同級生から友達に
桃花高校に入学して数日が経った。
友達はいない。
正確には、いないという訳ではないが友達と呼べるくらい話すような友達がいないのだ。
じゃあ、誰となら話すのか。
桐ヶ谷悠馬。
僕の1個後ろの出席番号の同級生だ。
彼は明るい人柄で、クラスの女子からも人気があった。
「今日カラオケ行かない?」
「ねぇ、私と買い物行こうよ!」
悠馬は、いつもそんな感じで女子たちから声を掛けられている。
けど、決まって彼は、
「ごめん、今日はやめておくよ」
と言って、断るのだ。
「琉生、行こうか」
僕はそんなイケメンに誘われ、一緒に帰ることがよくある。
なぜ彼が僕なんかに構ってくれるのかは分からない。
「そろそろ部活決めなきゃいけない時期じゃない?」
悠馬が校舎の玄関を出たグラウンドが見える所で僕に聞いてきた。
部活...陸上...。
僕は、川北に落ちた時点で陸上競技を続けることを諦めた。
ある程度の実績はあったものの、勉強との両立であまり陸上の知識を蓄えておらず、陸上で名前を聞いたことの無い桃花高校で続けても、川北を始めとする強豪校のライバルには敵わないと感じたからだ。
決して陸上が嫌になった訳では無い。
続ける理由が無い、続けても結果は出ない。
それが目に見えて分かる。
桃花高校は、ある程度の成績を維持していれば、桃花大学へ進学出来る。
だから、陸上を必死にやって推薦を貰うより、勉強を真面目にやって良い学部や良い他大学に行く方がよっぽど現実的なのだ。
そして僕の将来の夢は教師。
陸上でどうこうする職業ではないし、陸上をやるにしてもやらないにしてもその夢は変わらないだろう。
特に理由は無いが、国語が好きなのでなんとなく目指している。
「そうだね。でも、バイトでもしようかな」
悠馬は、驚いた表情を見せた。
僕の顔を覗き込むように見て、
「え、陸上やんないの?」
ドキッとした。
悠馬には陸上をやっていたことは言っていないし、この学校に来てから誰にもそんな素振りを見せていない。
「な、なんで知ってるの?」
「いや、なんかクラスの女子が言ってたよ。すごかったって」
僕の知らない所で僕の噂が出ているのか?
恐らくその子は元陸上部なのだろう。
「そうだったんだ」
「だからさ、やればいいじゃん」
「そんな簡単に言われても...」
「もったいなくない?」
「もったいない?」
「才能あるんだからさ。1回行ってみなよ」
才能...。
その一言で済まされるのはあまり好きじゃない。
でも、なぜか悠馬のその言葉は、不思議と嫌な感じはしなかった。
「考えとくよ。今日は帰ろうぜ」
「うん、分かった」
悠馬は素直に僕の言うことを聞いて、無理強いもしなかった。
これが彼のモテる所以なのだろう。
その後一切、悠馬が陸上について僕に聞くことは無かった。
彼の気遣いや優しさが、友達のいない学校生活に彩りを与えてくれる。
悠馬はもしかしたら、友達と呼べる存在なのかもしれない。
僕と悠馬は駅に着き、改札を通るとその先で別れた。
家は真逆の方面だ。
「じゃあね」
僕は少し距離が離れた悠馬に言った。
「うん、また明日」
彼は右手を挙げ、挨拶を返してくれた。
彼ともう少し話していたい気もしたが、また明日にしよう。
そう思うとまた学校に行くのが楽しみになった。