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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第5章】海底ダンジョン攻略 編

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死と隣り合わせ【Side 新太健】

 


 ホー?

 僕は声のした方向に振り返る。


「魔獣!」


 すぐに背負っていた宝石和弓を構え、弓の弦を引く。


「ホー、ホー」


 そこにいたのは梟。

 地球にいる梟と何一つ変わらない外見。

 そして、僕が弓を構えても微動だにしないその梟。


 敵意がない?


 僕はゆっくり弦を引く手の力を抜き、異世界鑑定を掛けてみることにした。



【status】

 種族 ≫精霊・フクロウ

 レベル≫?????

 スキル≫?????

 魔法 ≫?????

 説明 ≫稀にしか姿を見せない存在。プレゼントをすると、気分次第で見返りが貰える、という話が有名だ。



 妙だ。

 他とはまるで違う、異質な鑑定結果。

 レベル、スキル、魔法の全てが鑑定できず、魔獣の鑑定では決して出ない説明欄の表示。


 それでも、僕は運が良いことに精霊を知っている。


 それは本当に偶然だった。

 とある日にほたるんの家に行ったときに、真白な狐が家の中をよちよちと歩いていた。

 誰もいない家の中を縦横無尽に歩きつつ、最後に行きついたのは冷蔵庫だった。

 中身をごそごそと確認していた狐は、冷凍庫からお餅に包まれたアイスを取り出し器用に食べ始めたのだ。


 これが精霊を初めて見たときのこと。

 それを賢人に話してみたところ。


 ――あちゃー、見ちゃったか。あれ、蛍の契約している防具精霊っていう精霊なんだよ。ほかには他言しないようにな? 恐らく超絶危険な情報だからな。


 それが今目の前にいる。

 誰かの物ではなく、野良の精霊が。


(プレゼントか、何をあげてみようかな。ほたるんも何かをあげて精霊と契約したのかな?)


 そんなことを考えながら、宝石和弓を地面に置き、腰のベルトを外してそれを地面にばら撒いた。


「精霊ちゃん! 好きなの持っていっていいよ!」


 僕は満面の笑みでフクロウに向かってそう言ってみた。


「ホー?」


「うん! 好きなのいいよ! でも、一つだけね」


「ホーッ!!」


 梟は嬉々の鳴き声を上げ、地面のポシェットの中から一粒の宝石をくちばしで器用に取り出した。

 そして、バサッと翼を広げて僕の腕に飛びついてきた。


「よし、よーし、おっここが好きなのか? いいぞー、何度でも撫でてやるぞー」


 梟の頭を優しく撫でていると、気持ちよさそうな顔をして頭を何度も擦り付けてくる梟。

 僕も気持ちよくなり、何度も何度も梟を触ってしまう。


 そうしていると。


「ホー……」


 梟が突然、光り輝き出し、その場から消えうせたのだった。

 すると、ちょうどその場に光る球体が残った。


 僕は何だろうと思い、それを触ってみると。


「あっ」


 僕の体の中にその光が吸い込まれていった。


 んー、何だったんだろう。

 失敗しちゃったのかな?

 説明欄にも「気分次第」って書いてあったし。


 あー、また会えないかな精霊ちゃん。


 そう考えながら、僕は地面に座り、武器の掃除を始めたのだった。




 ******************************




 翌日、僕は気合を入れ直し、一から頑張る気持ちでヒーリングルームを出た。

 今日は最初から弓を構えながら、ゆっくりと足を前へと進める。


 この階層、音が一切聞こえない。


 いつもは魔獣が近づけば、ほたるんが教えてくれていた。

 そのおかげで僕も魔獣の足音というのが薄っすらと分かり始めていた。


 だけど、今は何も聞こえない。


「緊張しているのかなぁ」


 そう思った時だった。

 道の先からついに魔獣が出現したのだった。


「これは……多い」


 そこにいたのは薄っすらと白いほぼ無色なクラゲ。

 その大群がゆっくりと押し寄せてきていたのだった。


 僕は宝石和弓に嵌っているルビーを外し、六番の薄い青色の宝石に変える。

 弓を前方に構え、弦を力強く引き、狙いを定める。


 そして、魔獣が鑑定範囲に入って来てから先に鑑定をする。



【status】

 種族 ≫遊楽海月

 レベル≫52

 スキル≫浮遊Lv.6

     毒針Lv.7

     物理無効Lv.10

 魔法 ≫水魔法Lv.6

     幻惑魔法Lv.6



 レベル52……行ける!


