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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第5章】海底ダンジョン攻略 編

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餡子の甘さと苺の酸味

 


「あっ! 賢人さん、おかえりなさいです!!」


「お前が賢人か……邪魔している。改めて自己紹介させてもらおう」


 ンパはいちご大福片手に賢人にパァッとした顔を向け、ディールは湯飲みを机に置き、炬燵から這い出るように立ち上がった。


「俺の名は……」


 そう言いかけたところで、俺は慌ててディールの口を無理矢理、塞ぎに掛かった。


「それ以上喋るな!」


「ふがふがふが!!」


「帰って来て早々、忙しないですねぇ……ズズズズズッ」


 ディールは突然の行動に目を見開き、何かを言っているが全然分からない。

 ンパはそんな俺たちを尻目に、緑茶を啜っていた。


 しかし、まあ……。

 間の悪いことに玄関の方から靴を脱ぎ、こちらに向かってくる上品な足音が聞こえてくる。

 いや、……俺にも大いに非があるわけなんだが。


 これはどうしたものか。


「なるほど、先客がいらっしゃったのですか…………外人さんですか?」


 その白石さんの言葉に、俺の体からは冷や汗が止まらなくなった。

 ンパとディールもまるで氷漬けにされたかのように、ぎこちない動きになった。


「う、うん! そうなんだよ、こいつら昔からの友達でな」


「おや? 雨川くんは昔、不登校生だと聞いていますが?」


 ……妙に詳しいな。


「まあ、そうなんだけど腐れ縁ってやつだな」


「そうなんですか……まあ、いいでしょう」


 含みを持たせたような、そんな言葉遣いで白石さんは納得してくれた。

 いや、たぶん納得はしていなと思うが。


「ちょっと、こいつと二人で話あるから白石さんはそこに座ってて……ンパ、お茶出しといて」


「了解です!」


 ピシッと誰かの真似をするような仕草をした後、ンパはすぐに白石さんの対応を代わってくれた。白石さんも思ったより素直に聞いてくれて、徐にソファへと腰を下ろした。


 俺はディールの腕を力いっぱい引っ張るように一度家を出て、地下にある先輩の理想郷へと向かった。

 扉を開け中に入ると、そこには火花を散らしながら何かを溶接する先輩のツナギ姿があった。


 近くによると、俺たちの影に気が付いたのかすぐに電源を切り、溶接面を上へと上げて素顔を見せてくれた。そこには適度に汗を掻き、妙に色っぽく俺を見上げる先輩の綺麗な顔があった。


「あら、どうしたの? アッキー」


 先輩はそう促しながらすぐに立ち上がり、近くにあるソファへと体を伸ばしながら座り始めた。


「……なぜディールがここに? 連絡手段を持っているのは、俺と先輩だけですよね?」


 俺は先輩の後について行くように、そう聞いた。


「ああ、そのことね。とりあえず、そこに座って」


「はい」


 意外にも大人しいディールを引き連れ、俺は先輩の座る向かいのソファに座った。

 ローテーブルを挟んで、俺、先輩、ディールが向かい合う形に納まった。


「それで、どんな理由で呼んだんですか?」


 俺の疑うような目線が気にくわないのか、先輩は不満そうな顔を浮かべた。


「私は呼んでないわよ、来たいと言ってきたのはディールの方だもの」


 先輩の言葉でようやく気が付いたのか、ディールがその場で立ち上がり、俺に向かって頭を下げてきた。


「タイミングが悪かったか、すまない」


 その言葉に俺は慌てて、ディールの顔を上げさせた。


「いや、いいんだ。タイミング悪くしたのは俺のせいでもある、謝らないでほしい」


「そう言って貰えると助かるよ」


 ディールは少しばかりのイケメンスマイルを浮かべ、再びソファに腰を掛けた。

 蛍からは、復讐に燃えていた中二病男、と聞いていたが、どうやらあいつの言葉はあまり信じない方がいいらしい。適当にもほどがある。

 礼儀をしっかりと重んじれるいいやつじゃないか。


「そういえば、異世界にも頭を下げる文化はあるのか?」


 俺はふと思った疑問を素直にぶつけてみた。


「いや、ない。だが、ンパに以前教えてもらった。彼女は数少ない同郷として頼りになる存在だった、そんな彼女を匿っている賢人と蛍には頭も上がらないところだ、本当に感謝している」


「まあ、それはあいつに直接言ってやってくれ、基本俺は受け取り係だ。それで……何の用事だったんだ?」


「蛍と賢人、それに雪葉に直接伝えたいことがあって来たのだが……どうやら、ンパから話を聞くには蛍とは現在連絡がとれないようだな。俺の方でも連絡がつかなかったので、もしかしてとは思っていたが。少し困ったな」


 真剣な顔で言ってくるディールに、俺は少しばかりの悪い予感がした。

 結構、俺の直感はバカに出来ない。


「まあ、いないやつを待っていても意味がない。俺たちだけにでも話せる内容なのか?」


 ディールは少し考えるように俯いた。

 そして、すぐに顔を上げ、徐に口を開き始めた。


「ああ、聞いて欲しい。今、世界中で起こり始めているダンジョンの一斉移動についてだ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は悪い予感が当たったと確信したのだった。




