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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第4章】北海道奪還作戦決行 編

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第4章【エピローグ】

 


 カタカタカタカタカタカタ。

 カチカチッ。

 キーボードとクリック音だけが、暗く閉ざされたこの部屋に鳴り響いている。


「ンパ、準備はいいか?」


「任せてくださいです!!」


 俺は隣にいるちょんまげボサボサ頭で目が充血しているニートの鏡のようなンパに目線を送る。


 現在やっているこれは『青い世界』というMMORPGゲームだ。近頃、最もゲーム人口が多く、王道過ぎるタイトルとして特集されたほど人気のゲーム。

 そこでの俺の職業は『支援魔法師』。サポート特化の魔法使い。

 対して、ンパの職業は『バーサーカー』。常にデバフが付きまとう扱いづらい職業だが、火力に関しては他の追随を許さないほどの火力特化職。


 そう、どんな世界なろうともンパの「火力こそ最強でかっこいい」というスタンスはブレないらしい。


 俺は他の仲間がボスのタゲを取り、稼いでくれた時間を使って最強の支援魔法コンボを掛ける準備が終わった。

 そして……。


「おらおらおら、これぞ俺が編み出した最強のバフコンボだ! ついでにデバフも追加だ!!」


 慣れた手つきで次々と支援魔法を発動し、バーサークしているンパのゲームキャラに最大のバフを掛ける。ボスにも最高率のデバフを掛ける。


「いいです! いいですよ、蛍さん! その調子です!」


 隣で興奮気味に待機するンパ。


 すると、ボイスチャンネルを繋いだヘッドホンから仲間の冷静な声が聞こえてくる。


『おいおいおい、何かこのボスの体光り始めたぞ。やばくね?』


 バフを掛けるのに集中していた俺は一瞬、ボスを視界から外していた。

 慌てて視点を変えると、ボスは大技らしきモーションを終えたところだった。


「うおぉ、まじか。俺今、バフ掛けた反動で硬直入ってるんですけど」

「な、な、な、なにを言ってるんですか。ンパも今、スキル準備中で硬直入ってるんですよ!」


 そうして……。

 俺たちパーティーは、ボスのブレス攻撃をもろに食らい全滅したのだった。


『くっそー、あんな攻撃、初見殺しじゃねえか。発動条件何だろうな』


 そうヘッドホン越しに聞こえる仲間の声。


「んー、でもンパに反応しているっぽかったよな。一定以上のダメージが入るスキルに対して、反応するタイプなのかもな」


『なるほどなー、次はンパ置いて、盾職持ってくるか』


「そうだな、それが最善だろう」


 大技に反応するなら、盾職前において、地道に攻めていくのが最善手だろう。

 俺達が勝手に話を進めていると、隣のンパが涙目で俺の体を揺さぶり始めた。


「蛍さん、酷いですよ! 私は引きずられてでもついて行きますからね」


「おい、ンパ。本名はマナー違反だと何度言ったら……」


 俺は呆れるようにンパの手を振りほどく。


「あっすいません……。でも、酷いですよ、蛍さん」


 ンパは尻すぼみにそう言った。


 くっそ、可愛いな、こいつ。

 でも、落ち着け俺。

 こいつは女じゃない、女じゃないんだ。


 その後、俺達は若干装備を変更してから、再びボスへと挑んだ。

 見事に最後、ンパの最大火力スキルでボスを討伐することに成功し、レア武器を入手したのだった。


 これがこのギルドの伝説の始まり…………とかなればいいな。




 ******************************




 ――翌日。

 俺は珍しく、現実で行動を起こしていた。


「やあ、賢人。遊んでるかい?」


 俺が賢人の仕事部屋に入ると、賢人は作業時だけ掛ける眼鏡を外して、こちらを見た。


「蛍か。まあ、ぼちぼちだな。それよりどうした? ゲーム部屋から出てくるなんて珍しい」


「そろそろ現実で行動開始しようかなと。だいぶ前に言った『裏側のダンジョン』の話どうなった? なんか分かった?」


「あれか。一応、ダンジョンに関わる情報屋として稼いでいる奴の連絡先を綾人さん経由で貰ってるよ。お前が動く気になれば、連絡しようと思ってたから、連絡はまだだよ」


 ふむふむ、さすが賢人さん。

 いつの間にそんな人脈を築いていたのだ。


「じゃあ、連絡してみて?」


「了解、ちょっと待ってて」


 そう言って、メールを打ち始める賢人。

 少しの間、賢人と他愛もない話をしていると、すぐに返事が返ってきた。


「返事早いな。さすがは情報屋さん。どんな人なんだろう?」


 俺はそう言いながら、画面を覗くように返事を見てみると、そこには簡潔に情報料金と推測はできるが確信はないという旨が書かれていた。

 すげーな、情報屋。たったこれだけの情報で推測できるのか。こえー。

 もしかしたらこの人には、俺の存在がバレてたりするんだろうか。俺の情報……高いのかな?


