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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第5.5章】シングル会議 編(SIDE 秋川賢人)

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体感時間が長いと思ったことはありませんか?

 


「おぉっ!! ジャパニーズドラゴンボーイではないか!」


 椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がったアメリカのNumber7グレイ・ローガンが、両手を大きく開きながら神竜也へと歩み寄っていく。


「ああ、グレイ」


 少し眠たそうな目をして返事をした神竜也は、そのハグを軽やかに避け、ポンッと優しくグレイの肩に手を置いたのだった。

 そして、そのままゆっくりとスクリーンのある壇上へと向かっていく。


 まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。

 絵に描いたように膝から崩れ落ち、大粒の涙を流し始めたグレイ。その巨体がさらに哀愁を醸し出している。


 視線を一身に集めた中、神竜也がマイクの前に立つ。

 しかし、その視線は先ほどまでの鋭い視線とは違って、一目置くような視線へと変わっていた。


 そう、これが世界からの評価。

 神竜也、という青年の何かがシングル冒険者を納得させているのだろう。

 同じ日本人として、誇らしいと思う。同時に、あのクソ蛍が何もしていないことに少し腹が立ってきたぞ。


「ここからは俺が仕切る。それで文句ないだろ?」


 これまた少しダルそうにマイクに手を掛けた神竜也が、開口一番にそう言ったのだった。


 フンと鼻を鳴らし肯定する者、目線で「いいだろう」と返事をする者、お茶を飲み続ける者、未だにハグを避けられたことにショックを受けその場で大粒の涙を流す者…………反応は様々だが、彼の登場で全員がようやく静まったのだ。


 俺は思わず安堵の溜息を心の中で吐いたのだった。

 もちろん現実で溜息なんて吐いたら、どんな視線を向けられることやら……考えたくもない。


 それにしても、本当に神竜也さんの発言力は凄いな。

 一瞬で静まり返ったよ。


 彼はつい最近までダンジョンに潜っていたらしく、政府からの要請を受け急いで地上に戻ってきている途中だ。と、事前に聞いていたけど、本当に間に合ってくれて良かった。


 そうして、完全に静まったことを確認した神竜也が再び口を開いた。


「ここに来るまでにおおよその話は聞いた。事前に『未来占い』で確認した各国の作戦計画書は作成済みであり、配布も完了している。そして、同意もすでに得ている。これで合ってるよな? アメリア」


「そうよ、さすがドラゴン」


 端っこの席で、何故かキラキラした瞳で神竜也を見つめるアメリア・ホワイトがそう言ったのだった。


 ああ、そういうことか……。

 神さんも隅に置けない人だな、こんなに可愛い人を惚れさせるなんて。

 確かに神竜也はイケメンとして、日本でも人気が高いし頷けるな。


 というか……。


 全ての国が彼女の計画について同意済みだったのか。

 それもこの短期間で、作成から同意まで終わっているとは……。


 彼女はまさにこの世界のブレーンって立ち位置なんだな。

 それにランキングも12位だし、それなりの武力も持ち合わせているのだろう。

 末恐ろしいを通り越して、将来が少し怖いと思ってしまう。


 彼女のタクト一つで、世界が進路を変える可能性だってあるってことだ。


「というか、この会議の場もどうせ無意味なんだろ? アメリア」


 突然、神竜也が本末転倒なことを言い出した。


 この会議が無駄?

 どういうことなんだ?