 *****************************




「ンパ、ちょっと悪いが白石さんに緊急の用件が入って相手にできそうにないと言っておいてくれ。俺、白石さんの番号知らないんだ」


『分かったです!』


 俺は電話越しに、ンパへと伝言を頼んだ。

 そして、改めて先輩とディールの三人で机を囲み、話を聞くことにした。


「すまん、待たせた。話してくれ」


 俺が催促すると、ディールは一口だけ先輩の出したコーヒーを飲み、口を開いた。

 少し苦そうな表情を浮かべていた。


「今回のムーブダンジョンの一斉方向転換には…………『原始の十二王(オリジン)』が関わっている」


 そこからディールは淡々と、驚愕の内容を話していく。






 ――異世界での話。


 ダンジョンができるよりも少し前、人類は魔獣という存在に対して優位に立っていた。多少、腕に覚えのある村人でさえも魔獣を殺せる平和の時代だった。スキルや魔法が文化的にも普及し、魔獣に怯えることのない世界。


 ただ、一つ。


 その時代から存在した、最古の十二体の魔獣『原始の十二王(オリジン)』だけは平和に住まう人々を怯えさせていた。

 それらは目にした人間を蹂躙し、村を焼き払い、都市を滅ぼした。まさにそれは平和の世界に存在したたった一つの厄災そのものだった。


 その厄災たちがさらにその世界に厄災を作り出した。


 それが『ダンジョン』。

 彼らの力の一部を分け与えられた凶悪な魔獣を生み続ける最悪な魔獣生産の城。そして、ダンジョンは瞬く間に数を増やし、人類は圧倒的優位を失った。






 ――この地球での話。


 ディール曰く、この大規模侵攻にはその『原始の十二王(オリジン)』の一体が関わっている可能性が高いらしい。

 その理由は簡単だった。

 複数のダンジョンの支配権を所持できるのは、その十二体だけだから。






 そこでディールは喉が渇いたのか、再びコーヒーを飲んだ。


「だが、『原始の十二王(オリジン)』というのは……今となってはもう正しくない表現だ」


「どういうこと?」


 興味を存分に惹かれた先輩が、急かすように続きを促した。


「その一体はすでに俺と蛍、そしてンパの手によって葬られた」


 その返答に、俺と先輩は思わず驚きの目を見合わせた。


 ディール、蛍、ンパ。

 この三人が共闘したという話は、俺の中ではとある一件しか思い浮かばなかった。


「憤怒のタルタロス、か」


 北海道奪還作戦、その日高山脈から留萌に向かう道中で蛍たち三人はそれを倒したと、ンパと蛍の口から話を聞いた。

 実際に俺が見て、感じたわけではないが……蛍からは「一番強かったかも」と聞いたことがあった。


「ああ、そうだ。アロスは俺の復讐すべき相手でもあり、我らの世界にとっての天敵でもあったんだ。だが、一つだけ明言できることもある」


「明言?」


「アロスは『原始の十二王(オリジン)』の中でも、比較的穏やかな性格を持つ魔獣だということだ。これは俺が調べ上げた文献で証明されている」


「なるほどな……で、今回の大規模侵攻の糸を引いているやつがアロスだっけ? タルタロスだっけか? そいつよりも強い可能性がある。だから、ディールは蛍の力を求めてここに来たってわけか」


「ああ、そうだ。話が早くて助かる、まず俺一人では無理だ。ンパのあの特大火力があれば……ゼロパーセントとは一概には言えないが、可能性はあるだろう」


「分かった……と言いたいところではあるんだが、無理な物は無理そうだな。今から蛍の潜ったダンジョンに向かったとしても、到底あいつの攻略速度に追いつけるとも思えん」


「そうだな、俺もそれは同意だ。あれは……()()()にも負けず劣らずの化け物だろう」


「シロア?」


 俺がやまびこした問いに、ディールは「そういえば」と何かに気が付いたように続きを話し始めた。


「これはあくまで噂にもなっていない……だけど、俺たちの世界では子供の時に当たり前のように夜話として聞く、物語なんだ。あくまで全てを真実とは思わないでくれ」


「お、おう」


「この世界には『エルフ』という人種に関する単語が存在すると聞く。俺たちの世界にも『エルフ』という単語は存在するんだが、あくまで存在するだけ。実際に存在したか、否かは、誰も知らない」


 そのディールの言葉に、俺はその意味を噛み砕けないでいた。

 理由は、蛍だ。

 あいつは俺や先輩のように近しい人にだけ「エルフのサリエス師匠に色々教えてもらったんだ」と言っていた。特に精霊についての修行を付けてもらったり、毎日楽しく過ごしていたことを、今でも楽し気に話す。

 だからなのか、ディールのその言葉が不思議で仕方なかったのだ。


「蛍はエルフのサリエス師匠っていう人に師事したと、俺は聞いているが?」


「ああ、俺も最初は耳を疑った話だった。でも、俺自身も蛍からその話を少しだけ聞き、この夜話というのは案外、嘘ばかりでないのかもしれないと最近思い始めている」


「そうか……話を遮ってすまない。続けてくれ」


 一つ呼吸を置き、再びディールが話を続けた。


「その夜話には、歳の近しい四人のエルフが登場する。長男の『アマド』、長女の『カルナダ』、次男の『サリエス』、そして……三男であり末っ子の『シロア』」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話による読者への情報開示が、途中で思わず遮っちゃったり、言ってる当人もあやふやなのが分かったり、で非常にらしかったです。 こう言ってはなんですが、始まりの頃より更に良くなっているなと
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