 その瞬間、僕は弓の弦を開放し、横殴りの雨の如く無数の矢をたったの一射で発生させた。

 遊楽海月は触手の中に隠されていた一本の毒針を伸ばすように僕に向けて勢いよく操作してくる。


 先に攻撃が届いたのは、僕の方だった。


 魔獣の大半はこの攻撃で消滅した。

 僕は力を抜くことなく、全力で再び弦を引き、開放した。


 次々に撃ち落とされていく、無音の海月たち。


 それから四回目で、魔獣の第一波は全て消滅したのだった。


「ふぅ、緊張したぁ」


 僕はいつも以上に力の入っていた弓を握る手を開く。

 そこには弓が滑ると感じるほどの大粒の手汗がじわりと流れていた。


 そこで改めて実感した。


 今までが恵まれ過ぎていたんだ、という事実を。

 一人で死へと赴く恐怖がここまでのものだとは思っていなかった。


 やはり、凄い。

 何の情報もない時期にダンジョンへと潜り続けたダンジョン冒険者の先駆者たちは。


 でも、僕はもうただ見ているだけの側じゃない。

 こっち……戦う側へと足を踏みいれたんだ。


 僕は手汗を拭きとり、再び弓を構えながら前へと足を進めていく。


 三十メートルほどだろうか。

 進んだ先には、先ほどと同じ海月の大群。


 ここで僕はダンジョンに潜る前にほたるんが言っていた言葉を思い出した。


 ――停滞するな。常に考え、自分のできる戦闘方法を考え、実践し、繰り返すんだ。そうしていかなきゃ、いずれ詰まる。


 そうだ。

 ただ一辺倒に六番の宝石を嵌めた矢を放つだけでは、ダメ。

 新しい戦闘方法を考えていかなくては。

 スタートが遅れた僕は誰よりも頑張らなくてはならないんだ。


 僕は弓に嵌っている六番の宝石を外し、最も威力の弱い一番の宝石をはめ込む。

 一番は、威力が最も弱く、属性付与もないただの矢を形成する。ただし、MP効率が最高率な宝石。


 これを嵌めた理由は……。


 僕はすぐに弦を引き、放った。


 先頭の遊楽海月に直撃。

 しかし、倒れる様子はなかった。


 そこから僕は動き、魔獣の攻撃を躱しながら、後ろに後退しつつ、矢を射続けた。


 10分。

 いや、30分くらいかかったかもしれない。


 僕はようやく第二波の魔獣の軍勢を撃破することに成功したのだった。


 いい練習になった。

 僕が今までで感じていた、弓を構え、放つまでの速度、魔獣を捉えるまでの速度の遅さ。

 当たるようになったのはいい。

 でも、その先を目指さなければならない。


 そこで僕はほたるんに貰っていたバックパックに入っているスポーツドリンクを取り出し、勢いよく飲み込んだ。


「あー、疲れる!! 辛い、しんどい、体力足りない……でも、楽しい!」


 僕の顔はいつの間にか苦痛の表情から笑みへと変わっていた。

 これがほたるんの言っていたこと。


 息を整えてから、再び僕は前へと進み始めた。




 ******************************



「やった! スキルだ!」


 僕は一人になったボス部屋で嬉しさを爆発させた。


 現在、第45階層。

 そこにいたクジラ型の巨大な魔獣を1時間以上もかけて倒せたところで、スキルスクロールのドロップを発見したのだった。


 僕は疲れた体の気にせずに、スキップしながらドロップ品を拾い上げ、早速鑑定を掛けてみた。



【result】

 名称 ≫指定スキルスクロール

 効果 ≫特定のスキルを習得することが可能。レア度はランダム。

 スキル≫不可視の双糸



 これは……やった!

