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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第5章】海底ダンジョン攻略 編

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黄色く、か弱い鳥

 


「ギョルルルッ!!」


 ボスと健が同時に走り出す。


 健はすぐに、繭鳥の糸を巨大クラッカーのテープを放ったかの如く前方へと放つ。

 その糸は目に見えるほどに密集し、魔獣にも丸見えの攻撃。


 魔獣たちは糸を解こうとして、さらに複雑に絡まるという悪循環に陥っていた。

 どうやら健の放った糸は粘着性の高い種類らしい。


 そんな中、ボスの怪魚巨人は糸をものともせずに力づくで再び動き出した。


 健はそれでも焦らなかった。

 それが予想通りとでも言いたげな、得意げな顔をしている。


 怪魚巨人はその大きな体を揺らしながら、健のすぐ目の前まで迫り、両手を上に振りかぶった。


 健はこのタイミングを待っていたのか、一度後ろにバックステップ。

 その後、後ろに向かって全力で怪魚巨人から逃げるように走り始めたのだ。


 それを追いかける怪魚巨人。


 おい、こっち来るなよ。

 擦り付けとはやってくれるじゃん。


 と考えていた、その瞬間だった。


 後方で糸に絡まっていた取り巻き四体が何かに操られるように宙に浮いたのだ。

 そして、もの凄い形相で走り寄る怪魚巨人の背中にその取り巻きたちが体当たりしたのだった。


 怪魚巨人は前傾姿勢の状態。

 後ろからの力には逆らうことができずに、見事に健は五体纏めてその場に転ばせ、一塊に引き寄せたのだった。


 健はここだと言わんばかりに、腰にある投擲武器を連続でひたすらに投げ始めた。


 最初の四本のナイフ投擲で四体はすぐに消滅。

 ボスも頭部にナイフが三本刺さったところで、力なく倒れたのだった。


「やった! 勝てたよ、ほたるん!」


 健は子犬のように俺の元に駆け付け、嬉しそうな顔をしてきた。


 もうなんて言えばいいのだろうか……。


 こいつ俺より凄いんじゃないだろうか。

 全く苦戦する感じすらなかった。


 でも、今回はさっきみたいに何も分からないなんてことはなかった。

 後ろから健の一挙手一投足をずっと観察していた。

 だから、俺にも健の策略が手に取るようにわかった。


 原理はさっきと同じ、滑車を使用した作戦。


 最初に放った糸はただの目くらまし。

 と、思わせておいてこっそりと本命の糸も混ぜていた。


 それと同時に滑車ナイフを計五本天井に設置。

 本命の糸は二個の滑車ナイフを経由して、取り巻き四体の足に付着させる。


 滑車ナイフの配置は、健のすぐ真上に一つ。

 そこには目くらましと同時に放った本命の糸が四本通っていた。

 残り四つの滑車は魔獣側のすぐ上に四個配置。

 それぞれに一本ずつ本命の糸が通り、その滑車一つに付き魔獣一体を吊るし上げていたのだ。


 あとは簡単。


 健が後方に走ることで、取り巻き四体は糸によって空中へと吊るされる。

 そして、何かの仕掛けで魔獣側の四つの滑車が一気に解放され、健の頭上にあった滑車を支点に振り子の原理で、ボスの背中へ体当たり。


 まさに事前の準備と策略の勝利だった。

 こいつは最初からこれを考えていたのだろうか。


「うん、見てたよ。凄いな! それじゃあ、次行こう」


 俺は健の頭をわしゃわしゃしながら、早速ドロップ品の確認に向かう。


 そこには……。


「ほたるん、宝箱だよ」

「うん、宝箱だ」


 ダンジョンで出るのは極めて珍しい。出会う確率は宝くじを当てるほどの確率だ。とか言われている、宝箱があったのだった。


 幸先の良いなんてレベルじゃない。

 一年半もダンジョンに潜っていた俺ですら数回しか見たことのないもの。


 まあ、でも今回は……譲ろう。


「健、これはお前の物だ。売るなりなんなり、好きにするといいよ」


 その言葉に健は驚くような表情を向けてきた。


「いや、でも……。ここに来れたのもほたるんのおかげだし、ほたるんがいなかったら僕もこんなに気楽にここに来れなかったし……」


「何言ってるんだ。俺は人の物を自分の物と言い張るガキ大将にでも見えるのか?」


「ふふっ、いや。むしろそのクラスメイトF的な?」


 いや、そこはせめて主要人物であってくれよ。


 健はそんな冗談を交えつつ……冗談だよね?

