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あの日地球にダンジョンが出現した(~ニート × ファンタジーは最強です~)  作者: 笠鳴小雨
【第4章】北海道奪還作戦決行 編

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楽しいことは花火みたいだ

 


「麻生隊員……」


「ああ、皆まで言うな、湯楽隊員……」


 私はNumber1(ワン)の実力をこれだけ関わった今でも勘違いしていたと言わざるを得なかった。

 作戦アルファ、旭川偵察任務、モスモス討伐任務……これだけ一緒に共にした。

 いや、私の宝石銃はあらゆる場所で活用できるマルチな能力だからこそ一緒に戦った。


 しかし、何ですかあれは?


 私、麻生の目の前には今までよりもハッチャけたNumber1(ワン)の空を飛び、笑いながら魔法を何発も乱射する姿があった。


 私の前……というよりも、私たち自衛隊員全ての前で。


 湯楽隊員が言いかけたことは分かる。


 恐らく俺たち要らない存在なのではないか、こう言いたかったのだろう。

 その通りだ、いらない。

 これだけの部隊と人数を掛けて札幌へと進行したはいいものの、私たちは一度たりとも戦闘を行っていなかった。


 全て彼一人で倒してしまうのだ。

 そして、彼、たぶん無線機を外している。

 何度も問いかけたが、反応が一向にない。


 私たちでも対応したいが、彼は夢中になっている。

 飛行戦闘、思いのほか楽しいのだろう。


 翼に慣れた彼は車よりも断然速い。

 それに視界も広がり的が多く見えるのだろう。

 魔法の射程も私たちが戦闘を行うまでもなく、長い。


 さあ、誰かに問いたい。


 世界で一番強い人物が夢中になって、物事を遂行し、私たちの言葉が通じない状況で私たちが執るべき行動とは何か?


 私はこう考える。


 見守る、ただそれだけだと。

 だから、地上から彼の姿を見逃さないように車の窓から身を乗り出し、ずっと彼を見ていた。


 すると、隣の席に座っていた湯楽隊員が口を開けた。


「あっ……」


「どうした、湯楽隊員」


「確証はないっすけど、恐らく凶悪指定魔獣のフルフェイス三体がやられたっす」


「それは本当ですか?」


「恐らくっす。他の魔獣よりも明らかに強かった三つの反応が消えたっす」


「……もう彼は手に負えませんね。ですが、どうしようもないのが今の現実ですね」


「その通りっす。まあ、困るのは自分たちじゃなくって上層部で椅子に座っている人たちっすよ。とりあえず、任務が上手くいっているこの状況は最善と言わざるを得ないっすね」


「はぁ、本当に結果が付いてきている以上何も言えないですね。実際に戦闘は彼一人で、私たちは怪我人はもちろんMPすら全く消費していませんからね」


「まあ、たぶんいつか疲れたとか言って帰って来るっすよ。たぶん」


「それを願いましょう」


 そうして、私たちは無理矢理に納得した。


 彼、今後は何をするのでしょうか。

 変な思想を抱かないことを祈るばかりですね。


 まあ、今のところ戦闘以外はただの普通のよくいるゆとり世代の青年と変わりないですからね。

 ただ……彼はいずれ何かを成すのでしょう。

 それだけは何故かすんなりと納得できます。




 ******************************




 わっはっはっは!


『ディスチャージ』


 よーし!

 今ので十体は貫いたな。


 俺は楽しくなっていた。

 飛行戦闘、これは…………ハマりそうだ。


 俺の好きなゲーム要素の一つに「モブ敵は爽快に薙ぎ倒す」がある。

 ゲームをやった者ならモブ敵の面倒くささを知っているだろう。

 あんなもの一々思考しながら戦いたくはない。

 何故?

 疲れるからだ。

 思考するのには精神を消耗する、そういうのはここぞって時に残しておきたい。


 確かにモブ敵ですら考えながら楽しみたい、って人もいるだろう。


 それも面白い。

 しかし、疲れる。


 俺はある程度オンオフを区別したいタイプ。


 そう考えると、今までのこの世界の戦闘はどちらかと言うと思考を常にオンにするゲームに似ていた。

 それもそうだ、本当の命が掛かっているのだから。


 でも、なぜ命が掛かっている?