 糸の操作系スキルだ!


 でも、僕でも聞いたことのない操作系のスキルだなぁ。

 まあ、操作系スキルに外れの前例は聞いたことがないから大丈夫だと思う。


 早速、スクロールを開き、スキル名を指でなぞると。


<アクティブスキル・不可視の双糸を獲得しました。レア度4、ゴールドスキル。おめでとうございます>



【skill】

 名称 ≫不可視の双糸

 レア度≫4 (ゴールドスキル)

 状態 ≫アクティブ

 効果 ≫操糸技術に大補正。MPを糸に供給することで、不可視の糸に性質変化させる。



 うん、予想通りだ!


 あーでも、僕に操糸の初歩を教えてくれた自衛隊員の黒田さんにはゴールドスキルの操糸系スキル手に入れたなんて言えないなぁ。

 黒田さんの操糸スキルはレア度3のシルバースキルだもんなぁ。


 よし、じゃあ僕もほたるんに習ってこのスキルの検証をしてみようかな。




 ******************************




 糸を操るのに必要なのは「ダンジョン産の糸」と「糸を思う気持ち」。

 黒田さんがそう言っていた。


 最初はあまり理解していなかったけど、今ならばその気持ちがよくわかる。


 第49階層のボス部屋。

 目の前にいるのは空を泳ぐ、鋭く長い角が生えた5頭のシャチ型魔獣。


(不可視の双糸ッ!!)


 僕は初めに一本の糸を操り、5体全ての急所に付着させた。


 不可視の双糸はその名の通り、二本のほぼ透明な糸を自由自在に操ることのできるスキル。

 目では捉えられないが、一部の敏感な感覚器官を持つ魔獣はこの糸の存在に気が付いてしまうようだ。


 だけど、攻撃までの一連の流れを一瞬で終わらせればそんなこと関係ないこと。


 その瞬間、この部屋に魔獣の甲高い雄叫びが上がる。


「キイィィィィッ!!」


 それと同時に、僕は一本の投擲ナイフを糸に沿わせて投げる。

 そして、すかさず弓を構える。


 目標ロック…………今ッ!!


 放った矢は黒と赤が混ざり合った色。

 それは魔獣ではなく、たったいま投げた自分のナイフに直撃し……それを加速させた。


「キイィィィ」


 ボスが魔法発動の準備を始めた。

 だが、遅い。


 僕の投げたナイフは、爆発の属性が付与されている。

 爆発属性の特性は「加速」と「威力増大」。


 それからは一瞬の出来事だった。


 爆破属性を帯びた僕のナイフは糸に従い、5頭全ての腹に大穴を開けたのだった。


 僕は最後に不可視の糸で投げたナイフを引き寄せ、自分のベルトに再び納めた。


「うん、この戦法はやっぱり対飛行魔獣に有効だね!」


 これに重要なのは全ての工程を冷静に行うこと。

 不可視の糸の操作、ナイフの投擲、矢を撃つの工程を流れるように。

 あとは各々の効果が僕を助けてくれる。


 不可視の糸は限りなく視認できない2つの糸の操作。


 ナイフは「リーフシャドウナイフ」を使えば、糸に元から設置しているマーキングを辿って追尾機能が付く。


 9番の宝石をセットした宝石和弓の放つ矢は、爆破属性の付与という効果。威力はないが、当てた物に対してバフを掛けることができる。


 そうして、僕はドロップ品を確認してから、第50階層へと降りる階段に足を踏み入れた。




 しかし、1時間後の僕はこのことを後悔することになる。




 *******************************




「はぁ、はぁ、はぁ、どうしてこんなことに……」


「甘かったな小僧。勝負ありだ」


 赤いフードを被った女性の逞しい声。

 それが僕には死神の囁きに聞こえた。


 僕の眼球には、彼女の剣が今にも突き刺されようとしている。


 やっぱりダンジョンって…………地球上で「死」が最も近い世界だよ。



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