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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第5章】海底ダンジョン攻略 編

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投擲戦法の継承者



「健、準備はいいか?」


「うん、大丈夫! むしろワクワクしてるよ!」


 俺と健は濡れた体を乾かしてから装備を整え、入念な準備運動を終えたところだった。


 俺はいつも通り、クウとぽんの防具姿にアイの指輪、体温調整機能付き外套に靴には天足の装備。いつまで経っても変わらない紙装甲の装備だった。

 もはや装備というよりも……オプションの数々だ。


 対して健の装備はスポーツショップで買った長袖の黒インナーを上下に纏い、その上から黄色の半袖短パンのスポーツ服を着ている。

 今からランニングでもするのかな、という軽快な服装である。

 そして、リーフシャドウナイフやあらゆる投擲武器に繭鳥の糸がセットしてある腰のベルト。


 健は紙装甲仲間だ。

 理由は、変に重い装備よりも身軽な装備が好きで、この格好になったのだとか。

 というか、装備自体そこまで市場に出回っていないため、大抵の新人ダンジョン冒険者は動きやすい格好でダンジョンに潜るのだとか。そうして、中堅や上位ランカーになると大抵は守備力のある装備を保持しているらしい。


 ……俺の装備の防御力はどうやら新人ダンジョン冒険者とそう変わらないらしい。

 なんて虚しい事実なんだ。


 と、まあそんなことはさておき。


「それじゃあ、俺は当分見てるだけ。危ないと思ったら手を貸すけど、それまでは一人で頑張ってみて。……って、お手本とか見たい? いきなりだと流石に投げやりかな?」


「お願いしていい?」


「それじゃあ、最初はお手本見せるから後ろで見てて」


「うん!」


 健はここ数週間はみっちりと俺や色々な人から稽古を受けているから問題ないとは思っている。

 けど、練習と本番は思ったよりも違うもの。

 俺が後ろにいるから安心しろ、というメッセージも込めて最初は俺がお手本を見せる。


 そうして、進むこと五十メートルほど。


「ギョギョイッ!!」

「ギョギョギョイッ!!」

「ギョイーッ!!」


 三体の魔獣が現れた。

 早速、俺は異世界鑑定を魔獣に向かって掛ける。



【status】

 種族 ≫怪魚人・エリート

 レベル≫6

 スキル≫A≫――

     P≫身体強化・水中Lv.3

 魔法 ≫――



 うん、まあこれぞ正しく序盤の魔獣って感じだよね。

 分ってた。

 やっぱり健を連れてきて正解だった。こんな魔獣をちまちまと倒していく方が面倒くさそうだ。

 それに……健は俺を変な目で見ない話しやすい奴だから、それもあるかもな。


「健、ナイフ三本貸して!」

「これでいい?」


 健はそう言って、リーフシャドウナイフを三本渡してきた。


「別に何の武器でもいいよ。じゃあ、見ててよ」

「うん!」


 俺は繭鳥の糸を使わずに、三本のナイフを連続で投擲する。

 それは怪人魚に吸い込まれていくように脳天を貫き、三体に一本ずつ突き刺さったのであった。


「よっと、こんな感じね。あれぐらい動きが単調な魔獣で距離が近いなら繭鳥の糸の補助効果なしで倒せるようになれれば上出来じゃないかな? それに貫通できるほどに筋力が付けばなおよし。これ目指してとりあえず頑張ってみ……って、どうしたそんな顔して?」


