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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第5.5章】シングル会議 編(SIDE 秋川賢人)

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問題児たちが止まらないんですけど

 


 鋭い視線を一身に集めながら、日本の俺たち四人は指定された席へと向かう。

 今回の会議では円卓というよりも、大きなスクリーンを囲うように半弧型に机や椅子が設置されていた。そこをそれぞれの国で分けている感じだ。


 ひそひそと話し声が微かに聞こえてくる。

 もしかしたら俺がランキング1位と勘違いされているのかもしれない。

 事前に「Number1は来ないかもしれない」と各国に通知はしているらしい。

 しかし、卜部首相たちは「当日までは分からない」と、一応そういった体にしているらしい。まあ、そこら辺は日本の沽券とか色々ありそうだ。

 さすがにその辺りになってくると、俺ではよく分からない。


 政治ってのは面倒くさそうだなと俺は最近思っている。

 俺には絶対に無理である。

 蛍とゲームしたり、たまに仕事したりとか、そんな日々の方が性に合っている気がする。


 指定の席に到着した。


 日本の席はどこの国よりも中央の席、隣にはアメリカとロシアの席がある。

 それぞれの国では、前二席、後ろ二席で座れるように分かれている。

 俺と卜部首相が前に、小太郎と工藤さんが後ろの席にそれぞれ座った。シングル冒険者やその代理は前に座ったほうがいいらしい。

 てことで、俺は前に着席した。

 かなりふわふわな椅子だ、思わず腰を埋めたくなってしまうほどに。まあ、さすがにこの場ではしないけど。


 すると、一人の日本人男性が壇上のマイクの前に立った。


「本日はこのような機会を頂き感謝いたします。さて、早速ではありますが資料の通り――」


 そう話し始めたのは恐らく日本の外務大臣とかだと思う。

 結構な頻度でころころと替わるので、正直政治家の顔はあやふやな記憶しかない。


 ただ、すぐにその言葉は外部からの声で止まってしまう。


「んなことよりもよ、俺は1位が来るって聞いたからわざわざこんなちっぽけな島に来てやったんだよ。しかし、なんだよ……あんたが1位なわけねぇよな? あ゛?」


 ビクリと俺の背筋が凍る。

 その声の方向に向くことすら怖かったが、俺は気持ちを振り絞り振り向いた。


 声のした方向、そこは「イタリア」の席だった。


 イタリア、この国には世界ランク第10位の男がいる。

 あまりにも自分勝手で、傲慢な人だとは聞いていたけど……。

 やばっ、トイレ行きたくなってきたわ。


「あ゛!? なんか喋れよっ!!」


 その男――ジュリオ・チスターナ――は苛立ちを隠そうともせずに、机の上にガンッと踵を置き、足を組む。

 まさに傲慢、自分本位、やりたい放題。

 そんな言葉が似合う第一印象だった。


 ピシッと着こなされた紺の派手なスーツも、ギラギラに固められた無駄にかっこいい髪型も、正直全ての要素が怖い……というか、堅気じゃない人のようだ。

 一緒の空間にいるだけで、心が縮こまっていくのが分かる。


 そこでスーッと、卜部首相が無言で挙手をした。


 血の気が引いていた司会の日本人は、すぐにその行動に気が付き……。

 まさに藁にも縋るような思いだったのだろう、少しだけ顔が晴れる。


「に、日本、卜部首相発言をどうぞ」


 すぐに先を促した。


「事前の通達の通り、今回彼は参加できなくなりました。理由は連絡手段の消失と推測されます。ウルグアイにある海底ダンジョンに赴き、その後一切の連絡が――」


「あ゛? 国のトップだか何だか知らないが、あんた……俺様を舐めてるのか?」


 この会議室が一瞬、真冬の山頂のように感じた。

 それほどの「死」を感じる圧力と冷たく冷酷な視線がジュリオ・チスターナから日本に対して向けられたのだった。

 まじでちびりそうなほどビビっていた。

 今すぐ家に帰りたくなるほどの……てか、帰りたい。


 しかし、それも思わぬ方向から救われることになる。


「ジュリオ、好きよ」


 突然、彼の隣に座っていた女性がジュリオの頬にキスをして、そう言ったのだ。


「……ああ、俺もだよ、ベニアミーナ。世界中の誰よりも、君は輝いている。ああ、本当にいつ見ても綺麗だ。結婚しよう」


 先ほどまでのジュリオとはまるで違う姿がそこにはあったのだ。

 隣のベニアミーナと呼ばれた女性の肩に頭を乗せ、惚気たっぷりの甘々しい表情丸出しのジュリオ。端から見れば何とも情けないような姿である。


 なんだなんだよ。

 途端に別人過ぎないか?


