カミングアウトをお互いに
「え?って。知らなかったの?」
「うん、知らなかったんだけど」
僕は今までずっと、元から共学だったと勝手に思い込んでいた。
僕が去年まで桃花が女子高だったことを知らなかったのは、単純に桃花についてそこまで興味が無かったからだ。
絶対に川北に行きたい、絶対行ける、という先走った気持ちが、僕を情報不足に追いやったようだ。
それに加え、最悪の場合でも桃花は大学への進学があるし、川北に落ちた時はどうなってもいいという自暴自棄な気持ちがあったのも要因だ。
「まじかよ。逆に今までよく気づかなかったね」
「周りに興味無かったし。確かに言われてみれば女子多いね」
「少ないね、じゃなくてさ。先輩に男いないんだよ?」
「そっか。それは驚かれるな」
「いや、女子ばっかなことになんとも思わないの?」
「いや、思うさ。けど良いかなって」
「おぉ、な!良いよな!分かってくれるか琉生」
急に悠馬が声を大きくし興奮し出したので、僕は何事かと思った。
その悠馬の顔は謎にキラキラしている。
「ちょっと待って、何が?」
その瞬間、悠馬の表情から輝きが消え、疑問の表情へと変わった。
「良いって言ったじゃん」
『良い』と言ったのは、どうでも『良い』という意味で言ったのだ。
もし、悠馬が違う意味で受け取ったとしたらどういう意味なのだろうか。
一旦、自分で言った意味から離れてみる。
そうやって考えたら、すぐに悠馬の考えている意味が察せた。
「もしかしてだけど、女子ばっかっていう状況に良いって言ったって思ってる?」
「そうじゃないの?」
やっぱり。
あんなに女子にモテているのは、悠馬自身が図って起こしていることなのか。
僕はふとそう思った。
「違うよ、僕はどうでも良いって意味で言ったんだよ」
「どうでも良い?この環境になんも思わないのか?」
「男子の部員はいて欲しいなとは思うけど」
「そういうことじゃなくてさ。つまらなくないの?桃花に来た男の目的は女。皆そうだよ」
学校のことをろくに知らないで入学した僕が言えることではないが、そんな理由で貴重な人生の3年を使い、ましてや今後の人生を大きく分ける高校を選ぶのはいかがなものかと思う。
そして僕は、悠馬に対して無言で首を傾げる。
「まじか、そんな奴が桃花にいるなんて。なんで桃花に来たんだ」
悠馬も悠馬で僕に呆れているようだ。
「理由なんてないに等しいよ。大学にも行けるし」
「陸上する気は無かったんだ」
悠馬が痛い質問をしてきた。
「川北に落ちた時点で陸上は諦めたさ。桃花でやっても意味無いと思ったから」
「そうだったのか。琉生頭良いのに」
唐突に自分の失敗を悠馬にカミングアウトしてしまった。
「頭良いだけじゃ上手く行かないことだってあるよ」
これはそんな受験の失敗から学んだ教訓だ。
勉強が全てじゃないと。
「深いな」
悠馬が僕の言ったことに感心しているようだがそんな大層なものでも無い。
「そんなことない。浅いよ」
「ふふ、浅いって」
僕の返しに少し笑った後、悠馬は、
「じゃあ今日のところは俺、退散するね」
と言って帰ることを僕に告げた。
「お、おう、分かった。じゃあね」
僕は、急に帰ると言い出した悠馬に驚いたが、僕がそう言うと、悠馬は校門の方に歩き始めた。
よくよく考えてみれば、悠馬は女子の誘いよりも何かと僕を優先してくれる。
今日一緒に来てくれたのだってそうだろう。
図って女子に好かれようとしているのがなんだかもったいない気がする。
素の悠馬で十分モテるだろうに。
悠馬が帰った後、陸上部の部室の前に立って考え事をしていた。
1分位のそんなに長くない時間だ。
そして、再度部室に入ろうか迷っていたところ、部室のドアが開き、さっきの金髪の女子が出てきた。
「もしかして、入部希望?」