 それは単純に弱いのと間合いや空間の距離が関係していただろう。


 弱いってのはそのままだ。


 距離、これは非常に重要だ。

 間合い、魔法の射程や武器の長さで攻撃が当たる範囲。

 これに関して言えば、俺の場合魔法を使えば解決できる。


 そして、空間的な距離。

 空という立体な移動は第一に空飛ぶ魔獣か遠距離主体の魔獣でない限り到底到達できない位置取りを可能とする。


 要するに……飛行を可能とした今、疑似的にモブ敵無双を実施することができているのだ。


 それは俺の得意分野でもあり、好きな要素でもある。

 だから、ここまで気分が良くなり戦っている現状にも納得して欲しいのだ。


『ディスチャージ』

『ショットガン』

『水月』


 おっと、ちょっと強い魔獣が現れた。

 水月を手に持っているシールドではじき返された。


 ならば。


『オーシャン・ストリーム』


 俺を中心に大量の水が出現し、巨大な水龍を形作りながらその魔獣に襲い始める。


 どうだ!


 これが俺がダンジョンで練習した魔法の一つ、ただの強烈な海の流れを龍の形に留めた技。

 名付けて「水龍」、そのままだ!


 その魔獣はシールドで防ごうと構えたが、物量で押し寄せた水龍を抑えるのには不十分な防御だった。

 結果…………飲み込まれていった。


 おっ?


 今の魔獣を倒したと同時に視界に入っていた魔獣が一様に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 逃がさんっ!!


 俺はゆっくりとMPを体で練る。

 そして、地面に降り、手をコンクリートに置く。


『ウォーターバインド・プリズン』


 水魔法の拘束魔法、町全体を覆うように広く大きく、薄く展開した。

 俺の手から薄っすらと波の波紋が円状に広がる。


 それに捕まった魔獣は……。


「キイィィ?!」

「きゅいぃぃ?!」


 体ほどの水球の檻に拘束された。


 よし、上手くいった!


 実はこれ、結構失敗してしまうのだ。

 練習をあまりしていない、と言うのもあるが結構難しいのだ。


 手から放たれた水の波紋は俺の第六感覚のような役割を果たす。

 当たった物の形状や生命を俺の脳に送り込んでくる。

 そこから俺が選択をすることで拘束できる、という代物。


 恐らく使いこなせれば探知系の役割を果たすことも可能なのだろうが、いかんせん脳への負担が大きい。

 それが理由で長い時間の練習ができないという弊害も存在する。


 まあ、それに……佐藤さん、自衛隊一の水魔法使いの人と話す限り、俺の水の波紋の範囲は異常らしい。

 だから、水魔法を覚えられる人みんなが探知系の能力として使えるかと聞かれると、非常に難しい。


 さて、拘束時間はそんなに長くない。


 俺は雑音がうるさいと外していた小型無線機を耳に付ける。


「こちらNumber1(ワン)、逃げようとした魔獣を拘束したので協力して欲しい」


『ザザッ、こちら麻生。やっと反応してくれたと思ったら……。まあ、いいでしょう。これを聞いていて今すぐ戦闘を行えるものは魔獣の殲滅を開始してください!』


 そう呆れたような声で麻生さんが答えた。


 あれ……。


 あとで謝っておこうかな。

 大丈夫、霜降り肉もあげるから。




 ******************************




「お疲れっす! これどうぞっす!」


「いやいやー、久しぶりにハッチャけちゃったよ。飛行戦闘、癖になるわ。ありがとう」


 俺は札幌の大通公園に作った仮拠点のテントの休憩所へと入り、空いている席に座った。

 中には疎らに何人かの戦闘員が休憩を取っていた。


 すると、何を血迷ったのかティアが甲斐甲斐しく冷たい麦茶を出してくれたではないか。


 戦闘で動かした火照った体の熱を取り除くかのように、冷たい麦茶が体に染み渡る。

 旨い!

