表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
慟哭の夜を笑っていけ  作者: 水城リオ
第1章 ハジマリの夏
17/87

第1章 Epilogue

 ひどい寒気がした。

 ガリガリと引っ掻くような、神経を逆撫でする感覚。それが容赦なく全身を突き刺してくる。


 何……。


 身体がやけに重かった。身じろぎすると全身がバラバラになりそうな気がした。


 何だよ、くそ……。


 どうにか上半身を引きずり起こすと、頭が割れるように痛んだ。

 毒づきながらも辺りを見回すと、青みがかった視界に浮かび上がったのは、10畳ほどの広さの空間と、壁一面に広がる大窓。

 どこかで、見たことのある光景だと思った。

 でも、どこでだったろう……。


 頭が強く圧迫されているかのようで、まともに記憶を辿ることができない。

 何より、全身を締め上げる飢餓感に、意識が削がれた。

 ひどくイラつく。

 得体のしれないこの場所にも、思い通りに動かないこの身体にも。


「ようやくお目覚めか? 矢吹」


 瞬間、吐き気がするほどの憎悪が込み上げた。


「――仁科ぁ!!」


 あいつだ。

 あのくそ野郎……!

 窓の向こうに、見間違えようもない男が立っていた。


「てめぇ、よくも――」

「くくっ。ちゃんと記憶はあるようだな」

「何言ってやがる! てめぇはおれが、」


 言いかけて、言葉が途切れる。

 おれ……は……。

 頭が割れるように痛む。

 視界が明滅し、おぞましい残像が脳裏を過る。

 最悪の感触が全身を這いずり回って、

 ……っ!!


「ようやく気づいたか、矢吹?」


 笑い含みの声に顔を上げると、突然、窓の外の景色が変わった。

 目の前にいたのは、色の抜けた髪と、泣き腫らしたような真っ赤な瞳。

 紛れもないオウガのそれが、おれをじっと睨んでいた。


 ……っ!

 とっさに後ずさりすると、そいつも馬鹿みたいに同じ真似を、して――

 ……あぁ、くそ。


「相変わらず、察しはいいようだな」


 分かっていた。

 こんなことがあるかもしれないと、頭のどこかで予想はしていた。

 ――けど!


「どうだ? 生まれ変わった気分は」


 鏡の奥、暗がりの中で異様な輝きを放つ赤い色。淀んで荒んだ、昏い赤。

 吐き気がした。


 どうだ、だと?


 ありったけの力で鏡を殴る。

 それでも鏡はびくともしない。

 苛立ちばかりが募っていく。

 狂おしいほどの飢餓感が押し寄せてきて、意識が根こそぎ持っていかれる。

 憎悪に全身が締め上げられる。


 ふざけやがって……!!!


「くっ、あははははは!」


 再び透けるようになった窓の向こうで、あいつの顔が愉悦に染まっていた。


「いいねぇ、矢吹。もっと私を楽しませてくれたまえよ」


 そのまま口角を釣り上げる。


「お前はもう、私の可愛いモルモットなのだから。私の研究が終わるまで、永遠にな……!」


 哄笑へと続く言葉を聴きながら、ただ立ち尽くすことしかできなかった。



 ******


 ******


 ******




 運命なんて言葉は大嫌いだった。

 定めなど知らない。

 決められた未来など信じない。

 運命なんかに、自分の未来を決められてたまるか。

 おれはずっと、そう思っていた。


 だけど、間違っていたのか。

 全ては決まっていたことなのか?

 おれがどれだけ足掻こうと、何の意味もなかったと……?


 ――そんなこと、あってたまるか! 


 だったらこれは、おれのせいなのか。

 おれがどこかで、何かを間違えたせいなのか?

 でも、どこで? どこから?

 ……分からない。

 おれにはもう、分からなかった。



 どうすればよかったんだろう。

 おれは、どうすればよかったんだ。

 逃げ出せばよかったのか。

 逃げられたんだろうか?

 それとも、あいつらを見殺しすればよかったのか。

 ……だけど、そんなの……!!



 どうすればよかったのか、分からない。

 分からないけど、戻りたい。

 あのバカみたいに陽だまりに、もう一度……。


 だけどもう、戻れない。

 そんなことは分かってる。

 どんなに願っても、戻れるわけがないことぐらい……!


 それでもおれは、考えずにはいられなかった。

 どうすればよかったんだろう。

 おれは、どうすればよかったんだ。

 こうなる前に。

 こうなってしまう前に。

 そして、これから…………!




 ・

 ・

 ・

 ここまでが長い長いプロローグ、2章からが本章となります。

 次は、一旦過去のお話に戻ります。

 もし楽しんで頂けましたら、評価頂けるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