5-25 慟哭の夜を笑っていけ
じゃあな運命、お前ともサヨナラだ!
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――とか何とか言ってから、数日後。
気まずい。
めちゃくちゃ気まずい……。
木立の合間から建物を見上げて、おれは固まっちまった。
南米ボスの屋敷跡。今や久瀬の部隊が根城にしているはずの場所。まだ親父も彩乃も母さんも、朝倉だってここにいるはずだけど。
あいつらの気配をひしひしと感じるところまで来て、ついに足が止まってしまう。というか、本格的に逃げ出したくなってきた。
だって、合わせる顔がないっていうか。あれだけベタな別れ方をしちまったのに。今さら、どんな顔して帰ればいいんだ……?
と、背後に怒気を感じて振り返る。
……って、彩乃!?
そのままドカッと体当たりをかませてくる。
「このバカ兄貴!! 何やってたの!」
彩乃が鬼のような形相で立っていた。
「生きてたんなら、真っ先に家族に連絡するのが筋ってもんでしょう!! 」
「……いや、その」
おれの胸をバシバシ叩く。
「なのに兄貴はいっつも、どこかの誰かさんとだけ密談するから、母さんなんてもうカンカンよ! というか、あたしもだからね!」
「……久瀬から聞いたのか」
おれが帰ることは、久瀬にだけは伝えていた。だけどそれは、アイツに対する思念波の有効範囲が、ずば抜けて広かったから……。
「あの、彩乃――」
「生きててよかった……!」
思いきり身体に抱き着かれて、さすがに焦る。
おま、オウガに……てか、男に無防備に抱き着くなよ!
慌てて引き剥がそうとすると、
――ちょっとぉ、妹との禁断の恋とか、やめてよね。
――ホントホント。
ばっ、黙れ、そんなわけがねぇだろう!
*****
あのとき、溶岩湖にダイブする寸前。
おれは身体が引き裂かれる感覚にぎょっとした。
なん……?
左腕が肩から捥がれるような感覚の後、肉片が盛り上がり、急速に人の姿を形作る。
って、シンシア?! まさかお前、分離でき――
と思ったときには溶岩風呂へ直行だ。
正直、意識が焼き切れるかと思った。余りの痛みに意識が消し飛びそうになった。
というか、さっさと消し飛んでほしかった。
こんなの……早……終わって…くれ…ぇ……!!
そのとき、ふいに衝撃を感じた。
どこかに突き飛ばされた気がして、耐え難い息苦しさが、ちょっとだけましになる。
――やって……みなさい……よ……。
ふいに、そんな声を聴いた気がした。
すぐ目の前で溶岩が躍っている。獲物を得て喜ぶみたいに、火の粉が大きく舞い踊る。その中で、ひと際大きな塊が激しく跳ねた。
――やれる……ものなら、
何度も跳ねては悶えるそれが、まるでシンシアを模っているように見えて、
……まるで火の精霊の乱舞に見えて。
――せいぜい……足掻いて、……………
それを最後に、消えていく。
消えて……、
………。
……は……?
理解できなかった。
アイツが最期に、おれを助けた……?