「蛍、どうする?」


 賢人は見上げるように、俺の顔を見た。


「いいんじゃない? 賢人会ってみてよ」


「お前も来るか?」


「俺は――」




 ******************************




 カラン、カラン。

 綺麗な音色の鈴の音が店内に響く。


「いらっしゃいませー。一名様でしょうか?」


 笑顔で店員さんが入ってきたばかりの一人のお客さんに歩み寄った。


「あー、待ち合わせなんですよね! えーっと……いたいた! あそこの席です」


 そう言ったのは、俺、秋川賢人とそう歳の変わらない見た目の凄く犬っぽい男だった。

 何て言えばいいのだろうか……本当に犬っぽい人だ。

 その無邪気な笑顔も、茶色く纏まっていない髪も、その八重歯も、背の低さも。


 その男は俺の向かいのソファにニコニコしながら座った。


「どうもです! 連絡くれた、秋川さんですよね? いやー、驚きました! 僕とそう歳も変わらないのに、ダンジョン冒険者を経営してるなんて尊敬しちゃいます!」


「むしろこっちが驚きましたよ。情報屋っていうくらいだから、もっと厳つい人が来ると思ってました」


「いやー、それよく言われるんですよね。あっ何か頼んでもいいですか?」


「好きなの頼んでいいですよ、お代はこっちが持つんで」


「いいんですか? じゃあ、このスペシャルチョコレートパフェ一つ下さい!」


 そう言って、本当に臆さず頼みだしたその男。


 俺は若干、呆れるように笑った。

 この男、何と言うか……本当にThe・犬って感じ。

 めちゃくちゃ撫でて、エサを与えたい保護欲がそそられる。


「改めまして、僕の名前は新田健(あらたけん)って言います! ダンジョン冒険者と対策機関、報道各社相手にダンジョンに関する情報を提供する仕事を生業としています。よろしくです!」


 そう言って、新田健はニコッと笑った。


「俺は秋川賢人です。事務所名はまだないですが、一応ダンジョン事務所の管理をしています」


「よろしくです! では、次の仕事もあるので早速本題に入らせていただきますが、欲しい情報は『裏側のダンジョン』とはどこか? ということでしたよね」


「その通りです」


 すると、少し健は黙り、徐にこちらを見て言った。


「……敬語止めてもいいですか? たぶん年近いですよね、僕たち」


「もちろん。俺もその方が助かるよ」


「ふぅ、いい人で良かった。ちなみに僕は16歳の高校二年。賢人は?」


 おっと、いきなりの下の名前呼び。

 さすが犬っ子だ。


「俺は17歳の高校三年だよ」


「あちゃー、年上だったか。まあ、話を戻すね」


「うん」


 そう言って、俺は健の推測話を聞いた。


 結果から言うと、「裏側」が示す意味は「地球の裏側」が一番可能性あるということだった。

 その理由は、蛍が攻略した倶知安町のダンジョン。その緯度経度のちょうど真逆の()()()()()()()()にピンポイントでダンジョンがあるそうなのだ。


 ダンジョン名『ウルグアイ海底ダンジョン』。もうそのまんまだった。

 ウルグアイ海域の海の底に今まではなかった謎の海底神殿があり、そこがダンジョンの入り口になっているそうだ。

 攻略者もまだいなく、場所も場所のため、挑戦者も少ない。

 その為、ウルグアイの政府は近隣国も含め、定期的に湧き潰しをしてくれるダンジョン冒険者を募集しているらしい。


「なるほどね。ちなみに他の意味だと?」


「他の意味だと、赤道を中心線として南半球に対応する場所、対角に位置する場所など、地球を基準に調べてみたけど、ヒットする場所はウルグアイの海底ダンジョンだけだったんだよね。それ以外の意味は正直なところ、わからないんだ。こんな情報だと不十分って言うならお金はいらないからね! 推測でお金貰うわけにはいかないから」


