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駄作ラノベのヒロインに転生したようです  作者: きゃる
第一章 自虐ネタではありません
8/60

適当ヒロイン 5

 *****


 翌朝私はスッキリ目覚めた。

 眠れない夜を過ごすかと思っていたら、案外ぐっすり眠れたようだ。懐かしい夢の中で、小さなロディと会えたおかげかもしれない。


 修道院から出るための準備は万端だ。

 昨日の夕食時、パンをわざと余らせ持ち帰った。部屋にあった蝋燭(ろうそく)を拝借し(盗んだのではなく借りるだけ)、服や寝間着と一緒に布の袋に詰めてある。塀の壊れた箇所から逃げ出せばいいので、脱出用のロープなんてものは、要らない。

 手鏡? (くし)? そんなものは邪魔になるだけなので、もちろん置いていく。

 身を寄せるあては……あるようなないような。


 以前、馬車でそう遠くないところにある森に、みんなで薬草を摘みに行った。そこで偶然見つけた小屋が、私の頼みの綱だ。

 鍵がかかっているとか不法侵入とかは、怖いので考えないようにしよう。少なくとも私が見た時は、扉が開いていた。閉まっていたら、蹴破ってでも押し入るつもり。

 一度亡くなった私は、結構たくましい。


 何食わぬ顔で朝の礼拝に参加し、いつも以上に熱心に祈る。

 ――神様、どうか上手く逃げ延びますように。


 本心を悟られてはいけないので、普段通り上品に振る舞う。おとなしい見た目が幸いし、誰も私がここを去るなんて、考えてもいないようだ。私はみんなの嫌がる庭掃除を進んで引き受け、逃走ルートを確認する。


「お昼時、お腹が痛くなったことにして抜け出せば……」


 作戦決行!

 食堂から一旦自分の部屋に戻った私は『今までお世話になり、ありがとうございました。でも、探さないで下さい』とのメモを残し、用意していた布袋を抱えた。そのまま庭の、あまり人が来ない箇所を通って塀まで移動する。

 コートに付いたフードを目深(まぶか)に被り、髪の色がわからないようにした。下には修道服でなく、ここに入った時の服を着ている。サイズがきつく、特に胸がパッツンパッツンで苦しいものの、気にしてはいけない。誰かに会って質問されたら「院長からお使いを頼まれた」とごまかそう。

 うちはゆる~い修道院なので、時々こうして外にも行くし、家族の要請があればすぐに出られる。私が良い例……いや、悪い例だ。

 

 今まで真面目だった私は、変な動きをしても誰にも疑われないらしい。

 特に知り合いに引き留められることもなく、壁に開いた穴からまんまと脱出を果たした。そのまま、さもお使いだという(てい)を装って歩き出す。




 修道院が見えなくなると、私は早速小道を駆け出した。日の出ているうちに森の小屋へ辿(たど)り着かなければ、どこかで見つかってしまうだろう。

 一瞬、村を目指そうかとも考えたが、親切な村人たちを巻き込むわけにはいかない。それに森より村の方が遠く、馬車ならまだしも徒歩だと明るい時間に着くことは不可能だ。


「それにしたって、どうしてこんなに体力無いのよ。シルヴィエラ……」


 あまり距離を稼がないうちに、息が切れてきた。それでも足を止めず、前に進む。

 ラノベの表紙にそっくりなシルヴィエラは、綺麗すぎて違和感がある。前世を思い出した私は、どこか他人のような気がするせいか、つい自分をシルヴィエラと呼んでしまうのだ。


 それなら気にせず、義兄に身体を差し出しても……という考えはもちろん却下で。感覚や痛覚は紛れもなく自分のものだし、十八年シルヴィエラとして生きてきた記憶もきちんとある。

 さらに日本人として過ごした日々も――最期の半年、私は病院のベッドの上で本を読みながら、ここを出たら恋をするぞと決めていた。たった一人の運命の相手に憧れていたのだ。そのため、どんなにつらくても治療に耐えていた。


 だから、自分は努力せずに男性の力でのし上がるヒロインの生き方には、大反対だ。


 以前の自分を思い出し、疲れた身体が余計にだるくなった気がする。

 もっと前向きなことを……そう、楽しいことを考えよう!


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