溶け落ちたはずの身体がゆっくりと治っていく。いつもなら猛烈な飢餓感に襲われるはずなのに、今は意識を持っていかれる気もしなくて。
なぜ……。
おれは惚けていたのかもしれない。
なんで……お前は……。
それに対する答えは、もうどこからもなかった。
**
「本当に、涼司なんだな……」
あの後、彩乃に引きずられるように屋敷に入って。
家族との感動の対面ってやつを展開して、泣かれて怒られて、さすがにいたたまれなくなって、身の置き場に困ったおれが逃げ込んだのが、南米ボスの執務室だった。
「よく生きてたな……」
まだ言うか朝倉。
と、傍らで苦笑する気配がした。
「何だよ。何か言いたいことでも?」
久瀬を睨むと、
「いや。――無事で何よりだよ」
再び笑うようにしてから椅子を指さす。まぁ座れと言うことだろう。
「で、そろそろ聞かせてもらえるかな。何があったのか――彼女はもう、いないのだろう?」
帰ると連絡したときから、ホットラインは接続していた。だから、おれの気配でそれくらいのことは分かるんだろう。
でも、まだ何の説明もしていない。説明なんて、できる気がしなかった。
けど、このままってわけにはいかねぇしな……。
何となく座る気になれなくて、おれは壁に背を預ける。
久瀬は特に何も言わなかった。朝倉も無言でおれを見上げる。
しばらく沈黙が降りて、それからようやく、おれは覚悟を決めて口を開いた。
まずは火口での顛末を。それから、あいつの過去を伝えるために。
ぽつりぽつりと言葉を吐き出す。急かすでもなく、黙っておれのタイミングを待ってくれるこいつ等になら、ありのままを話せると思ったから。
「……アイツの身の上話は、かなり淡々としたものだったんだ」
余り古い話じゃない。アイツの始まりは、せいぜい50年前のことだった。
アイツは、欧州の富豪の一人娘として生まれたらしい。父親は大手製薬会社の創業家の一人だった。やり手幹部として腕を鳴らしつつ、妻と娘も愛する家庭人だったようだ。
その生活が一変したのは、母娘の乗った飛行機がアルプスの雪山に墜落したときだ。アイツは当時12歳。直後に発生した雪崩に巻き込まれ、乗客の多くは行方不明となったらしい。最終的に生存者は皆無、そのはずだった。
「――はずだった?」
「そう、一年以上も経ってから、父親の下にひょっこりと娘だけが返って来たらしい。それがまさにシンシアだった」
どうやってあの雪山を生き延びたのか、なぜ今になって帰って来たのか。要領を得ない娘の話から、それでも父親は一つの仮説を立てたらしい。
彼女は雪崩に巻き込まれ、深いクレバスの底に落ちたのではないか。そうして仮死状態となったまま、クレバスの底を流れる沢に押し流されたのではないか。そのおかげで、奇跡的に人里まで出てこられたのではないかと。
けれど、そんな奇跡は起こるはずもなかった。アイツは単に、アルプスの凍土に眠る未知のウィルスに感染して、初代オウガとして蘇ってきただけだった。
――そこまで話したところで、朝倉の喉がごくりと鳴る。
「その話、どこまでが真実なんだ?」
おれは肩を竦めた。
「さぁな。嘘をついているようには見えなかったが。少なくとも、アイツはそう認識しているようだった。
……氷の洞穴をさ迷っていたときの記憶なんて相当に曖昧で、どこでどう感染したのかは、アイツにも良く分からないみたいだったし。今に至るまで、敢えてそこを調べ直す気もなかったようだ。迂闊に手を出して、妙なもんが出てくるのを避けたかったのか、単に興味がなかっただけかは分からねぇけど」
久瀬は眉を顰めるようにした。
まぁ、言いたいことは分かる。それが全ての元凶なのだとしたら、調査してでも明らかにしたいところだろう。
だけど、本当に藪蛇になるかもしれないし、解明したところで改善に繋がるかは不明だ。今は大人しく蓋をしておくのが賢明なんじゃないか――
「それで、どうなったんだ」
焦れるように朝倉に先を促され、おれはもう一度肩を竦めた。
帰ってきた娘の異常に、父親はすぐに気づいたらしい。それでも始めは、未知の奇病に罹患しただけだと、そう考えたようだ。初期の頃は、やけに生肉を好むようになったとか、情緒が不安定だとか、そんな程度にしか見えなかったんだろう。
けれど、決定的な場面はすぐにやってきた。当時のアイツは正真正銘、まだ12歳の子供だ。無邪気に使用人に手を出して、それでようやく父親は悟ったらしい。これは世間に晒していいような奇病ではないと。
それで密かに、娘の治療を開始した。人を喰らわずに済む身体に、元の娘に戻そうとした。