 いや、全く当てのなかった蛍からしたら最高のヒントになるんじゃないだろうか。

 蛍は「どうせ一発で当てようなんて思ってない」なんて、言っていたからな。


「いや、十分だよ、助かった。これが依頼料だ。確認してくれ」


 俺はそう言って、健にお金の入った茶封筒を渡す。

 しかし、彼は中身をろくに確認せず、懐に仕舞った。


「いやー、正直助かったっす。今月ギリギリだったんだよね」


「いいのか、中身確認しなくて?」


「ん? いいの、こういうのは。もし帰って金額が足りなかったら今後依頼を受けないだけ。情報屋ってのは信頼が第一だから。賢人の事務所の有名なエースにも伝えておいてね!」


 え?

 こいつ今、有名って言葉使わなかったか?


「もしかして……」


 俺がそう言いかけると。


「そりゃ、色々な情報を考慮すればそんなのすぐにわかるよ。でも、心配しないで。僕は提供する情報はそれなりに線引きするし、こういった秘匿性の高い情報は売らないから」


 そう言って、現金な手を向けてくる健。

 この野郎、商売根性たくましいな!


「はあ、分かったよ。元からそのつもりだったみたいだね」


 その言葉に笑いで返してくる健。


「いやいや、冗談だってば。こういう類のお金は受け取らないって決めてるんで! そうしないといつ殺されるか分かったもんじゃないからね」


 そう言って、お金を受け取らなかった健。


「いや、どうせなら貰っておけって。それより何故まだ高校生なのに情報屋の仕事してるんだ? 色々と急ぎ過ぎじゃないか?」


「……別に言ってもいいんですが。その代わり一つ、僕のお願いを聞いてはくれませんか? もちろん受けるかどうかはお任せします。今から僕が話すことは独り言とだとでも思ってね」


 お願い?


「何?」


「賢人さんのとこのエースに僕をダンジョン冒険者として、チームに入れてもらえないか打診してくれませんか?」


 急に敬語で話し出し始めた。

 そして、そのままお金が必要な理由も。





 健は長崎県の離島出身。

 約三年前、そんな田舎島でも関係なく、ダンジョン大災害の余波が襲った。


 その避難の過程で家族と離れ離れになってしまったらしい。

 その後、健は無事に東京近郊へと避難できたが、その時点でも家族の行方が何一つ分からなかったらしい。

 現在も政府公認の伝言板にメッセージは残しているが……ダメらしい。


 それでも唯一、妹の居場所が分かった。


 そう喜んだのも束の間、妹は決して無事と言える状態ではなかった。

 原因不明の感染症にかかり、日々苦痛に顔を歪める生活を送っていた。

 この感染症は未知の病原菌であり、未だに解明はされていない。というのも、これはダンジョンの産物であるという見解がその界隈では噂されているらしい。


 しかし、そんな妹でもとある薬を定期的に摂取することで痛みを緩和できることが分かった。

 でも、その薬が健にとっては大きな問題となっていた。

 とても高額な代物だったのだ。元々保険外で高額だった薬が、ダンジョン災害後には需要も高まり、さらに高騰してしまった。

 それでも健は妹に痛い思いをこれ以上させたくないという一心で、高校に通いながら働くことに決めた。

 とは言っても、アルバイトや普通の社員として働いたところで、薬を定期的には買ってあげられない。

 そんな時、健はまだ駆け出しのダンジョン冒険者をやっていた飯尾綾人と出会った。

 そこで得たダンジョンの新情報を武器に、必要としている人に情報を提供し、見返りとして金銭を要求すると言った情報屋の仕事を確立した。

 最近までは羽振りがいい人も多く、定期的に薬を買ってあげられてはいたが……。

 つい先日、薬を買うだけのお金を用意することができなかったらしい。


 そこでこの仕事の限界を感じた健は、もっと安定的に稼ぐことができる職業か、一気に稼ぐことができる仕事につかなければと考え始めていたらしい。

 それで選んだのが、ダンジョン冒険者という常に危険が伴うが一獲千金を狙うことのできる職業。


 さらに決め手となったのは、ナンバー1冒険者が大手事務所に入らずに、独立しているといった情報だった。


 そう、蛍が作った俺たちの事務所と言うのは、ダンジョン冒険者に成りたいと思う若者にとっては恰好の場所だったのだ。

 大手のダンジョン事務所は通常、入るのに厳しい試験を合格するか、優秀な能力を保持していなければならない。しかし、一般人がダンジョンに入るには認可のあるダンジョン事務所か自衛隊に所属していなけらばならない。その為、一般人からダンジョン冒険者になるハードルが非常に上がっている状態なのだ。


