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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第5章】海底ダンジョン攻略 編

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動き出す人々

 


 翌日、俺はサリエス師匠の姉というカルナダ姉さんと向かい合っていた。


「……出せ」


「だ、だから何を……カルナダ姉さん……」


「そして、脱げ」


「だ、だから……」


「全てをさらけ出せ」


「……わ、分かったから、その目を俺に向けないでくれ!」


 生気のない目で近寄ってくるカルナダ姉さんを俺は手で制しする。

 そして、身に纏っていた防具精霊三体に、魔神獣のトュルーイエティを半ば力づくで外された。


「クウ?」

「ポン?」

「ッ?」

「グゥ?」


 みんなどうしたのかというような目を向けてきた。

 てか、ウググデカいな。

 そう思っていると、精霊三体はウググの体に上り、遊び始めたのだった。


「うわぁ……ほたるん何それ……。何で無手から謎生物が四体も出てきてるのさ」

 と、健の声が聞こえてきた。


「まだだ」

 しかし、カルナダ姉さんの要求は止まらなかった。


「えっ、それは……」


「内に秘めるもの全てを出せ」


「……はい」


 遠くにいる健から哀れな人を見るような目を向けられている気がする。


 俺はカルナダ姉さんの凄みに負け、アイテムボックスを操作する。そして、正真正銘俺の全てをこの場に出したのだった。

 ゴブリン肉、霜降り肉、宝石の数々に、魔法のテント……魔力電波変換機付きのスマホまで全てを。

 命懸けで集めたもの全てだ。


「よし、良いだろう。これは全て私が没収する、修行には不要の物だ」


「……う、嘘ですよね?」


「不要、だ」


「は、はい」


 どうやら俺はあの戦いの後、本能的にカルナダ姉さんのことを格上の生き物として逆らえなくなっていた。

 いや、獣人とかじゃないんだけどさ。本能が「逆らうな」って囁いて来るんだよね。

 まじカルナダ姉さん、怖い。


 そこで健が助け舟を出してくれた。


「あっ、姉さん! スマホは返してあげて! それがないと地上と連絡とれなくなっちゃうからさ!」


 バキッ。

 嫌な音がカルナダ姉さんの手元から聞こえてきた。


「甘えるな! こんなものは私には必要ない」


 ……十万円が一瞬で粉々ですか。

 スマホって結構高いんだよ、姉さん。

 それに少し論点がずれても気にしないのは……まあ、いいや。


「いいよ、健もありがと。それより修行って具体的には何をするの?」


 そう言うと、カルナダ姉さんは考えるように腕を組んだ。

 そして、今思いついたように顔を上げた。


「そうだな、まずはこのダンジョンを攻略しつつ、私が随時指導を入れてやる」


「……何で考えてなかったんですか?」


 いや、おかしくない?