「えー…………」


「何?」


「それはないよ、ほたるん……。速すぎて何も見えなかったよ。ビュンッ、じゃないからね今の。ビッ……くらいの速さだからね!」


 あれ、見えなかったか。

 そうだよな、健はまだ魔獣を一体も倒していない普通の人間と変わらない存在だしな。


「ま、まあ、そりゃ人間相手にこれやると殺しかねないからな。たぶん威力高すぎて身代わり人形も意味をなさなくなっちゃうからね」


「なるほどー、今まで手加減していたってことか! とりあえず、何となくは分かったから次は僕の番ね!」


 健はそう言って、さっさと俺が投げたナイフを回収し始めたのだった。


 そうして再び進むこと二十メートルほどで、怪人魚がまた出現した。


「ふぅ…………」


 健はその場で落ち着くように息を吐いた。


 そして……。


 繭鳥の糸を練習した通りの最速動作で腰から手に取り、魔獣に向かって放出し、操作をする。

 その糸は極細く編み込まれており、容易に視認できない。


 糸の先端が狙い通り、怪人魚の眉間に付着した。


 それと同時だった。

 怪人魚の体が淡い青色に光り始めた。


「ギョイーッ!!」


 スキル身体強化・水中の発動モーションのようだ。

 どんなスキルでも少なからずモーションが起こる。それは雑魚魔獣の低レベルスキルであればなおさら弱点と成り得るほどの隙となる。

 こういう雑魚相手に隙を突いていけないようならば、今後のより強い魔獣との戦いも苦しいものとなるだろう。

 だから、健には低階層帯にいるうちにこの「スキルの隙」に慣れて欲しい。


「健! ここだ!」


 俺はつい声で指示を出していた。

 が、その必要はなかったみたいだ。


 その時にはすでにリーフシャドウナイフが二本同時に投げられていたのだった。

 繭鳥の糸にマーキングされたポイント辿り、そのナイフは怪人魚二体の眉間を見事に貫いたのであった。


「ギョ……」

「ギ……ギョイーッ!!」


 一体はその攻撃で脳まで貫くことに成功したが、もう一体は威力が足りなかったのか致命傷には至っていなかったようだ。

 その個体は額から紫色の血を流しながら、雄叫びを上げ、再び襲ってきた。


「嘘?!」


 しかし、健はその不測の事態に動揺し、ベルトから取ったはずのナイフを地面に落としてしまった。


 おっと、焦るのは別に構わないけど、ミスはダメだ。

 どれだけ不測の事態で焦っても、冷静に次の判断を下さなければならない。


 俺はそう思い、すぐに魔法発動の準備をした。


 ……が、すぐにその魔法を解除する。


 健がニヤリと笑みを浮かべたからである。


 怪人魚のトライデントはもう健の目の前まで振りかぶられていた。

 それでもなお、健は微動だにしない。驚くような顔をしつつも、口角は上がっていた。


 その瞬間だった。


 健が急に右手を後ろに勢いよく引くと、その怪人魚の体が何かに引っ張られるように宙に浮いたのだった。


「ギョイイィィ?!」

「えぇ?!」


 その現象に怪人魚も驚きの声を上げる。

 ついでに俺も。


 よーく目を凝らして見てみると、その理由はすぐに分かった。

 それは繭鳥の糸ととある道具を使った捕縛術だった。

 原案は健、練習は自衛隊の隊員に見てもらったという健だけの対魔獣捕縛術。


 健はあらかじめ、天井に向けて一本の特殊な武器を投擲していたのだ。


 それは健が考え、賢人が面白いと言い形にした武器。対魔獣用としてではなく、捕縛用としての用途でしか使えない武器。

 刃先はナイフと変わらないが、刺さった場所から簡単に抜けないように小さな返しが衝撃と同時に出現する仕組み。

 そして、柄の部分に小さな滑車が複数付いており、そこに魔獣にあらかじめ付着させた繭鳥の糸を通すことで自分よりも重い魔獣の体を簡単に持ち上げてしまう捕縛術。


 繭鳥の糸は極細に編み込まれており、直接的な攻撃力は皆無だが、捕縛には適している。

 それでも、考えるのと実行するのは天と地ほどの差が有り、非常に難しい。

 武器の投擲に繭鳥の糸の操作を自由自在に扱える技術あってこその策略。

 それを寝る間も惜しんで戦術のトライアンドエラーを繰り返した健に今回は軍配が上がったのだ。


 健は口角が上がった表情のままゆっくりと怪人魚を下ろし、短剣でグサッと魔獣の頭を刺した。