新たにベンチャー企業を立ち上げ、精鋭揃いの研究チームを創った。自身は立場を一切明かさず、嘘で塗り固めた研究理由を掲げさせ、背後で金と指示だけを出す存在になった。
「――それが組織の始まりか」
おれは頷く。
「そうらしい。奇病の副作用である異常な能力向上メカニズムを解明して、世に画期的な新薬を、とか、そんな感じで活動を開始したらしい」
「それがどうして、今のような形に」
「まぁ、想像はつくだろう? 研究が長いこと上手くいかなかったら、どういうことになりそうか」
朝倉は吐息をつく。
「禁忌にも手を染める、か」
知らず、自嘲めいた笑いが込み上げる。
「そう。娘は一向に良くならない。むしろ力は増すばかりで、それに比例して喰う量も増えていく。外見も一切成長しない。……まぁ、その頃にはさすがに、アイツは一度死んで蘇生した何かだと、父親にも分かっていたようだけどな。
いずれにしろ、研究には金が必要だった。アイツを養い続けるためにもな。だから手っ取り早く、金を稼げる軍事産業と繋がったんだろう。
その一環として、人間のクローン技術にも早くから手を出していたらしい。結局、失敗続きだったようだけどな。精神に異常を来たす化け物ばかりが産み出され、そうしてすぐに廃棄された」
吐き捨てるように言うと、朝倉が少しだけ気遣うような視線を投げてくる。
……ったく。その程度でどうにかなる神経は、もう持ち合わせてないってのに。
「それでも、やがて1体だけクローン化に成功したらしい。彼女はオウガの特徴を持たない、全く普通の人間に見えた。そのクローン第1号が、実験島にいたシンシアだ」
外界との接点をほとんど持たず、こっそりと育てられたクローンのシンシアだが、それでも彼女は、明るく素直に成長していったらしい。そうして日々、かつての娘の面影を色濃くしていくクローンに、父親は次第に愛情を傾けていった。
その頃のアイツ、――あの悪魔は、すべての事情を知り、父親の裏稼業を手伝うまでになっていた。それだけに、父親のそうした変化はアイツにとってどれほどの衝撃だったのか。
アイツは総じて他人事のように語っていたが、この辺りを説明したときの無機質さは異常だった。
自分が父親の望まない何かに変わってしまったことも、父親がそれにひどく疲弊していることにも気づいていた。それでも、父親が自分に向ける執着には救われる思いだったんだろう。
それが、クローンの存在でヒビが入った。
彼女が12歳になったとき、それは決定的なものとなった。
アイツがオウガになったのと同じ歳。昔と変わらない娘の姿に、父親はクローンを全身全霊で愛し、オウガのアイツを棄てようとした、……らしい。
「それに気づいたアイツがどうしたかは、……ある程度、想像がつくだろう?」
無言の視線がおれを見上げる。
「もちろんそんなの、何の言い訳にもならねぇけどな……」
アイツは父親を殺した。
それだけでは飽き足らず、オウガに変えた。
それまで何も知らずにいたクローンの目の前で、父親をオウガに変え、そのオウガにクローンのシンシアを襲わせたのだと、そう淡々とアイツは告げた。そうして、彼女を特別なモルモットとして扱い始めたと。
同時に、創始者としての活動も再開したらしい。父親の仕事ぶりは知っていたから、さほど難しいことでもなかったようだ。
――と、そこまで話した時。
「彼女は一体、組織で何をしたかったんだと思う」
そう静かに問いかけてきたのは久瀬だ。
感情を窺わせない冷えた色。けれど、その瞳の奥で揺れているのは、――憐憫か諦観か。
「分からねぇよ。おれだって全てを聞いたわけじゃない。はっきり言って、あいつの行動原理は意味不明だよ。
……確かに、ウィルスの拡散は望んでいたようだが。その意に沿う限り、組織の奴らにも好きにさせていたみたいだし。お前の思惑を知りながら放置していたのも、きっとそのせいなんだろう。……ただ、全てはそのときの気分で決めていたと、そう言った方がしっくりくるぐらいだ」
狂気に染まった快楽殺人者。暇に飽かせて他者を弄ぶ最悪の化け物。
それでも、あいつは狂人じゃなかった。むしろ――
「――ならば、もう一人のシンシアは? クローンの彼女はどうだったと思う」
ほんの僅かに躊躇う素振りを見せてから、久瀬が尋ねる。おれの様子に、何となく察するものでもあったのか。
……要らねぇ気遣いだ。
「あいつはモルモットとして、2年ほど生き地獄を味わわされたらしい。それから、あの姿に堕とされた。死ぬに死ねないような姿で、おれが解放するまで5年もの間、ずっとだ。……その辺りはお前の方が詳しいんじゃないのか」
「まぁな」
久瀬が短く応える。