 修行を付けてやるとか言ってノープランとか。

 サリエス師匠は最終階層で待っていて、計画的な修行を付けてくれたのに。


「いや……その……な。待ちきれなかったんだ」


 何故か少し顔を赤くするカルナダ姉さん。

 疑問符を頭上に浮かべている健。


 そして、何となく察してしまった俺。


「もしかしてカルナダ姉さんは本来、最終階層で待ち受けるラスボスだった……とかないよね?」


「そ、その……。これだから腹黒愚弟の弟子は勘が鋭くて嫌だ。そ、そうだよ! 私は最終階層のボスだよ!」


 何故かあっさりと白状してしまうカルナダ姉さんは、少し可愛かった。


 姉さんはあれだ。

 チョロい、な。

 黙っていればいいことをペラペラと話してしまう脳の無さ。

 たぶん剣を振ることしか頭にない、異世界テンプレ的な人物だ。


「さ、さあ、行くぞ! ここから私のターンだ」


 カルナダ姉さんの掛け声の下、俺たちの地獄の修行の日々が始まったのだった。


 ああ、俺と健は果たして生きて帰れるのだろうか。




 ******************************




 今日も俺はいつも通り学校帰りに蛍の家へと寄る。

 そして、蛍から預かったアイテムを売りさばく申請書を作成するのだった。


「アッキー、入るわよ」


 ガチャリと、先輩が俺の仕事部屋へと入ってきた。


「どうしました、先輩」


「ちょっとね」


「そうですか、とりあえず座ってください。コーヒーでいいですか?」


「ええ、いつものでお願いね」


「わかってますよ、コーヒーとミルク半々に砂糖三本ですよね」


 俺はそう言って、仕事部屋に常備しているコーヒーメーカーで先輩オリジナルブレンドのコーヒーを淹れる。

 そして、お互いが向き合うようにソファに座るのだった。


 先輩が綺麗な所作でカップに口を付けた。


 少しの静寂がこの部屋を包む。


「で、ちゃんとお風呂は入ってるんですか?」


「……三日に一回は」


「ちゃんと入ってください」


「……善処します」


 先輩は動作や所作は綺麗なのだが、自分に興味がないというか、身だしなみを気にしない。

 だけど、この事務所にいる以上ある程度は気にしてもらわないと困る。ここには高校生の俺が相手をするのがあり得ないほどの人たちが度々来るのだから。

 ダンジョン対策機関の局長やキャリアの方々、政界の人まで様々だ。

 だから、俺が適度に先輩をコーディネートしてあげないとならない。


「それよりも用件があったんじゃないですか? 先輩がここに来ることは珍しいですからね」


「ええ、そうだったわ。ほたるんのスマホから位置情報が途絶えたわ」


 コーヒーを飲もうとした俺の手が止まる。


 蛍には伝えていないが、こっそりとスマホに位置情報を常に発信するためのプログラムを先輩に仕込んでもらっていた。

 それが途絶えたということは……。


 俺はすぐにソファから立ち上がり、仕事机のパソコンに向かう。

 そして、ネットで「ランキング ライブ放送」と検索した。サイトの「ランキング十位以内」の項目をクリックする。


『第一位:日本』

『第二位:アメリカ』

『第三位:ロシア』

『第四位:中国』

『第五位:   』

『第六位:カナダ』

『第七位:アメリカ』

『第八位:   』

『第九位:ベルギー』

『第十位:イタリア』


 そこにはまだ蛍の順位が表示されていたのだった。


 ふう、良かった。

 どうやら機器の方の不調か破損のようだ。


 これは工藤上官に教えてもらった上位ランカーのみに使える生存確認方法。この第一位の項目から日本の文字が消えれば、蛍が死んだということになる。


「良かった、ほたるんはまだ生きてるのね」


 すると、すぐ背後からパソコンを覗き見していた先輩の声が聞こえた。


「本当に良かったです。それより何で自分で確認しなかったんですか? 地下の作業室にもネット環境は配備しましたよね?」


 しかし、先輩の表情は何故か思わしくなかった。


「その……つい……分解しちゃったの」


 これだ、先輩はこれがあるのだ。

 見たことない機械を見ると分解したくなるという性格。

 元々先輩の家はそこまで裕福じゃなかったため、昔はそこまでひどくなかったのだ。だが、ここにきてお金の心配がなくなった今、先輩の本能に歯止めを聞かせる抑止力がない。


 要するに先輩は暴走分解人間なのだ。


 俺があきれ果てていた、その時。


 ブルルル、ブルルル、ブルルル、ブルルル。


 スマホに着信が入った。

 すぐに相手を確認するが、蛍ではなかったようだ。


「はい、秋川です」


『もしもし局長の長瀬だが、今時間は大丈夫かな?』


「大丈夫ですよ」


『良かった、今から迎えを向かわせるので至急基地の方へと来て欲しい。できれば彼女、赤坂雪葉さんも一緒に同行願いたい。彼女の知識も借りたいと思っていてね』


「分かりました。それよりも緊急用件ですか?」


『ああ、そうなんだ。だけど、電話越しでは話せない内容であることを察して欲しい』


「了解です、今すぐ支度をしますね」


『頼んだよ。では、またあとで会おう』


 そうして焦り声の長瀬局長からの電話が切れた。

 俺は一息つき、カップに残っているコーヒーを飲み干す。


 よし。


「先輩、出かけますよ。なので、すぐにお風呂に入ってください」


「ええ~」


「蛍みたいなこと言わないでください。ほら、行きますよ」


 先輩の背中を力づくで押して言った。


「きゃあっ、変態ね」


 俺は頭を掻き、呆れるしかなかったのだった。


 そして、すぐに先輩を風呂に入れ、出かける準備を終えたのだった。




 *****************************




 長瀬局長に緊急で呼び出され、基地の会議室へと入る。


「よう、久しぶりだな、苦労人はんは!」


 入って早々、虎さんの大きな声が耳に入ってきた。


「久しぶりですが、苦労人は止めてくださいよ」


「ほんで、後ろの別嬪さんは?」


 すぐに話を変える虎さん。

 いつも通りだ。

 そして、その言葉を真に受けて背中を何度も嬉しそうに突っついてくる先輩。そこ敏感なんです、やめてください。


「うちのメカニックを担当してくれている、赤坂先輩です。元は俺たちと同じ中学校に通っていた友達ですよ」


「ほんまか! 羨ましいなぁ」


 そんな世間話をしながら、俺と先輩は案内された席へと着席した。


 緊急の呼び出しにも関わらず、ここにはかなりの有名ダンジョン冒険者が集められていた。

 タイガー事務所の永井虎さん、龍園事務所の鳴無慶、相羽事務所の相羽才、弟の方だ。それに一番仲良くしてもらっている新選事務所の飯尾綾人さん。

 これだけの人がこの時期に東京の街へと戻ってきていたのだろう。


 あと、知らない人たちも半分くらいいた。

 たぶん中堅どころと言われている人たちだ。緊張しているものや、まわりをキョロキョロと見まわしている人、それに肩を縮めている者などがいた。

 まあ、そういう言い分なら俺もここには似つかわしくない人ではある。


 それにしても、このメンツを集めて長瀬局長はなにを話すのだろうか。


 そう考えていた時だった。

 会議室の奥へと繋がる扉が開かれ、そこから長瀬局長を含めたダンジョン対策機関の重鎮たちがぞろぞろと出てきたのだった。


「忙しい中、緊急の招集に対応いただきありがとうございます。さて、早速ではありますが、みなさんは既に顔見知りだと思いますので、本題に入らせていただきます」


 俺は息を飲んだ。

 その隣の先輩は呑気に欠伸をしていた。昨夜は徹夜でもしていたのだろう。


「一先ず結論から。三週間後、大規模な魔獣軍勢の波が世界規模で起こるとアメリカの研究機関から予測結果が出ました。それに合わせて、世界規模の連合軍を組織することになりましたので、是非皆さんにもその連合軍に参加していただきたい」


 これまた、凄い事態になっているな。

 連合軍、か。


「その連合軍には各国の保有するシングル冒険者が参加します。そのため、私たち日本の誇るNumber1(ワン)、それにここにいる上位ランカーの方々への参加を要請致します!!」


 その言葉と同時に、この部屋の空気が一変した。


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― 新着の感想 ―
クズエルフ地雷系過ぎて無理 理不尽すぎる ゲームと小説は楽しみ方が根本的に違うのでゲーム脳のままだと辛いのですよ
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