 ということで、健は早速宝箱に手を掛けた。


 そこに入っていたものは。


「豪華だな……弓にスクロールか」


 そう謎の材質で出来た長弓に、能力を得るためのスキルスクロールだった。


 健は感動のあまりなのか…………完全に固まっていた。

 体も顔もピクリとも動かない。


 俺は早速、異世界鑑定に掛けてみることにした。



【result】

 名称:宝石和弓(わきゅう)

 説明:装着した宝石の種類、大きさによって矢の威力、性質が変化する弓。矢はMPにより、生成される。



【result】

 名称 ≫セレクトスキルスクロール・初級

 効果 ≫スクロールに記載されているスキルを一つ任意に選択して取得できる。

 一覧 ≫冷静・夜目・耐寒・カナリア



 どっちも俺にとっては魅力的に映らない。


 弓は……使い方知らん!

 スキルも「カナリア」以外興味がない。そのカナリアは全く効果の見当がつかない。

 カナリアは確か黄色い鳥、だったよな。


 さて、健はどんな選択をするのか楽しみだ。


「ほたるんならどのスキル選ぶ? 僕は冷静か夜目のスキルがいいと思うんだけど。冷静も夜目もどっちも良質なスキルとしての実績もあるし……」


 健は弓とスキルスクロールを大事そうに抱えながら、俺に聞いてきた。


 でも、その考え方はナンセンスだと思う。

 確かに冷静も夜目も自衛隊では重宝される、良質なスキルの一つだ。

 されど、四つ目の選択肢に面白そうなスキルがあるじゃないか。


「俺は専ら「何だろう、これ?」ってのを選んでる。その方がわくわくするし、面白い」


「何それ、ほたるんらしい。じゃあ、僕もこの「カナリア」ってのにしてみようかな、でも、本当に大丈夫かな?」


「大丈夫じゃないか? サリエス師匠も習得してはいけないスキルの話のときに、そのスキルのことは話していなかったしな」


「サリエス師匠?」


「ああ、それはまたいつか話すよ。それよりボスがリポップする前にスキルの習得と検証始めるぞ!」


「うん!」


 ということで、健は初めてのスキル「カナリア」を習得し、遠距離武器「宝石和弓」を入手したのだった。



 ******************************




 第五階層のボス部屋。


 健はあっさりと武器の投擲で取り巻きを殲滅、長弓を構える。

 矢のない弦を引き、ボスに向かって狙いを定める。


 弓にセットした宝石は赤く揺らめく大粒のルビー。

 俺がダンジョンのバーサークイノシシから入手した、レアドロップ品の一つ。


 そして、健が弓の弦から手を離した。


 その瞬間、突然そこには赤く光る炎の矢が出現し、ボスに向かって放たれた。


 炎の矢はボスの心臓を一撃で貫き、体の半分ほどを一瞬で消滅させたのだった。


 それを見た健はホッとするように、俺の方に向かってきた。


「ほたるん、勝ったよ!」


「うん、見てた。それよりもやっぱりルビーの矢が一番火力あるな。次点で七番の宝石、その次に三番の宝石ってところだな」


 健も俺の言葉に頷き、宝石和弓に嵌っているルビーに目をやるのだった。


 宝石和弓には宝石を嵌める場所があり、そこに嵌める種類と大きさによって矢の性質と威力が変わる。

 それに宝石は俺が大量に持っているため、枯渇の心配はいらない。