「もう解放して欲しいと、彼女の口にする望みはそれだけでね。私の言えた義理ではないが、あれでは無理もなかっただろう。ただ、――」
珍しく久瀬が言い淀む。
「何かある、とは思っていた。見た目通りの、憐れなだけの少女ではないと。――けれど彼女は、最後までその胸の内を明かしてはくれなかったものでね」
何となく視線が床に向く。
「……シンシアはあの姿になってから、記憶の共有を受けたらしい。あの悪魔の記憶をだ。それがどの程度のものだったのかは分からないが。
それからしばらくして、シンシアの方から交渉を持ち掛けてきたらしい。もし、自分の裁量でこの地獄を這い出して見せたなら、そのときは黙って認めろと。自分の力だけで足掻いているうちは、黙って見ていろと。
あの悪魔も、それを受け入れたそうだ。……いい加減、甚振りつくして飽きていたのかもな。
それで、おれ達がシンシアを解放するまで、一切の手出しはしなかったらしい。口惜しいとは言っていたが。あのとき初めて、おれの存在をはっきり認識したとも言っていた。だから、――……」
単純に考えれば、シンシアの望みは解放だ。
それは自他ともに認めている通りで、あいつは見事にそれをやってのけた、そこに疑いの余地なんてないだろう。
だけど、自身を解放させるだけなら、結城一人で出来たはず。
それをわざわざ、おれをあの場所に呼んだのは。
途中で結城に引き合わせたのは。
『アンタの存在を嫌ってほど認識したのは、あのときだったわ』
あの悪魔がさりげなく漏らした言葉。
それが答えじゃ、ないんだろうか。
おれをわざと目立たせて。あの悪魔の興味を引き、目をつけさせた。
おれを身代わりにするために。
結城に対してだけでなく。恐らくはあの悪魔に対しても。
その理由は、きっと――……
「――涼司?」
朝倉の声に顔を上げる。
「おれが聞いたのはそこまでだ。だからさ」
その後に口をついて出てきた言葉は、我ながら八つ当たりのようなものだったかもしれない。
「あいつの真意なんて、おれにだって分かるはずもねぇだろう?」
***
執務室を出て、あてがわれた自室へと向かう。
無駄に豪奢な階段を上った先、見晴らしのいい二階の角部屋に入って、窓を盛大に開け放つ。
そのまま大きなベッドに仰向けになると、また益体のない思考が押し寄せてくる。
『やってみろ』、か……。
アイツは最期にそう言った。
そしてもう一度だけ、おれの飢餓感を剥ぎ取っていきやがった。
だけど、飢餓感を散らす方法を、そのやり方まで教えてくれたわけじゃない。そこまでサービスする気はなかったらしい。
ホントに何がしたかったんだよ、アイツは……。
だからきっと、近いうちに苛まれるだろう。大人しくしていても。まして、オウガの力を使うなら。
それでもやってみろと、そう言いたかったのか。
オウガの力を使わずに、やっていけるのか。あるいは、力を使いながら狂気を御し続けられるのか。
できるものなら、やってみろと?
……アイツの思惑なんて分からない。
何度反芻してみたところで、やっぱりアイツの行為は碌なもんじゃない。
例えあいつの生い立ちに同情の余地があったにしても、赦す赦さないの範疇なんてとっくの昔に振り切れている。
クローンのシンシアが悪辣で矛盾だらけになったのだって、元を正せば、全てあの悪魔が元凶だろう。
組織の奴らに、シンシア、結城、……おれ自身。
禄でもない奴らを生み出し、ひたすら負の連鎖を広げただけだ。
それでも、――……
この先、どうなるかなんて分からない。
おれがこのまま、この世界に居ていいとも思えない。
それでも、消えるのは。おれがここから消えるのは、今である必要はないと、そう思えたから。
……そうだな、これ以上は考えたって仕方がない。
おれの狂気を抑えてくれる、そんな奴らが居るうちは。
おれが誰かに消されるまでは。
それまでは守っていきたいと、大事な奴らに笑っていて欲しいと、そう思う。
いいじゃねぇか、挑戦してやる。
文句があるなら言って見やがれ、ってんだ。
――いいんじゃない、それ。あんたっぽくて。
ふいに頭の中で声が響いた。
誰の声かなんて、すぐに分かる。……結城だ。
――涼司君らしい。いいわ、疲れたら慰めてあげる。
――ちょっと裕香!
――あ、ずるい! わたしだって!!
……中嶋に、真帆の声まで。
目を閉じれば、あいつらが目の前で言い合う姿まで浮かんできやがる。
……わかってる。こんなのは幻だ。
全部、おれの創り出した妄想の産物。
溶岩湖に飛び込んだ後、その後からずっと、盛んにおれに話しかけてくるバカげた幻想。
――ちょっと! 失礼ね、私たちは幻じゃないって何度言ったら、……聞いてるの?!
