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駄作ラノベのヒロインに転生したようです  作者: きゃる
第一章 自虐ネタではありません
3/60

適当ヒロイン 2

 私の名前はシルヴィエラ=コルテーゼ。今は修道院にいるけれど、れっきとした男爵令嬢だ。

 月の光のような銀色の髪に、シアンブルーと評される明るい青の瞳、顔立ちは繊細でまつげは長く鼻筋も通り、唇はふっくら桜色。手足は長く身体つきは華奢(きゃしゃ)で、腰も折れそうな程に細い。その割に胸はしっかり育っていて、全体的に女性らしい丸みも帯びている。まあ、控えめに言ってもスタイル抜群(ばつぐん)だ。


 なんで自分を()めちぎるのかって?

 それはもちろん『聖女はロマンスがお好き』というラノベのせい。


 前世の私は高校三年生。

 突然の余命宣告に続き、病院のベッドの上でわずか十八年の生涯を終えた。

 闘病生活で唯一の楽しみは、痛みの少ない時間に開くラノベやコミック。両親や同級生がお勧めの本を持ってきてくれるから、読むものには困らない。

 

 それにしても、なぜこんなものを選んだんだ? 私。


 美麗な表紙に惹かれて手に取ったのが運の尽き。読み始めて後悔し、読み終わってもっと後悔した。まさか衝撃のあまり具合が悪くなり、翌日に寿命が尽きるなんて!


 ページをめくるのが恐ろしいほどの駄作でも、私は『読み終えるまでは死なない』と勝手に願掛けをしていた。だから途中でやめることなど考えつきもせず、しんどくなっても最後まで読んでしまったのだ。


「 なんじゃこりゃ?」


 だってこれは、本当にひどかった。

 気絶と嘘泣きが得意なヒロイン――男爵令嬢シルヴィエラが、義兄→幼なじみ→第二王子→第一王子と男性を次々取り替えのし上がり、最後に王太子妃となる話なのだ。


 ヒロインはボーッとしているため、「家にお金がない」と言った継母に騙され、修道院に入れられてしまう。何年か後、迎えにきた義兄に襲われて、彼から逃れるために幼なじみを利用。味をしめた彼女は王子に手を出し、最終的には婚約者のいる第一王子と結ばれる。

 おとなしいはずの主人公が男の人に()びまくるのはおかしいし、共感できる点は一つもなかった。その気になった男の人たちも可哀想だ。自分が通過点に過ぎないと知っていたら、いくら綺麗でも彼女には言い寄らなかっただろう。

 そもそも、そんな適当ヒロインを『聖女はロマンスがお好き』のひと言で片付けていいのかって話だし……


 すぐに調べたところ、ネットでもヒロインや作者きゃ○への評価は最悪だった。


『腹黒女、節操なし、まれに見る駄作、聖女というより性女』

『作者が酔っ払って書いた』

『編集部が全員インフルエンザで、気がついたら出版されていたらしい』


 ちなみにイラストはものすごく綺麗だったため、『担当した有名イラストレーターが気の毒だ』とSNSで同情を集めまくっていた。正直私もそう思う。


 私は余命を告げられても諦めず、治療の痛みに耐えていた。奇跡が起こって治るかもしれないと、どこかで期待していたのだ。それだけに貴重な時間を無駄にしたと知り、がっかりして翌日そのまま――




「こんな奇跡なら、要らなかったのに」


 今の私は主人公のイラストにそっくりで、修道院で聖女と呼ばれる状況も年齢も、ラノベの出だしと一緒だった。まさか自分が、駄作ラノベのヒロインに転生しているなんて!


「最後に読んだから? よりにもよって、なぜこれ?」


 世の中には素晴らしい作品がたくさんあるし、同じ作者でも別の話ならまだマシだ。

 ラノベのシルヴィエラはおとなしそうな外見に反し、男性を次々(とりこ)にしていく。継母と義妹に(うと)まれていた彼女は、流されるまますぐに異性の愛を受け入れるのだ。いくら純潔がそこまで重要視されない世界でも、程度ってものがある。同じ女性として、はっきり言ってどうかと思う。


「いやいやいや、無理だから。ヒロインなのにビッ……だらしがないってひどすぎる!」


 恋愛がまだだからこそ夢がある。

 白馬に乗った王子様……とまではいかないけれど、初めては好きな人に捧げたい。

 だいたい前世も今も年齢=彼氏なしの私が、男性を手玉に取れるわけがない……というより、取りたくもないんですけど!!


 これだけは言わせてほしい。

 作者は読み手のことを考えるべきだ。

 本を手にしてワクワクし、読み始めてドキドキする。特に恋愛物は展開を楽しみにしているからこそ、読者の期待も大きい。


 だから作者は、適当に話を書いてはいけない。せめてヒロインは、自分の考えを持つまともな性格にしようよ。独りよがりかもしれないけれど、私はそう思う。

 だって、その世界に生まれ変わる人が現れたら、どう責任を取るつもり?

 そこまで考え、青ざめた。


「私、これからどうしよう……」

 

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