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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第5章】海底ダンジョン攻略 編

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誰も加入したなんて言ってない!

 


 テント内で軽く汗を流し、俺はエナドリを一本キメた。


「ぷはぁっ!」


「ほたるんガンバだよ!」


 隣にいた健が俺の手から空き缶ごみを甲斐甲斐しく取り、ガッツポーズしながら激励してきた。

 まあ、ほどほどに頑張るさ。


 ただ……建御雷神様が言いかけた「彼女は……」という言葉が脳裏から離れてくれない。


「よし、うだうだ悩んでいても仕方ない。行ってくるわ」


「さっさと帰って来いよ! 二番弟子!」

「ファイト、ファイト!」


 俺は大きく息を吸い、ふぅーっと全ての空気を吐き出す。

 そして、もう一度吸い込んで――。


『超級魔法・竜田姫』


 例の如く、視界が徐々に霞んでいき、目の前にいた二人の姿が霧のように掻き消えていく。


 瞬きした刹那――。


「遊ぼっ!」

「遊ばない?」


 紅葉満ちた山の木々に、地面に引かれた枯れ葉の絨毯が視界を鮮やかに彩る中、目の前に佇む双子らしき少年少女。

 向かって右側にいたのは長髪の赤毛が特徴の少女、その瞳は褐色に輝いている。

 左側にいたのは、短髪の赤毛が特徴の少年、その瞳は黄色く輝いている。


 その二人が上にある俺を見上げ、瞳を輝かせながら両手を一杯に伸ばしていた。


 ……これが竜田姫?

 というか、双子っぽいけど。姫っぽさがこれっぽっちもない。

 あっ、分かったぞ。俺は分かってしまった。

 この子たちは竜田姫の子供に違いない、絶対にそうだ!


 俺はその場で屈み、双子の目を見て聞いた。


「竜田姫様はどこかな?」


 すると、双子は不思議そうに二人で首を傾げ、顔を見合わせ始めた。

 そこで少女の方が、先に口を開く。


「私、竜田姫!」

「僕も竜田姫!」


 続くように、少年の方も名前を名乗った。


「…………ん?」


 笑顔がこびりついたまま、俺は双子の頭を撫でようとした自分の手を制止させた。

 一瞬の思考停止の後、俺は少ない脳をフル稼働させた。


 調べた限り、日本に伝わる竜田姫の像は――美しく、染色と織物の才能に満ち溢れた神様――だったはずだ。

 しかし、今目の前にいる自分たちを竜田姫と名乗る少年少女はどうだ?


 確かにその姿は、美少年、美少女といって差し支えないだろう。

 しかし、十二にもいかないだろう若すぎる歳に、二人で竜田姫と名乗る始末。最後に神の名前に「姫」ってついてるのに、双子はおかしい。

 コンビで一柱の神を名乗ることはあるのか?


「蛍、遊ぼ?」

「遊ばない? 蛍」


 すると、その双子が俺の伸ばしかけていた手を握り、そう言ってきたのだ。


「遊ぶのが試練なのか?」


 グイグイと腕を引っ張り続ける双子を、俺は力づくで制止させた。


「試練?」

「何それ? 遊び?」


 ダメだ、話が通じない。

 責任者出せ。


「うーん……一緒に遊んだら、俺は秋風魔法の超級魔法を使えるようになるのか?」


 かみ砕いて説明してみた。

 すると、何かが分かったのか、少女の方がハッとした様子で手をポンと叩いた。


「なるよ! 遊んでくれたら、紅葉烏が喜ぶの!」


 どうやら何となくだが双子は知っているようだ。


 それにしても……遊ぶだけの試練??