「ええ、そうよ。11位以上の未来は見えなくとも、私の見える未来の範囲から推測すれば誰をどこに配置すればいいかなんて、すぐに考えが付くわ」


 彼女がそう言うと、目の前の巨大スクリーンに一枚の地図が表示された。


 そこに映されたのは、正式呼称『D(ダンジョン)侵略防衛戦争』で第一戦場となり得る太平洋に面した各国を中心とした世界地図だった。

 それにざっくりとした敵の分布図も同時に記されている。

 中でも地図上で一際目立つように、赤く塗りつぶされている箇所が五つあった。


 ベトナム、オーストラリア、台湾、ロシア……そして、日本の一部地域。


 赤いマーカーは一体どんな意味があるのか。

 そう思ったのも束の間、答えはすぐにアメリア・ホワイトの口から告げられることとなった。


「赤く塗りつぶされた地域は、最も過酷な戦闘が予想される『A級指定戦域』よ。ちなみに命名は私、文句は認めないからね。ここにシングル冒険者を集中して配置するわ。内訳はこうよ」


 その言葉で、再びスクリーンの映像が切り替わる。


 内訳、要するにすでにシングル冒険者の配置は事前に決まっていたらしい。

 なんとも用意周到なことだ。


 ――――――――――



【ベトナム】

『ジェフリー・ヒル』カナダ、Number6

『ライアン・ウッド』ニュージーランド、Number11


【オーストラリア】

『アリア・キャンベル』アメリカ、Number2

『アメリア・ホワイト』オーストラリア、Number12


【台湾】

『ウォン・ユーシュエン』中国、Number4


【ロシア】

『キリル・イヴァノーヴィッチ・エゴロフ』ロシア、Number3

『シモン・デナイヤー』ベルギー、Number9


【日本】

『ローガン・グレイ』アメリカ、Number7

『ジュリオ・チスターナ』イタリア、Number10



 ――――――――――


 日本、その欄には俺にとってあまり嬉しくない名前が書かれていた。


 ジュリオ・チスターナ。


 日本に来る戦力としては非常に嬉しいことなんだけど、正直俺は関わりたいとは思わない。

 まず第一印象が最悪だ。

 それに……今まさに、睨むように俺のことを見ているしさ。

 別に俺は何もやっていないというのに、理不尽だ。


「おぉ! ニンジャに、ドラゴンボーイまで一緒じゃないか! よろしく頼むでござるよ!」


 後からそんな声が聞こえてきたと思えば、いつの間にか俺の真横にグレイがいたのだった。

 突然すぎて、思わず椅子から転げ落ちそうになってしまう。


 というか、語尾まで日本にカブレなくていいから……。


「お、驚かせないでくださいよ」


 本っっっ当に心臓に悪い。

 いつの間に移動してたんだか。それに足音一つ聞こえなかったよ。

 はぁ、シングル冒険者に関わると心臓がいくつあっても足りないわ。


「はははっ、すまんすまん! つい嬉しくてね! まだまだ僕は日本を堪能できるみたいだ!」


 バシバシと高らかに笑いながら背中を叩いてくるグレイ。

 悪気はないんだろうけど……普通に痛い。

 鈍器でも使ってるの!? って聞きたくなるくらいには痛い。


 改めて、蛍がいつもは力加減しているということが分かったよ。


「ちっ……日本かよ」


 ギラリと鋭い視線が俺の右肩辺りに突き刺さっているのが分かる。


 てか、なんでさっきから俺はこの人に的にされているのか……。

 俺は蛍でもないし、Number1でもない!


 どこにでもいるような、凡人だ!!


 と言い返したいが、さすがにシングル冒険者相手にそんな発言できるわけがない。


 気性の荒そうなジュリオならば、あとでぼこぼこにされるかもしれないんだからさ。

 あっ、ギリギリシングル冒険者ではないのか。


「あ゛!?」


 うっ……。

 心を読まれた!?

 エスパーなのか!?

 それともそういうスキルがあるのか!?