 しかし、そんなところに現れた希望が俺たちの事務所ってわけだ。

 ダンジョン冒険者は一人しかいないが、世界で一番最強の人物。

 もし面倒を見てもらえるのであればこれ以上に良い待遇はない。

 それにまだ新設の事務所であるため、人材を欲しているはず。

 さらには、取得が非常に難しい認可をもすでに持っているという事務所。

 今からダンジョン冒険者になりたいと望む者にとっては、理想的な事務所だったのだ。





 そんな話を俺は健から聞いた。

 そして、健はパフェをかき込んでから、次の依頼があると言って退店していった。


 俺はふぅと一息吐いて、コーヒーを一口飲む。

 そのまま背中合わせの後ろのソファに座る人物に向かって視線を向けた。


「だとよ、蛍。どうする?」


「ぐすん……。うっ、可哀そう……」


 蛍、めちゃくちゃ泣いていた。

 あー、そうだったわ。こいつ意外にも心がピュアだったの忘れてた。


「ま……まあ、蛍ならそう言うと思ったよ。で、入れるのか?」


 そう言うと、ゴシゴシと目を擦り、鼻をすすり聞いてきた。


「いい?」


「蛍が決めろよ。お前の事務所なんだから」


「だったら、雇う」


「お好きにどうぞ」


 そうして、何故か俺は泣き続ける蛍の背中を摩りながら、家へと帰ったのであった。




 ****************************




 さらに翌日。

 俺、雨川蛍は情報屋の健の身の上を知り、つい号泣してしまい……雇うことにした。


 いや、考えてくれ。

 目の前に助けを求める可愛い子犬がいるんだ。誰だって助けたくなるだろう。

 そう、あいつは人間じゃない。可愛い子犬にしか、俺には見えなかったんだ。


 で、健を家に呼んでもらったってわけ。

 そして、俺の目の前には尻尾を振るポチと戯れる健の姿があった。


「こーら、舐めるなって。うわっ、ちょっ、待てって!」


 何だろう……犬同士共感でもし合ってるのかな?


「……話いいかな?」


 俺は苦笑いしながらポチと戯れている健に言った。


「はい、すいません。こら、ポチ! お座り!」


 おー、やっぱり彼は犬のようだ。

 ポチは家族の中でも俺の言うことしか聞かないけど、健の言うことは聞くらしい。


「えっと、じゃあ……。とりあえず、先輩のとこ行こうか」


「先輩?」


「うん、うちのメカニック担当の人」


「なるほど、そんな人材までいるんですね」


「……と言う名の、今のところいるだけのゲーム仲間だけどね。そろそろ成果を出して欲しい所だけど、急かすのは良くないからね」


 そう言いながら、俺と賢人と健は地下にある先輩の部屋へと向かった。

 そこにはいつも通りの汗臭い、つなぎ姿の眠そうな先輩の姿があった。


「先輩、おはよう。今、時間大丈夫?」


「あら、ほたるんじゃない。どうしたの? ……って、ワンコみたいな人ね。どちら様?」


 先輩…………いきなり人を犬呼ばわりは良くないと思うよ。

 いや、まあ、うん。彼は別に気にしてないっぽいからいいけど。


「初めまして! 今日からここでお世話になる予定の新太健って言います。犬っぽい呼び方ならなんでもウェルカムです!」


 え? いいの? 本当にそれでいいの?

 人間としての尊厳もう少し持とうよ。


「じゃあ、ポチツーね」


「わかりました!」


 え?

 だから、本当にそれでいいの?

 ポチツーだよ?

 うちの犬よりも位が下ってことになるよ?


 すると、賢人が話始める。


「先輩、調子はどうですか? この前教えた、ディールとは上手くやってますか?」


「ええ、彼結構まめに連絡くれるわよ。それに明日には多分完成するわ」


 ん?


