ペチッ、ペチッ、ペチッ
俺と神さん、淡谷くんの日本三トップはそのまま行方が分からなくなったという人たちの捜索を買って出た。
そこで俺たちは初めて…………仲良くなった。
おいおい。
聞いたか?
今の言葉。
まさか元ニートの俺に新しい友達ができるなんて思いもしなかったよ。
今度ダンジョン一緒に行こうぜ、なんて話もした。
普段の俺なら間違いなく断っているだろう。
今の俺について来れる人なんて世界探しても少ないだろうからね。
でも、彼らは普通に俺の速度に攻撃に急転換についてきた。
まあ、俺がもっと本気で取り組めばついて来られなくなるかもしれない。
本気ってのは疲れるんだ。
だから、今はできるだけ自然体で捜索を続けていた。
そして、ある場所でひと塊りに何人もの気絶した人が放置されている駐車場を発見した。
淡谷くんには多少医療の知識があるようで、その場で診察をし始めた。
その結果、彼らには一切の外傷がなく、ただ意識を失っただけだということが分かった。
俺達は無線で東基地へと連絡し、応援を要請した。
三人だけでは運べない人数がいたからである。
その後、一人が目を覚まし、話を聞いた。
偵察部隊として報告をしていると、建物の角からいきなり小さな野良犬が現れたらしい。
それでそいつに飲み込まれた、と。
吸収されたのだろう。
しかし、何故か彼は生きている。
あの野良犬はもしかしたらある程度自我を保っていたのかもしれない。
それで、人間は食べてはいけないというブレーキをかけ、ここに放出した。
そう考えると、この状況のすべてに納得がいく。
魔獣一匹たりともいない、ダンジョンの入り口が存在する釧路。
ひと塊りに集められた、外傷もなく気絶しているだけの人。
あの犬は魔獣だけを吸収し続けて、生きてきたのかもしれない。
そして、あそこまでの歪な存在となってしまった。
俺はあの犬が唯一残していった足に巻かれていたミサンガを握り締めた。
それを海岸のオブジェに括り付け、氷雪魔法クリスタルで凍らせておいた。
ここ……釧路を一匹で生き抜き、魔獣だけを倒し続けた英雄の証として。
名前はなかったかもしれない。
それでもお前は立派に生きた。
安らかに眠ってくれ。
******************************
俺はこのまま札幌へ帰っても特にやることがないので、そのまま釧路のダンジョンの低層攻略を開始した。
先程まで一緒に行動していた竜也と小太郎はまだ担当地区の封鎖が完全ではないため、ヘリコプターで帰っていった。
ちなみに今まで俺は神竜也のことを神さん、淡谷小太郎のことを淡谷くんって勝手に呼んでいたけど、淡谷君の提案でみな一様に下の名前を呼び捨てにすることになった。
戦闘中のロスはできるだけなくしたいという理由らしい。
実に効率的でいいと思った。
でも、竜也は少し年上だから、未だ少しだけ抵抗感がある。
小太郎は一つ上だから抵抗感はない。
元々オンラインゲームをやっている者ならば、一度は経験したことあると思う。
思ってた年齢と全然違ったりとか。
うん、まあ人生いろいろあるよね。
まあ、そういうことで俺は今、久しぶりに自由にダンジョン攻略してるってわけ。
一言言わせてもらおう。
「一人は気楽……」
やっぱり俺は一人が性に合ってるみたいだわ。
確かに竜也と小太郎と一緒なのも楽しかったけど、ソロは開放感が段違いだ。
「シュルルルッ」
おっと、魔獣のお出ましだ。
……。
…………。
「シュルルルルッッ!!」
灯り一つない洞窟の天井から三匹の蛇型魔獣が襲ってきた。
ペチッ。
ペチッ。
ペチッ。
その三体は俺のハニカムシールドのオートガード機能で攻撃を阻まれる。
俺はそこをボンボン丸で真っ二つに斬っていった。
あっボンボン丸を覚えているだろうか?
第一ダンジョンの最初の部屋で手に入れた名も無き脇差がちょっとだけ成長した武器だ。
俺は特に止まることもなくただゆっくりと歩いて行き、先ほどと同じ要領でどんどんと蛇型魔獣を斬っていった。
そして、五階層のボス戦。
いつも通りの見た目だけ重そうな石扉を開く。
「シャアァァァッ!!」
あっお前。
そのボス部屋に待っていた魔獣は…………俺の知っている魔獣だった。
覚えているだろうか?
第一ダンジョン155階層のボス。
コウモリの羽を生やした紫色の巨大な空飛ぶ蛇を。
天井に張り付いて、俺に奇襲攻撃をしてこようとしたけど、速攻で倒されたあいつを。
【status】
種族 ≫ポイズンスネークバット
レベル≫245
スキル≫P≫聴力強化Lv.max
A≫フライLv.max
硬化LV.15
脱皮LV.5
魔法 ≫毒霧魔法Lv.15
暴風魔法Lv.13
ポイズンスネークバットを。
「シュゥゥゥッ」
俺が少しだけ感慨深く観察していると、魔獣が毒霧を広範囲にブレスしてきた。
特に慌てることもなく、魔法を準備する。
『瞬間凍結・氷雪世界』
俺の構えた掌から白く輝く冷たい冷気が噴出する。
それは毒霧すらも凍らせた。
そして……そのままポイズンスネークバットをも飲み込み、この再戦は呆気なく幕を下ろしたのであった。
魔獣や凍った毒霧が光の粒となり、天に昇っていくとそこにはドロップ品が転がっていた。
ラッキー。
レアドロだと良いなぁ。
そう考えながら、スキップして確認しに行った。
おや?