 最高じゃんか。

 他の神様もこれを見習ってほしかったよ、全く。


「よーし、遊ぶか!」


 俺はそう言って、双子の頭に手を置いた。

 双子はニッコリと嬉しさを前面に押し出して、


「やったぁ!」

「早く、行こ! 遊ぼ!」


 二人して俺の両手を引っ張り、紅葉した地面を無邪気に走り始めたのだった。


 はははっ…………なんてスピードで走りやがるんだ全く。

 これだから神の試練ってのは、理不尽だ。


「アベバビブベバガギブボバグガゲガバブッ!!」


 まさに平行スカイダイビング。

 体中にのしかかる風圧が、俺の瞳や口を強制的に開き、ブルブルと振るわせてくる。

 視界なんて、赤と黄色の絵の具を紙に乗せて筆で伸ばした、みたいな風景しか見えない。


 ああ、この双子は間違いなく……。


 二人で「竜田姫」だ。




 ******************************




 二人の無邪気な駆けっこに振り回されて、どれだけの時間が経ったのかもう分からない。


 竜田姫の二人は、走り出したと思えば、急に立ち止まり「ここが秘密基地なの!」と言ったり、「ここはペットのモーリーが住んでる場所!」と言ったり、「この木がこの山で一番おっきいの」と言ったり、「ここから先は佐保姫様のお家なの!」と言ったり。

 と、まあ、双子の住む「竜田山」の案内をしてくれていたようだ。


 そこからは本格的な遊び、もとい試練の始まりだった。


 この竜田山全てを使った食料から何までを調達しながらのサバイバル系かくれんぼ、超次元パルクールという呼び名が相応しい鬼ごっこ、チェスという名の山を盤上とし、生きた魔獣を駒とした王取りゲーム、爆発する木の実を使った縦横無尽に駆け巡るボール遊び、エトセトラ、エトセトラ……。


 そうして、気が付いた時には……。




 俺は風の()を読み、空を()()()()()




「み~つけた!」


「くっそ、もう見つかったのか」


 魔獣の胃袋に隠れ潜んでいた俺が、双子の少女「ヒメ」に見つかった。ヒメは魔獣の腹を裂き、そこから俺を見つけ出したのだ。


 やるな、ヒメ。

 ここならバレないと思ったのに。


「よーし、それじゃあ次は俺が鬼だ!」


「うん、300秒数えてね!」


 笑顔のヒメがそう言って、目にも留まらぬ速さで駆けだした。

 俺はカウントを始める。


「い~ち、に~、さ~ん…………いや、ちょっと待て」


 そこで俺はふと我に返った。

 なに普通に遊びを楽しんでいるんだ俺は、バカか。

 少女を「ヒメ」と名付けたり、少年を「タツ」と名付けたり……普通に楽しんでどうする。俺はもう十八の大人だぞ、今更鬼ごっこに本気になってマジで何してるんだ……。


 いや、違う。


 この空間がそうさせているのか?