 とはいっても、俺達には残念ながら宝石の知識なんてない。

 ネットで調べたくらいでは、全然見分けがつかない。

 だから、分からない宝石は番号で呼ぶことにした。


 それにしても……サリエス師匠は、宝石武器を入手する未来を予想していたのだろうか。


 宝石系の武器は前に一度、自衛隊ダンジョン対策機関の麻生隊員が持っていたのである程度知っている。

 麻生隊員の武器は「宝石銃」、健の今回入手した弓の銃バージョンだ。


 でも、意外と健の宝石和弓は、麻生隊員の宝石銃とは攻撃の質が異なっていた。


 麻生隊員の「宝石銃」は、威力が弱く連射するタイプ。それでいて単体攻撃に秀でている。


 対して、健の「宝石和弓」は、連射もでき溜め技も使えるマルチなタイプ。それでいて、単体攻撃と範囲攻撃をどちらもこなせる、これまたマルチなタイプ。


 要するに、麻生隊員は特化型で、健は万能型ということである。


 そして、宝石による効果と名前が一致したのがこの四つだけ。


 ルビーは、火力特化で炎の属性が付く。


 サファイアは、威力は普通だがこの矢が刺さった魔獣は精神に異常をきたす水属性が付く。


 エメラルドは、貫通力が一番高く、木属性っぽいのが付く。


 ダイアモンドは、少し面白い。威力は普通だが、打った後に健自身の身体能力が向上するバフ能力を持つ矢であった。




 ということで、俺達は無事に目標である第5階層を突破し、第6階層へと降りるのだった。


 そこにはもちろん……。


「ほたるん、あったよ! ヒーリングルーム!」


 そう休憩室もとい、ヒーリングルームがあったのだった。

 休憩室とは俺が勝手に呼んでいただけで、世間での呼び名は専ら「ヒーリングルーム」だったのだ。


 まあ、そこは俺の師匠が作った部屋ですとも。師匠は「休憩室」と言っていましたよ。

 ……なんて言えないけどね。


 早速、俺達はそこに入る。

 中には見慣れた四角い部屋に三畳分の畳が敷かれているだけ。


「懐かしいなぁ」


 俺は一人でぽつりと呟いた。

 何もない無機質な壁も、この少し土臭い畳も、埃一つない綺麗な仕様も。

 全てが初めてのダンジョンを思い出す。


 これで一つは分かったこともある。


 サリエス師匠は一度ここに来ている。


 という、事実だ。

 ここが師匠の言っていた、裏側のダンジョンである可能性が少なからずある。


 まあ……それもここを攻略すればわかること。


 俺は早速、アイテムボックスから魔法のテントを取り出し、設置しようとする。

 ついでに健にも手伝ってもらおうと振り返って、俺は苦笑いするのだった。


「まあ、初めてだ。疲れたよな」


 畳の上には、すでに夢の中へと行ってしまった健の姿があった。

 俺は健に毛布をかけ、一人で準備をするのだった。


 ここまで約二日と半日。


 予定よりも半日オーバーしてしまったが、中々にいい滑り出しだろう。

 健は宝石和弓とスキルを入手してからは、全く苦戦することなく順調に進んでいる。


 あの頃の俺とほとんど同じ道を辿っている健は……いつか本当に強くなるのだろう。


 そんなことを考えながら、俺は一人で魔法のテントに設置されている風呂に入っていた。


 ちなみに健の初スキル「カナリア」の鑑定結果はこうだ。



【skill】

 名称 ≫カナリア

 レア度≫5 (プラチナスキル)