 でも、運動後はスポーツドリンクの方が好きだな。


「一つだけ言っておくっすね。みんな引いてるっすよ?」


 え?


 ティアがいつもにないほどの妙な面持ちで言ってきた。

 辺りで休憩している隊員やダンジョン冒険者を見てみると……確かにちょっと引いてる様子だった。


「ねえ、俺って何かした? 空飛びながら笑って魔法ぶっ放すやばい奴とかもしかして思われてる?」


「その通りっす。あの光景は自分も未だに頭から離れないっすよ」


「いや、でもそこまで敵強くなかったじゃん。札幌のダンジョンだってEランクの最低ランクに設定されたって聞いたよ? 魔獣も弱かったしょ?」


「まあ、そうなんっすが。あの姿はアニメとかそういう感じで例えるなら、勇者とは真逆の魔王とかそういう類に見えたっす」


「何それ、悪役じゃん。俺嫌だ。どちらかって言うと冒険者Fあたりがいい」


「どんな拘りっすか。まあ、でも今後はあまりあの戦闘姿は見せない方がいいっすよ。楽しさを優先するか世間体を優先するかって話っす」


 なるほど。

 ティア……お前そんな真面目な話もできたんだな。

 だが、ティアは俺の本当の姿に気が付いていない。


「何言ってるのさ。俺が世間体を気にするとでも? 元ニートってのは大体、我が道を行くカッコイイ生き物なのさ」


 そう、ニートが世間体を気にする?

 ありえん。

 気にしてる奴もいるかもしれないけど、俺はそっちのタイプではない。

 自分がやりたいことやるべきことはしっかりと考えたうえで、マイペースなのさ。


「ちょっと理解できない部分もあるっすが、まあNumber1(ワン)が言うならそれでいいっすよ。結果として、Number1(ワン)の暴走のおかげでこんなにも早く札幌を抑えることができたっすよ。そこは麻生隊員も感謝してたっす!」


 みんなの目には暴走と映っていたのか。

 まあ、別に今後深く関わるわけじゃないからいいよ。


 それよりも俺は感動したことがある。


「いやー、やっぱり札幌は凄いな。生まれも育ちも倶知安町という田舎だったから札幌ってザ都会ってイメージなんだよ。でも、先に東京の街並みを見ちゃったからかな、若干ショボく感じる」


「それは言っちゃダメなやつっす。でも、自分は東京よりもこっちの方が好きっすね。緑溢れてて、東京ほど建物が密集していない感じが開放感あって好きっす」


「なるほど、そういう見方もあるか」


「感性は人それぞれっすよ、あくまで自分はそう感じたっす」


 俺はらしくないティアをジトっと見る。


 何?

 今日のこいつなんか嫌だ!

 もっとバカでアホで……なのに優秀ってのがティアって感じするのに。


「ティア……お前なんか変なキノコでも食べた?」


「ちょっ、いきなり何っすか?! 自分だってたまには真面目なこと言うっすよ? というか、一応自衛隊員っすよ?! 真面目の中の真面目っすよ!」


 あっ、いつものバカティアが戻ってきた。


「まあ、いいや。とりあえず明日も……というか当分この先は飛行練習を兼ねて戦闘を行うからよろしく。ちなみに言っとくとただ楽しいから飛行戦闘行ってたわけではないからな?」


「まじっすか?!」


 逆に聞きたいよ……。

 俺が快楽だけを求める人間に見えるか?!


「はぁ……、たまたまかもしれないけど俺は一応、世界で一番強いってことになってるんだからな? ダンジョンでも戦闘でも一度も頭の中を真白で戦ったことなんてないからな? 戦闘経験ってのは要は実験と基礎、応用の練習台なんだよ。本番……所謂自分より格上相手でようやくそれを成果として集約するもんなんだ。要は今回の飛行戦闘は今まで積み重ねた戦闘方法をどこまで違和感なく発揮できるか、逆に飛行戦闘でなきゃ使えない技は何だと考察し、実験し、結果を自分の中で集約してたんだ。そうでもしなきゃ、この世界すぐ死ぬ。オーケー??」