 俺は元からアクティブな遊びを好むような人間じゃない。小さい頃から走りはしていたが、基本遊ぶと言ったらゲームの人間だ。

 そんな俺がここまで外での遊びに熱中する方がおかしい。


「ふぅ……」


 俺はそこで目を瞑り、五感を研ぎ澄まし、マジックポイントの流れを沈め、風の色を感じる。


「やはりそうか、この空間は歪んでいる」


 俺の全てを使い感じた風の色。

 いつも見える色は「赤、黄、褐、緑、青、白」と、大まかにこの辺りの色だ。その中に、黒い風を見たことはなかった。


 しかし、俺がたった今感じたのは竜田山の頂上にあるひと際大きな木。そこから不気味な黒い風が流れたことだった。


「……これが本当の試練ってわけか」


 やはり神は鬼畜だ、と思いつつ俺の中では妙に納得がいっていた。

 建御雷神様が言いかけて言わなかった理由が何となく分かった気がする。

 ヒントを与えてしまえば試練にはならない、けど竜田姫の性格を理解して助言したい気持ちもあったのだろう。


 俺はすぐに駆けだした。

 双子との遊びなんて無視して、頂上へと一直線に走り出す。


 地面を踏みしめ、時に風を踏みしめながら、最短距離を掛けて行った。


 そして――。


「あ~あ、もう合格されちゃった」


 頂上にあるこの山で一番大きな木、その前に佇む一人の人物がいた。

 ヒメとタツよりも少しだけ大人びた姿をした、赤毛の少女。髪は肩のあたりで外に纏めて外に跳ねており、赤と橙色の羽衣を纏った双子よりも神らしい格好をしている。

 紅葉色の衣服を身に纏う天女、この形容がしっくりくるような麗しい女性だった。


 俺はある程度距離を置いた場所に着地し、ゆっくりとその女性へと歩み寄っていく。


「全く、最悪な試練ですね。洗脳の類ですか?」


「洗脳なんてそんなことしませんよ。私は風を操っただけです」


「風だけでこんな芸当を?」


「蛍にも見えているでしょう。風には色がある。そして、色によって性質が異なります。あくまでそれを上手く合わせているだけです」


「……まあ、信じておくよ。それであなたが本物の竜田姫様?」


「私が年長であることは確かですが、二人の言った通り、あの双子も竜田姫です。一柱に対して、一人とは限らないのです」


 本当にややこしい。

 一柱と数えるのに、複数で一つの神なんて。

 ただ目の前にいる竜田姫が全てを知っているのは確かだろう、彼女はさっき言った、


「俺は合格でいいんだよな?」


「ええ、合格です。この時をもって、超級魔法を解禁しました、いつでも使用可能状態にありますよ」


「そっか、ありがとう。でも、あれだな。今までの試練で一番良心的に感じるのは、気のせいだろうか。俺の感覚が麻痺しているのか?」


 ジッと。

 そんな目線が突き刺さってきた。


「ミタマ様や建御雷神様と比べないでください……私だって頑張ってるもん」


 なぜか目の前の彼女が拗ね始めた。

 何かまずいことでも言っただろうか?

 俺的にはむしろ誉め言葉だったんだけど。


 そして、唐突に竜田姫が腕を横に振った。


「合格おめでとうございます、これ以上話していると心が抉られそうなので、颯爽と元の場所に返してあげましょう。それでは紅葉烏のことをよろしくお願いしますね?」


 その声が聞こえると、俺の視界がまた霞んでいく。

 おい、随分と唐突だな、もう少しくらい話して色々情報を得たかったのに。


「あっ、蛍、もう行っちゃうんだっペか!? またそっちで会おうだっぺ! しまったんだな、少し出遅れたっぺ」


 薄っすらとカカトの懐かしい声が聞こえた。

 だけど、もう視界はホワイトアウトしているため何も見えない。


「あー! バイバイ、蛍!」

「また遊ぼ!」


 続いて微かに双子のヒメとタツの声が聞こえてきた。

 せめてお別れの挨拶くらいしておきたかったな。一方的に遊びを放棄して、っていうのは少しだけモヤモヤする。


 というか「そっちで会おう」?

 どういうことだよ、カカト!!


 そう聞き返したかったが、その時すでに俺の視界はダンジョンへと戻っていたのだった。

 そこには二人で対面訓練を行ている、カルナダ姉さんと健の姿……。


「って、おい。なんだよその服装は!!」


 健へと歩いて距離を詰め、健の纏う見知らぬ服に手を掛けた。


「あっ、おかえり、ほたるん!」


「おう、帰ったか二番弟子!」


 何もなかったかのように、出迎えてくれる二人。

 しかし、俺は今そんな場合じゃないんだ。


「健、なんだよこの服は、カルナダ姉さんにでも作ってもらったのか?」


「違うよ? 新しい装備だよ!」


 ……。

 …………。


 さらに詰め寄るように、健を睨みつける。


「防御力は??」


「…………そりゃあ、防具だからねぇ。あるよ」


 この時、健という裏切り者は俺との「紙装甲同盟」を抜けたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 健は本当に姐さんに目をかけられて贔屓されてされますね。 遂にたもともわかった? 蛍はサリエル師匠がいると考えれば当然とは言え、ふとそうなるとエルフ4兄妹にそれぞれ直弟子が? 動けないという…
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