 状態 ≫パッシブ

 効果 ≫か弱い鳥が羽ばたくまで、私は見守り続ける。



 効果の説明、手を抜きすぎ。これでは何も分からない。

 それでも健が戦っていくうちに、俺は何となくスキルの効果に気が付いた。


 この「カナリア」のスキルには、俺の「早熟」と似たような効果があるのではないだろうか、と。


 少し違うのが、健は身体能力が異常な速さでは成長しない。

 弓や投擲の技術だけが異常な速さで成長していくのだ。


 弓なんて、手に取ってから三回目で的に命中させる成長ぶり。

 そこから外すのは十回に一回あるかないか程度。


 予想では、レベルやら身体能力的なのが上がる効果ではなく、所持する人の技術力をより早く成長させる類のスキルだと思っている。


 健の将来が、本当に楽しみで仕方ない。


 これはあれだ……。


 育成ゲームの楽しさに似ている楽しさがある。




 ******************************




 それからの健の成長は目を見張るものがあった。

 成長の方向は完全に後衛、遠距離攻撃に策略を組み合わせるタイプ。


 宝石和弓からは同時に五本の矢を放つことができるようになり、威力や性質、属性付与も意のままである。

 それに投擲術も日に日に上手くなっていき、糸使いとか投擲武器使いとか言われる日も近いのではないだろうか。


 複数属性の矢を扱い、威力性質もその都度変わる。そして、策略目まぐるしい糸と投擲武器を連投してくる。


 ……これだけ聞くだけでも厄介だ。


 こういう才能ある人が目の前で成長していく姿を見るのって、中々に楽しい。

 いや、本当に。

 後ろから気楽に見るだけってのも悪くないんだ。


 あっ、俺?


 俺はこの一週間で完全にセグウェイをマスターした。


 多少凸凹するこの洞窟でもスイスイと自由自在に動けるようになった。

 本当にこの乗り物を考えた人は天才だ。

 体重を少し前に掛けるだけで進んで行く。

 それにダンジョンに法律なんてない、どこで乗ろうと警察に注意されることはない。


「ねえ、ほたるん……」


「ん? なに?」


「いや……ダンジョンをセグウェイで移動する人なんて聞いたことないよ。たまにはほたるんが戦っても良いよ? 暇だからそれで遊んでるんでしょ? 僕が必死に戦っている後ろで。綾人さんも『ダンジョンは命を懸ける場所、決して遊び感覚では行くなよ』って言ってたよ」


「何を言ってるんだ。これも修行のうちの一つだぞ! 健は後ろに人がいる状況ってのを経験できる。それに俺は…………いつかセグウェイ限定ダンジョンとかあるかもしれないじゃないか!!」


 あれ?

 何か自分でも何言ってるのか訳分からなくなってきた。

 そんなダンジョンあるわけないよね。

 うん、分かってる。だから、健……そんな目で見ないでくれ。


 俺は無言で健の背中を押してあげる。


 ということで、ついに第20階層のボス戦。


 扉を開くと、その先に待っていたのは。



【status】

 種族 ≫海底スライム

 レベル≫32

 スキル≫流動Lv.5

     物理耐性Lv.max

 魔法 ≫水魔法Lv.3



 おお、多いな。

 そこには16階層から20階層までで戦ってきた、海底スライムの大群が待っていたのだった。

 これぞモンスターハウス。


「健、これは俺も加わるわ。時間かかりそうだしね。んじゃあ、おとり役は任せて~」


 ウィーン……。


 俺は全速力でセグウェイを走らせる。

 それを追ってくるように、海底スライムたちが俺の後ろにわんさかと集まってくる。


 しかし、セグウェイの速度ではどうやら海底スライムに追いつかれてしまうらしい。

 速度が足りない……。


 はっはっはっ、このセグウェイ……ただのセグウェイなわけなかろう!


「爆速ターボッ!」


 スイッチを押すと……。


 ドドドドドドドドドドドッ。


 エンジンの音が変わった。

 これは先輩の魔改造が加わった、雪葉セグウェイver.11なのだ。


 そうして、俺は海底スライムたちがギリギリ届きそうで届かない速度を保ちながら、おとり役を継続した。


 その間、健は宝石和弓と投擲を連続で絶え間なく続け、十分ほどでここにいた海底スライムを全て倒したのだった。


 ……

 …………


「な? 役に立ったろ?」


「…………うん」


 どこか腑に落ちないと言った顔の子犬が目の前にいたのだった。




 それから怪我一つしない順調な攻略で11階層進み、現在第31階層に到着した。


 ここで健に初めての壁が立ちはだかる。

 俺も一度通った道、自分の能力に耐性を持つ魔獣の出現だった。


 さあ、健はどうやって乗り越えていくのかな?


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