 ティアを含めたここの人たちは何故か俺の言葉を食い入るように聞いていた。


 はあ、らしくない。

 こんなにも熱く俺の考えをつらつらと他人に話すなんて。


「……凄いっすね。もっとちゃらんぽらんな人だと思ってたっす。すいませんでしたっす!」


 俺の熱弁を聞いて、ティアは何故か謝るという選択肢を取った。


「ティア……今、言ったことは忘れて。だんだん恥ずかしくなってきた」


 俺は一言そう言って、居づらくなったテントを後にした。


 長時間の戦闘でアドレナリン出捲くって、そのまま勢いで話しちゃったって感じかな。

 はあ、疲れた。


 寝よ。


 俺はタイミング悪く起きてきたぽんを抱き枕にして、深い眠りへと落ちた。


 ちなみに札幌のダンジョン封鎖は既に完了している。

 最後の方は俺の足止めと数で物言わせた。


 いつの時代でも、個よりも数が重要なんだよな……。


 はあ、最近何か色々考え過ぎかも。

 もう少し自由な生活がやっぱり好きだな。


 ……。

 …………。

 ……………………。


「……さい……ください…………起きてください! Number1(ワン)、起きてください!!」


 物っ凄い、揺らされた……。

 気持ち悪い、酔ったかも。


 ゆっくりと目を開けると、そこには柳ちゃんがいた。


 あれ、これはお約束の……?

 夜這…………。


「起きてください! 緊急連絡が入りました! 東基地が担当している釧路ダンジョンで予期せぬことが起こったようです! 寝ているところ申し訳ありませんが、至急釧路方面へ向かってくださいっ!!」


 その言葉で俺は意識が覚醒した。


「緊急?」


「はい、そうです! 釧路ダンジョンへと向かった龍園事務所の龍園様と新選事務所の飯尾様一行から緊急の応援要請が入りました! 現在、日高から神竜也様と北から淡谷小太郎様がヘリコプターで釧路へと向かわれています! Number1(ワン)も至急、ヘリコプターへ搭乗してください!!」


 まじか。

 新選事務所ってあの小っちゃいイケメンと年上無口少女がいるところだろ?

 それに龍園様って龍園事務所の設立者だろ。


 どっちも結構強かったはずだけど。


 よし、眠いけど行くか!


 俺はベッドから立ち上がり、精霊っ子たちに防具化するように言った。

 そして、テントを出てすぐに仕舞い、ヘリコプターへと…………。


「あっごめん、柳さん。俺、今ヘリコプター無理だわ。おばちゃんの賢者タイム切れてる」


「は?」


 柳ちゃんは最初意味わからなそうに頭を傾けた。

 それから少ししてハッとしたように気付いた。


 そう……。


「俺、乗り物酔い酷い体質なんだわ」


 忘れてはならない最大の弱点、乗り物酔い。

 作戦前におばちゃんに強烈な酔い止め魔法を掛けてもらったおかげで今まで大丈夫だったが、確か昨日で期限切れだったはず。


「ど、ど、どうしましょう?! それは……」


「大丈夫! たぶん飛んだ方が早いから」


 俺はそう言ってアイに翼を出すように指示を出す。


 いつも通り、指輪から大量の紅葉した葉が噴出し俺の体を覆う。

 そして、大きく開く赤い翼。


「で、でも、方角はわかりますか?」


「あっそっか。じゃあ、ティア借りてくね!」


 俺はそう言って、ヘリコプターの近くで準備していたティアを右脇に抱え、空へと舞い上がった。


「それじゃあ、東にはすぐに行くって伝えておいて!」


 そう柳ちゃんに言い残して。


 ビュンッッ。


 釧路へと最大速度で飛び立った。


「ちょッ! えっ?! ストップっすよ~ッ!!」


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― 新着の感想 ―
何がカッコイイ生き方だ 亡くなったご両親に土下座して謝れ
[気になる点] 世間体全く気にしないスタンスなの初めてしったわ 今まで世間体きにして顔隠したり身分明かさんかったやん
[気になる点] 1つだけ。 ヘリコプターには乗車ではなく搭乗かと。 経験者としてです。
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