部活見学に
突然話し掛けられた上、自分の思惑を見透かされて驚いた。
「あ、そうです」
「なんだ、だったら言ってくれれば良かったのに」
恐らく先輩であろうその人に、あなたが変な反応をしたから言えなかったなどとは言えない。
「すみません、ちょっと緊張してて」
「いいよー、そんな大した連中いないし」
「あはは、そうですか」
「見学するの?体験?」
「今日は見させていただきます」
一応着替えは持っているが、入部するか分からない以上、一度やめた陸上をなんとなくやることは、どこか僕の中で許されざることだと感じる部分がある。
「おっけー。じゃあもうすぐ始めるから待ってて」
1分くらいで部室から練習着を着た部員が5人出てきた。
「よろしく、私は部長の楪琴。君は?」
いかにも3年生の部長と言った正統派の見た目の先輩が最初に挨拶してきた。
「1年の風早琉生です。よろしくお願いします」
「よろしく。他の部員からは適当に名前聞いてね」
淡白な挨拶で、お堅い雰囲気だ。楪先輩。
「そう言えば、私の名前言ってなかったね。私は東雲さくら。2年生です!」
金髪の元気で活発そうな先輩、東雲さくら先輩。
「じゃあさくら。この子の面倒見てあげて」
楪先輩は東雲先輩に、僕の面倒を見ろと指示をした。
面倒と言われると、何か子供のような感じがして恥ずかしくなる。
「あいあいさー!」
さくらは、敬礼をして部長に返事した。そしてそのまま僕の方を向き、
「面倒見るって言っても特に変わったことはやらんけどね」
と言った。
部活が始まった。
2グループに分かれて行うようだ。
動きを見れば何故そうなのか、すぐに分かる。
短距離と長距離だ。
東雲先輩は3人での短距離グループ、楪先輩は2人での長距離グループ。
部活と言うには、あまりにも少ない気がする。
そんなことを考えていると、ストレッチをしている短距離グループの内の一人が話し掛けてきた。
「ねぇ、風早くんって、あの風早くんだよね?」
「あ、多分そうです」
「どういうこと?凛」
東雲先輩が、僕に向けられた質問の意味について、凛と言うらしき子に尋ねる。
「風早くんは中学の時、関東大会とか入賞したりしてるんですよ!あ、あと私1年生だからタメで良いよ」
「げっ」
東雲先輩のストレッチのリズムが消えた。
そして、ゆっくりと僕の方を向いて、
「まじか」
と、どこから出しているのか分からない声で言った。
もう1人の部員も、ほぼ東雲先輩と同じ動きをしていて、それはなんだか面白い。
「ま、まぁそうです…けど」
「何で言ってくんなかったんだよぉ。馴れ馴れしくしてごめん!」
東雲先輩が土下座する勢いだったので、必死にそれを止める。
「いや、関係ないですって!」
「ごめんね、私が止めとく」
さっき東雲先輩と同じ反応をしていた先輩は、すっかり驚きから解けたようで、東雲先輩の制御を代わってくれた。
「私、楪凛。よろしくね」
凛が唐突に自己紹介をしてきた。
後ろでは暴れる東雲先輩と、それを僕に代わって止めるもう1人の部員。
その光景を尻目に話す楪凛は、どこか可笑しく思える。
そして、その凛の珍しい名字は…。
「よろしく。もしかして、部長の妹さん?」
「そう!」
「やっぱり!」
「姉妹なのにあまり似てないってよく言われるんだけど」
「あー確かにそうかも。お姉さんの方は厳しそうな方だけど。あ、そちらの方は?」
そちらの方とは、東雲先輩の動きを封じていたが、今やじゃれ合いをしている人のことだ。
「橘光里先輩。3年生だよ」
凛が自分の紹介をしたので橘先輩は、東雲先輩をいじる手を休め、僕に向かって正座をして姿勢を正した。
「橘光里です。よろしく!」
「はい、よろしくお願いします」
「いやぁ、でもまじかよ。何で桃花なんかに来たんだよ」
東雲先輩が悠馬と同じような、いや、全く同じ質問をしてきた。
正直、この質問に答えることが、ここ最近で一番きつい。
「まぁ、色々ありまして」
「そっか」
「よし、凛、さくら、行くぞー」
年長の橘先輩が仕切り、3人はアップのジョギングを始めた。
もしかしたら橘先輩は、僕の事情をなんとなく察してくれたのかもしれない。
勝手に僕は、橘先輩のお姉さん感を感じた。
3人は、土の400メートルトラックを1周して戻って来て体操をしている。
「風早君はいつまでいるの?あ、いつまでいるのってそういう意味じゃなくて!」
凛が僕に訊いてきた。
「最後までいるつもりだけど」
「じゃあさ、今日の練習そんな多くないから終わったらどこか行こ?」