おやおやおや?
これはもしかしてのもしやしないか?!
そこに落ちていたのは小さくなったコウモリの羽だった。
【result】
名称 ≫ポイズンスネークバットの黒羽
説明 ≫サイズ調整可能な外套型防具。
異世界鑑定さん……もう少し仕事して。
でも、そうか。
俺は意図せずに飛行を可能にする防具型のアイテムを入手したのであった。
売れば高く売れそうだなぁ。
でも、いつか仲間ができるかもだし、取っておくか。
適当にアイテムボックスに放り込み、ボス部屋の奥にある赤い魔法陣へと足を踏み入れた。
視界がすぐに変わり、そこは忙しなく自衛隊員が動き回るダンジョンの入り口へと転移した。
赤い魔法陣はダンジョンの外へと転移する帰還用。
青い魔法陣はダンジョン内での転移用。
台風島で推測したこれは地上に帰りすぐに検索し、当たっていたことが分かった。
だから、俺は今回も特に臆することなく魔法陣に足を踏み入れたのであった。
その足でこの仮設基地の指揮テントへと向かった。
そこには新選事務所一行と桂田上官、そしてその他数名の自衛官が何やら話をしていた。
すると、みんな俺が帰ってきたことに気が付き、一斉に振り向いてきた。
「何だ……Number1ですか。驚かせないでくださいよ」
そう言ったのは、ここで一番偉い桂田上官だった。
敢えて……敢えて一言で表そう。
M字ハゲおじさんだ。
別に悪意なんてない。
「何だ……」って言われてむかついたなんて断じてない。
「いや、別に……」
俺はただそう言って、案内された席へと腰を下ろした。
「それでダンジョン内はどうでした?」
桂田上官は言葉で遊ぶこともせず直球に質問してきた。
どうでしたか……ね。
素直に答えていいものか。
いいか、後は任せよう、
俺はここを攻略する気は起きないからな。
「蛇型魔獣が主体でした。それに灯りが一切ないダンジョンでしたよ。魔獣のレベルも平均で150近くで高いし、スキルも魔法も普通に特殊属性使ってきますし、奇襲攻撃は当たり前だしって感じで嫌でしたね。極めつけは5階層のボスですね。あれは俺が攻略した倶知安ダンジョンの第155階層のボスと全く同じボスでした。たしかレベルは245、それに飛行と範囲攻撃使ってきます」
その言葉でテント内はシンと静まり返った。
誰も何も発そうとしなくなった。
その気持ちわかるよ。
俺も今テンション低いもん。
だってさ、灯りがないダンジョンで魔獣も数メートル先の道も全く見えない状況で、天井やら壁を這ってくる蛇がいきなり襲ってくるんだよ?
ほぼお化け屋敷だったよ。
あっそれいいね。
ここのダンジョン名「お化け屋敷ダンジョン」なんてどう?
でも、俺はもうここにダンジョンに入りたくないね。
オートガードがあるとはいえど、いきなりペチッってぶつかられるとびっくりするんだよ。
心臓に悪いし、寿命がいくらあっても足りないね。
ここは夜目とか暗視系のスキルを持つ人に任せようよ。
俺は持ってないから嫌だ。
びっくりするの嫌いだし。
って、ことで報告も終わったし、寝よ。
柳ちゃんに強制的に起こされたから結構眠いんだよ。
そうして、椅子から腰を持ち上げた。
「ちょっ! 待ってください、Number1。それは本当のことですか?」
桂田さんが焦るように俺を引き留めてきた。
……俺この人嫌いだ。
何で信用してくれないんだろう。
他の人は結構信用してくれるのに。
「嘘は一つも言ってませんよ。いう必要がないですから……じゃあ、眠いんで」
そう言い残して、俺はすぐに魔法のテントを建て就寝したのであった。
とりあえず二週間もあれば対策を練られるでしょ。
翌日、特に何かが起こるわけでもなく、俺は一人空を飛びながら札幌へと帰還したのであった。
ちなみに言っておこう。
飛行移動はめちゃくちゃ速い。
車やヘリコプターなんて目でもない。戦闘機には負けるかもしれないけど。
でも、もちろんただ飛ぶだけだと障害が多い。
空は虫も多いし、鳥も多い。それに空気も薄いし、寒いし……まあ、これはサリエス師匠に貰った体温調節機能付きの外套を羽織れば問題ない。
それに体にのしかかる風や風圧も最初は問題だった。
……いや、正確に言うと問題という程の物でもなかったけど、それなりに嫌だった。
不思議だよね、物理的に意味不明なことでも、結果として大丈夫なんだから。
それらの問題は全て一つのスキルで解決した。
ハニカムシールド、これは半透明の六角形で構成された五枚のシールドを操るスキル。
それらを上手く前方に組み合わせることで、色々と障害を取り除くという荒業。
色をサングラスのような色に変えれば眩しいという弊害も無くなる、素晴らしい。
ということで、一時間かかることなく札幌へと到着したのであった。
逆に一時間以上かかる場所だとクールタイムが必要だから、ヘリコプターとかの方がもしかしたら速いのかも。