「ねえ、賢人どういうこと?」


「ああ、先輩には前に蛍から聞いたディールの連絡先を教えといたんだ。もしかしたら異世界の知識が役立つかもって、それにたまにだがンパも手伝っているらしいぞ。小遣い目当てで」


 ふむ、どうやら俺の知らぬところでネットワークが築かれていってるらしい。

 それに……。


「先輩、完成するってもしかして……?」


「ええ、魔力電波変換機の改良版よ。これで楽々ダンジョン生活よ」


「よっしゃあ!! これで安心して、ダンジョンに行けるぜ!!」


 俺はその場で盛大に叫んだ。

 なんだよ、あんたたち最高かよ。

 勝手に仕事してくれて、お金まで勝手に稼いでくれる親友の賢人に。

 メカニックバカな先輩まで。


 もしかして…………いつか健も俺に何かをもたらしてくれたり?


 そうして健を見るも彼はどうやら固まっていた。

 すると、健が口を開いた。


「あの……さっきから何て話をしてるんですか? えっ何ここ。国家秘密製造基地か何かですかね?」


 あっ何かぶっ壊れた。

 すると、賢人が健の肩をポンと叩いた。


「安心しろ、これで君はもううちから逃れれられない状況ってわけだ。もし逃げたら蛍が地の果てまで追い続けるかもしれんから気を付けろ」


 なるほど、賢人。

 お前……怖いな!!


 そうして、健の紹介の後、先輩の部屋の一角を借りて作った「練習室」に到着した。

 練習室といっても、できるだけ簡素に装飾を一切省いたちょっと広めの部屋。

 俺がいつか体を動かそうと密かに造っていた部屋だ。


 そこで俺は健と向き合い、先輩と賢人がそれを傍らで見ているという構造が出来上がった。


「よし、とりあえずどんな能力持ってるの?」


 俺は犬に向かい合って初めにそう言った。


「えっと……僕は普通の人間です。持っているのは全世界共通の異世界鑑定だけですよ」


 それもそうか。

 誰しもがスキルや魔法を持っている世界ってわけじゃないんだもんな。


「ごめんごめん。じゃあ、どんなダンジョン冒険者になりたい?」


「稼げる冒険者です」


「あっ、そういう意味じゃない。言葉が悪かったね。戦闘スタイルとか、そういうの」


 そう言うと、考え込む健。


「正直分からないです。ダンジョン冒険者の戦闘スタイルについては情報として動画で流れている姿でしか知らないので」


「なるほど、そんなもんなのか」


「すいません」


「いや、良いんだ。俺の方が多分、知らないんだと思う。……じゃあ、一例として俺の一つの戦闘スタイルを見せるよ。てことで賢人、模擬戦やろっか」


「はっ?! やるわけ……」


 俺は嫌がる賢人に無理矢理一つの武器を持たせた。


「はい、これ。ついでに渡しておくね。賢人専用の盾装備」


 そう言って渡したのは俺の初期に手に入れた武器の一つ『はじめての大盾』ともう一つ、『小さな槍』である。

 賢人のスキル構成を覚えているだろうか。



【status】

 名前 ≫秋川 賢人

 称号 ≫Number 81,665,985

 スキル≫P≫不意打ちLv.3

    ≫A≫意思疎通Lv.2

       不退転Lv.5

       異世界鑑定Lv.5

 魔法 ≫――

 装備 ≫――



 この「不退転」のスキル、実はレア度5の超優秀スキルだったのだ。



【skill】

 名称 ≫不退転

 レア度≫5 (プラチナスキル)

 状態 ≫アクティブ

 効果 ≫効果時間10秒。スキル使用中は、いかなる状態異常も受け付けない、無敵状態となる。



 中々のぶっ壊れスキルである。

 こんないかにもな盾スキルを持っているんだ、盾を持たせないわけにはいかない。

 それに俺が持っている「小さな槍」は、不意打ちのスキルとも相性が良く、まさしくこの二つの武器は賢人のための武器と言えるだろう。


 ということで、俺も二つのアイテムを取り出した。

 「リーフシャドウナイフ」と「繭鳥の糸」である。この二つは主にドラゴンを倒す時に使っていたシリーズ。


 さあ、彼にダンジョン冒険者ってのが何か見せてあげないとね。


 そして……これが終わればウルグアイ海底ダンジョンの攻略である。

 これで三回目のダンジョンアタックだな、楽しみだ。

 

 でも、今回は前回とは違う。

 目指すは完全攻略、最終階層まで行くのが目的だ。


 「よし、行くぞっ!」


 「えっマジでやるの? 待って!」


 賢人、俺は止まらないぞ!

 

 …………いや、今の「行くぞ」は戦闘開始の意味じゃなくて、意気込み的な意味合いで言ったつもりだったけど。


 まあ、賢人だし別にいいか。


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