 この会議室のほとんどの人間が動揺を隠せないでいた。

 もちろん俺もである。


「ごめんなさいね。この人、日本の1位と会えると思って凄く楽しみにしてたの。どんな凄いやつが来るんだろうってね。でも、私には逆らわないから、話を続けてくれるかしら? 日本の司会者さん?」


 俺と司会者に、つい見惚れてしまうほどのウィンクをしてきたベニアミーナさん。

 思わず、ドキッと心臓が高鳴った。

 ああ、思い出したこの人……世界でも超有名なモデルさんだよ。

 てか、ちゃんとイタリア人だなぁと不覚にも感心していた。


「は、はい、では再開させていただきます」


 明らかに頬を朱色に染めた司会者が進行を再開した。

 ジュリオはまだ彼女の肩の上でうっとりとした表情を浮かべている。


 てかさ、シングル冒険者たちの目がやばいんだけど。

 さっきからジュリオさんの方を見て「雑魚は引っ込んでろ」って視線を丸出しなんですけど。

 なにこのカオス空間、帰りたい……。

 ああ、クソ蛍め。帰ってきたら、色々言ってやりたいわ。


「では、資料に目を通していただけたことを前提として、早速彼女からのお話で始めさせていただきます。アメリア・ホワイトさん、壇上へどうぞお願いします」


 司会の言葉で、一番端の席に座っていたスラッとした可憐な美女が立ち上がった。

 俺はその髪、姿勢、立ち上がった所作、瞳、肌の色……どれもが美しいと思ってしまった。

 それに俺は初めてアルビノと呼ばれる遺伝子の疾患を持つ人間を見た。


 長くも真っすぐな白い髪、眉毛や睫毛まで全てが白く、皮膚も隣に座るロシア人以上に白く透き通っている。瞳は少し赤く、その全てに見惚れてしまう。


 その彼女がマイクの前に立つ。


「紹介にありました、アメリア・ホワイトです。まあ、みなさんは知っていると思いますが。あと、ジュリオ……キモいんで今すぐ死ね」


 ああ、何ということだろうか。

 開口一番に喧嘩を売るなんて……本当にこの空間から早く出たい気持ちで一杯だ。


「あ゛あ゛!? うっせー、白女、俺たちのロマンスを邪魔するな」


 ジュリオもジュリオだ。

 分かってはいたが、売り言葉に買い言葉。

 思った以上にシングル冒険者とはひねくれ者の集まりだ。いや、もう全員が「自分は主人公だ」と言い張るような雰囲気を醸し出している。

 全員主人公なんて……そんな物語あってたまるかよ。


 喧嘩をおっぱじめた二人の間にすぐ仲裁が入っていった。

 ジュリオにはベニアミーナさんが、アメリアにはオーストラリアの首相が。それぞれをなだめていく。

 静まったところを見計らって、再びアメリアさんがマイクに向かう。


「ゴ、ゴホンッ。失礼しました、無駄にキザに振る舞う男アレルギーなので、つい反射的に。さて、では――」


「おい、白女」


 その瞬間、ジュリオはアメリアの目の前にいた。

 本当に瞬きの刹那の出来事だった。


 俺には全く見えなかった。

 何をしたのかも、どうやって移動したのかも、何が何だか……。

 これがランキング10位の力か。やっぱり凄すぎる。


 二人はキスするほどの近さで睨み合っている。


 そこでアメリカの席に座る、グレイのため息がここまで聞こえてきた。

 グレイ、人格者で知られる人だ。

 それに今朝話した感じも、そこまで変人では……。


「サムライの国でなんという喧嘩をしているんだ。サムライの国なんだから、一対一で戦って決着を付ければいい。だろ? ジュリオにアメリア、それにニンジャボーイアキカワ」


 いや、何言ってんすか、グレイ。

 それは違うでしょ。もっと違う収め方があったでしょうが。

 俺は思わず頭をクシャクシャと掻いた。


 ……こんな空間、誰がどうやって収めるんだよ。


 そんな時だった。


「雑魚は黙ってろ、クソども。ここはシングルの集まりだ。10位と12位が出しゃばってんじゃねぇよ。すり潰すぞ?」


 またまた汚らしい言葉が入って来ましたよ。


 この言葉を発したのは隣の席に座るロシアのNumber3、キリル・イヴァノーヴィチ・エゴロフ。愛称、キーラと呼ばれる人だった。

 彼は元パン屋さんらしいのだが、その特殊な能力を得たことでこの位まで上り詰めたらしい。

 ありとあらゆる見たこともない道具や武器を使い、魔獣を蹂躙するらしい。

 よくネットで呼ばれる略称は『戦場のコック』、彼は気に入っていないらしいけど。


 もうここを収めるのはアメリカの2位、アリア・キャンベルしかいないと思い……視線を向けると。


「ズズズズズッ……これが日本のお茶ね」


 お前はンパか!

 つい、心の中で突っ込んでしまった俺であった。

 はあ、この人もこの人で我を突き通すタイプ、彼らの喧嘩に耳を貸している素振りすらない。

 お茶を飲み、茶器を眺め、お茶を飲み、茶器を眺め……の繰り返ししかしていない。


 はあ、誰か助けて……。


 そんな時だった。

 このカオス空間に神……いや、救世主が現れてくれたのだ。


 ガチャリ、と扉が開く音が聞こえてきた。

 全員が視線をその方向に向ける。


「緊急だと言われて急いで来たと思えば……なんだこの体たらくは、はぁ。シングルともあろう人たちがいがみ合ってどうするんだ」


 そこには「やれやれ」というように後頭部に手を当て、苦笑いをする神竜也の姿があったのだった。

 彼は『龍神竜也』として世界に知られており、最もシングル冒険者に近いと言われている逸材。そして、その優しい性格でシングル冒険者全員と仲がいいと言われているのである。


 まじでイケメン過ぎるよ。


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― 新着の感想 ―
[一言] キャーリューサーン さすが蛍くんの推しメンですわ
[良い点] タイトルからして草
[良い点] 参加者に優等生タイプがいなかった感じですが、危機感が足りないのかもしれず、シングルとはいえこのあといきなり減ったりしても驚かないぞ
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