」

「ほぅ、中々面白い頼み事だな」

「悠馬なら女子と仲良いし、コンタクト取れるかなって」

「良いけど来て欲しい子って決まってるの?」

「一応なんだけど…」

僕は、悠馬に昨日あったことも含め、鈴村桃子という人物のことを話した。

すると話は早かった。

「あ、中学同じだよ。話したことは無いんだけどね」

「ほんと!?すげぇ偶然だ」

今の一瞬で気まずさなど消えた。

「じゃあ琉生。今から行こうか」

「おう」

事はうまく運ぶように思えた。

しかし―

「いや、遠慮しとく」

きっぱりと頼みを断られてしまった。

「いや、向いてると思うし、ほら、中学の頃から足速かったしさ」

「で?」

必死に悠馬が説得するも、鈴村桃子が首を縦に振る様子は見られない。

頼まれた本人が何もしないのは情けないので、僕も加勢する。

「どうしてもだめかな?鈴村さんなら個人でも上の方目指せるだろうし、内申も上がるんじゃ…」

「良いんです、そんなこと。興味ないんで」

そう言って彼女は、教室から出て行ってしまった。

人の繋がりだけじゃどうにもならないことを痛感した。

「あの子、勉強が忙しいらしいの」

急に横から話し掛けられたので、僕も悠馬も最初、誰に向かって話しているのか気づかなかった。

話していたことを頭の中で再生した時、自分たちに言っているのだと気づいた。

「えっ」

「突然ごめん。あの子とは今年になって知り合ったんだけど、よく塾があるからってすぐ帰っちゃうの」

「そうだったんだ」

「琉生、やめとく?」

「今日の所はやめようか」

「話聞いてて…。私が入れれば良いんだけど」

「え、入ってくれないかな?」

僕は藁にもすがる思いで、目の前にいる小柄な女の子を誘ってみた。

「ごめんなさい。バスケ部に入ってるから…」

あえなく撃沈。


それからというもの、その日は授業中も昼休みも、僕と悠馬で作戦を練っていた。

手当たり次第に女子に声掛けて勧誘するという手も考えたが、それじゃあクリスマスまでに彼女が欲しくて、コクりまくってる奴と変わらないという結論に至り、今日の任務は失敗に終わった。

「どうしよう…」

2人で落ち込みながら帰っていると、グラウンドで練習している凛と目が合った気がした。

彼女の手も借りてはみたいが、果たしてどこまで役に立つのだろうか。


スカウト2日目。今日は土曜日、午前授業だ。

僕と悠馬は、鈴村桃子にこだわるか、それとも別の女子に声を掛けてみるかで議論していた。

「絶対に彼女は耳を傾けてくれない。他を当たろう」

それが悠馬の意見。

「いや、まだ分からない。何回か押せば行ける」

これが僕の意見。

だけど、彼女の言い分も分かる。

この学校では部活をやっても、大した結果は生まれない。

勉強に励む方がよっぽど賢明なのだ。

僕は誰よりもこの事を分かっている自信がある。

それを分かった上で彼女を陸上部に誘い、尚且つ自分が入るかどうかも分からないと言うのは、説得力のかけらもない。

彼女が拒否するのは当然。

むしろ、僕がこんな状態なのにも関わらず、彼女が素直に入部を決めたら僕はどうすればいいのか。

彼女に対して罪悪感しかない。

「じゃあ彼女の所に今日も行くか?」

悠馬の答えを求めていない、僕に現実を求める、半ば挑戦的な質問に僕はえて答えた。

「あぁ、行くよ」

悠馬は眉毛をピクリとさせた。

「そ、そうか」

時計を見ると、朝のSHRショートホームルームまで、あと5分になっていた。

「帰りにダッシュで1組に行こう」

僕は悠馬に、固い意志を見せた。


4限のコミュニケーション英語が終わり、僕はそわそわしていた。

1組より早く帰りのSHRを終わらせないと、鈴村桃子に逃げられてしまうからだ。

僕の周りの空気だけ、まるで100メートルの競技前のような緊張感に溢れたものになっている。

そして、無駄に心臓の鼓動が早くなっている。

担任はまだ来ない。

心なしか、いつもよりも担任が遅い気がする。

廊下から聞こえる雑談も、他クラスのSHRを進める声のように聞こえる。

「座れー」

ようやく担任が来た。

しかし、クラスの一部の奴らがまだ立ち歩いている。

早く座れ。

こういう時、陰キャは無力だ。

陽キャであれば、クラスを動かすことなど容易だ。

陽キャ?すぐそばにいるではないか。正真正銘の陽キャが。

「悠馬、あいつら座らせろ」

「あいよ。皆座れー!」

悠馬がクラスに指示を出すと、誰も嫌な顔せずにそれぞれの席に戻って行った。

これが陽キャの力。

身をもってそれを知った。

「じゃあ、SHR始めるぞ。明日は…」

担任言っていることは何一つ聞こえない。

鈴村桃子のことしか考えていない。

「起立」

やっと終わる。

僕は、「気を付け、礼」も、悠馬も待たずに教室を飛び出した。

さすがにまだどこもSHRは終わっていないだろう。

しかし、1組の方に顔を向けると、鞄を持った多くの生徒が廊下にいた。

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