 俺はゆっくりと視線を逸らし、神竜也さんに助けを求めることにした。

 すると、無言で小さなグッドサインを向けてくれたのだ。


 イケメンだ……。

 これが日本で一番人気のあるダンジョン冒険者。親衛隊まであると聞く。もはや国民的アイドルの域に達しているとか、いないとか。


「異議のある人は?」


 少しガヤガヤと煩くなり始めていた会議室が、その一言でシンと静まり返る。


 この様子だと、どの国も事前に自分の国のシングル冒険者たちの配置を決められていたとは知らなかったのだろう。

 現にオーストラリア以外の国の首相たちは、さきほどまで慌ただしく隣の側近らしき人たちと会話をしていた。


 まあ、事前に連絡していたらこの会議に参加しなかった国も必ず出ていただろう。

 自分の国が保有するシングル冒険者を他国に貸したくない、そう思うのが普通だ。


 しかし、そこはさすが世界のブレーンというべきか。

 直接シングル冒険者たちを説得してしまえば、あとはどうにでもなると考えていそうだな。


 神竜也さんがぐるりと座っている各国のシングル冒険者たちに目配せをする。


 どうでもいいから進めろと視線を送る者、ウィンクで肯定する者、無言で頷く者…………様々ではあるが、ここにいるシングル冒険者6人と他三人の最高ランク冒険者たち全員が異議もなくこの配置を受け入れたのだった。


 先ほどまでの荒れに荒れた光景が頭にこびり付いているからだろうか。

 こんなにもすんなりと話し合いが進んで行ったことに、俺は素直に驚いていた。

 誰か一人くらいは、猛反発すると思っていたが……。


 どうやらブレーンであるアメリア・ホワイトという人の信頼は、思っている以上にシングル冒険者たちから厚いようだ。


「異議は……ないようだな。アメリア、作戦詳細はすでに配布できるのか?」


「もちろんよ」


 三回くらい連続でウィンクをしたアメリアさんが即行で肯定した。


「ということだ、後は各々の配置先の国と打ち合わせするといい。ここでシングルが全員集まっていても碌なことが起こらないだろう。俺は眠い、帰る」


 そう言うと、神竜也は欠伸をしながらゆっくりと壇上を降りて行った。

 なぜか後ろにはアメリア・ホワイトがついて行っているけど……結構オラオラ行くんだな。


 それからすぐに、この場は蜘蛛の子を散らすように解散となった。


 首相や大統領などのポストに就いている人たちは案内人が来るまでその場に大人しく残っていた。

 しかし、シングル冒険者たちだけはすぐにこの場を後にしたのだった。


 まあ、彼らがこの場にただ座って待っているとは思えないな。


 俺は普通に大人しく、周りを眺めて待っていた。

 もうシングル冒険者たちもいないので、視線を気にせずに周りを見渡せる。


 すると、案内人らしきスーツを着た男性が卜部首相にこそこそと何かを耳打ちし始めたのだ。


「秋川くん、行こうか」


 それを聞き終えた卜部首相は、すぐに立ち上がり俺たちに向かって真顔でそう伝えてきた。


「は、はい!」


 こうして、カオスに包まれたシングル・首脳会議は神竜也の仕切りによって、あっという間に終わったのだった。


 あとで聞いてみれば、会議の時間はほんの十分程度しか経ってはいなかったらしい。

 そう考えると、どれだけ自分があの時間を長く感じていたのかがよく分かる。


 というか、もうシングル冒険者とはあまり関わりたくはないよ。

 俺にどうにかできるような性格してないもん。

 蛍だけでお腹いっぱいだ。




 と思っていたが、現実はそう甘くはなかった。


 その十五分後、会場を変え再びシングル冒険者二人が俺の目の前に集まった。


 アメリカのNumber7、ローガン・グレイ。


 そして――。

 イタリアのNumber10、ジュリオ・チスターナ。


 この二人のシングル冒険者の配置は日本、その宮城県仙台市。

 要するに、これからが本当のシングル首脳緊急会議なのである。


 ……憂鬱だ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] こんな事を書くのも何なんですが、気になったから10位ってシングル? シングルって1桁って意味じゃないのかな?
[良い点] やはり舞台はというかエルフ末弟の狙いは太平洋の日本側でしょうか。 そうなると地球の反対側での修行は、其方からなるべく離れた位置というところにも意味はあったんでしょうかね
[気になる点] 蛍は参加しないのが前提で組まれてるのね
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