……おれが真帆を喰ったから、おれの中にいるってんだろ?
――そうよ! 理に適ってるじゃない!
……お前ら、前に言ってたよな。そのままではいられない。すぐに消えちまうって。
――そう、だったかしら?
思わず、鼻で笑ってしまった。
――ちょっと! じゃあ何? 私たちは本当にあんたの妄想だとでも言うの? ……うわぁ、だったらこんな味気ない白衣じゃなくて、もっとましなもの着せなさいよ!
――えー、だったらわたしも! なんでユウキと同じ姿じゃないの? 何で子供のままなの!?
おれは渋いツラでもしていたんだろう。
――あ、涼司君。この二人が嫌になったら、いつでもわたしに乗り換えていいからね。
――「「ちょっと、裕香」」!!
こめかみを押さえながら、身体を起こす。
――まぁいいじゃない。細かいことは。
――そうそう、気にしないもの勝ちぃ!
――ちょっと、あんたたち!!
思わず苦笑しちまった。
全く、妄想に何を言わせているんだか。
……でも、そうだな。何が悪い。妄想だろうと構わない。こいつらのおかげで、今のおれでいられるのなら。
人間、シリアスだけで生きられるようには出来てねぇんだ。オウガだって同じこと。
――そういうことでいいんだろ?
ニンマリとした悪い顔。
それが一斉に返ってきた気がした。
***
――1年後。
『おい涼司、いるか? 仕事だ』
朝倉が思念波を投げてくる。
すぐ目の前で、チビの池田が水野の足にじゃれついている。足元では、おれの身体を使って果敢につかまり立ちしようとしている中嶋ジュニア。
『おい、聞いているか?』
思わず溜息をつくと、つぶらな瞳がおれを見上げた。
くしゃくしゃと柔らかい髪を掻き回してやると、ぷぅと膨れたような顔をして、ぺちぺちと攻撃してくる。
『――ったく、たまには自分で足を運べよ。便利だからって四六時中、無線代わりに思念波を使うんじゃねぇ』
『いやぁ。お楽しみのところを邪魔しちゃ悪いかと思ってさ』
どちらにしろ、邪魔してんだろうが。
そう言いたくなったが、……まぁいいか。こいつとは憎まれ口を叩き合うくらいが丁度いい。
『すぐに行く。――あぁそうだ、久瀬にも伝えといてくれ。首を洗って待ってろ! ってな』
朝倉が噴き出す気配がした。
『いいなぁそれ! 今度、俺も使ってみようかな』
『――だろ?』
おれはチビどもを引き剥がして、水野に預ける。
水野がにっこり、「いってらっしゃい」とか言いながら、チビどもと一緒に手を振ってくる。
――ったく、どいつもこいつも。
どこか逞しくなった水野の姿に、池田の姿が重なる気がする。
――そう言えばアイツも、元気でやっているだろうか。
かつて、ほんの一瞬、言葉を交わした池田の弟。
もうあいつ等に詫びることなんてできないし。
巻き込んだ奴らの人生に報いることもできないけれど。
おれにもまだ、出来ることがあるうちは。
朝倉たちの待つ部屋に向かいながら、おれはどこか口の端が上がるのを感じていた。
――首を洗って待ってろ、か。
本当にそれを言ってやりたい奴は別にいる。
どこの誰かも、どこの何かも分からない。
でも、だからこそ何度だって言ってやろう。
そうお前。お前のことだよ、運命なんてクソ野郎。
そう何度も、お前の筋書き通りに進んでやると思うなよ。おれたちはしぶといんだぜ?
――あぁいいさ、気に入らなきゃ、何度でもかかってこいよ。
おれたち全部で、きっちり丸ごと、笑い飛ばしてやるからさ!
――慟哭の夜を笑っていけ
本作はこれにて(一応の?)完結となります。
端折った箇所はてんこ盛りですが、とりあえずエタらないよう、広げた風呂敷を畳みにかかっていました。力不足に悶えながらではありますが、それでもなんとか形にできた気がします。
ここまでお付き合い頂きました皆さま。とりわけブックマークや評価頂いた方々に。心からお礼申し上げます。