 そして、地面に打ち付け、短剣を一ひねりするのだった。


「ふぅ、上手くいって良かったです! やはり僕の地上でやってきた訓練は間違っていなかった!」


 おいおいおいおい……。

 これは思わぬ天才を拾ってしまったのではないだろうか。

 ここに来るまでに万全の準備をしてきたと言っても、本番で一つも狂うことなく全てをやってのけるその精神力に冷静さ。

 それに初の生き物を殺す経験なのに、一切の躊躇がない。


 極めつけは、俺ですらいつ天井に滑車ナイフを投擲したのか分からなかった。


「健……いつ天井に武器を投擲したんだ?」


 すると、健は首を傾げるように言ってきた。


「武器を落とした時だよ。右手でナイフを落としたと同時に、魔獣から見えない位置から左手のスナップで天井に投げただけだよ! 黒田隊員に教えてもらったんだ。よくマジシャンがやる手法なんだって! どこか一点に意識を向けさせることで、本当に隠したいことを隠せるんだって!」


 ミスディレクションってやつか?

 まあ、俺も詳しくは知らないけど。


 それでもこいつすげぇな。

 さらっと注意を落としたナイフに引き付け、逆の手では策略を仕掛けていたってわけか。

 こいつはマジな天才かもしれん。俺にはそういう策略はできない。


 自分で言うのも何だけど、俺はその場の判断と火力に豊富な技で押し切るタイプだ。

 策略とかそう言うのは、よくわからない。


「すっげえな、健!」


 俺はつい本音で健を褒めていたのだった。

 本当に……こいつの頭はわしゃわしゃしたくなる。




 ******************************




「ラーストッ!」


 健はそう言ってナイフを投擲し、怪魚人の頭を打ち抜いたのだった。


 もうこいつに教えることはない……。

 とか、言いたいけどまだまだ。

 俺はこいつにもう夢を見てしまったのだ。


 俺は家でダラダラ。健はダンジョンで稼いでくる。


 俺の人生はもう安泰だ。

 はっはっはっ、君はもう俺の手の平の上なのだよ!


 まあ、それもこの初ボス戦を一人で乗り切れたらの話である。


「健、ついにボス戦だな。準備は良いか?」


 しかし、健はその言葉に反応しなかった。

 その武器を握る手がブルブルと震えていたのだった。


「もうちょっと待って。まだ震えが止まらないや。ほたるんは最初どうやってボス戦を乗り越えたの? 僕はほたるんよりも心が強くないみたいだ」


 何言っているのさ。


「俺はなぁ……勢いと気合いと戦法だけで乗り切った感じ」


 そう、俺は本当にそれだけなのだ。

 あの時の俺は健ほど情報を知らなかったし、少し夢の中にいるみたいな感覚もあった。

 だから、ゲーム感覚で何度も何度も頭の中で描いたボス攻略方法を実践し、全く刃が立たなかった。

 俺が最初に戦ったのは大きなハンマーをもつゴブリンキャプテン。

 その取り巻きはその策略で倒すことができたが、ボスだけは違った。

 そこからは勢いと気合い……あとはその場の判断で倒した。

 今思えば無謀すぎるぞ……あの時の俺。


「何その無謀人間。でも、そんな無謀な人が世界一位という現実……。本当に未だに謎だよ、僕の中ではね」


「褒めてんのか、貶してんのかどっちだよ。それよりさっさと倒してくれよ、二日以内には五階層突破するからな!」


「えっ! 聞いてない! 何その無謀なスケジュール! 鬼ほたるん!!」


「俺は最初にそうしたが、何か?」


「え、本当に……?」


「まじだよ」


 そうして、俺は健の背中を押すようにボス部屋へと入ったのだった。

 中にいた魔獣は五体。

 一体のボスに対し、取り巻きが四体という構成。

 もちろんボスは怪魚人・エリートの上位種。



【status】

 種族 ≫怪魚巨人

 レベル≫16

 スキル≫A≫波動水Lv.5

     P≫身体強化・水中Lv.6

 魔法 ≫――



 怪魚人を二回りも大きくしたボスは鋭い眼差しを健へと向け、ニヤリと笑みを浮かべる。


 そして……。


「ギョルルルルッ!!」


 怪魚巨人の雄叫びが戦闘開始の合図となったのだった。


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